book429 やさしいダンテ 神曲 阿刀田高 角川書店 2008
 ダンテ・アリギエーリ(1265-1321)の「神曲」は教科書で学んだていどの知識しかなかった。何度か図書館で「神曲」を手にしたが手に負えそうもなさそうに感じ、松本清張著「詩城の旅びと」などの引用やロダン作「地獄の門(国立西洋美術館)」を見て、地獄の様相をおぼろにイメージしたままにしておいた。阿刀田高氏の「・・を知っていますか」を読んだとき、氏が「やさしい」と銘打った「ダンテ・神曲」を書いていることを知りいつかは読もうと思っていた。たまたまダン・ブラウン原作を映画化した「インフェルノ」ではダンテ・神曲が謎解きのスタートだったので、急きょ阿刀田氏のこの本を読むことにした。
 阿刀田氏がいうように確かに優しくまとめてある。第1話にはダンテがフィレンツェを追放された背景・・追放の背景は地獄を訪ねる最中に再三登場する・・、永遠の恋人であるベアトリーチェ、ダンテを地獄〜煉獄〜天国に案内する古代ローマの詩人ウェルギリウスについて紹介しているので、教科書ていどの知識でもダンテと「神曲」に入門することができる。
 ただし、この本には表紙・裏表紙の絵を除いて写真、図がなく、すべて文字である。読み始めてからでもいいから、サンドロ・ボッティチェッリ(1445-1510)の「地獄の見取り図」をインターネットで見ておくと、地獄編の様相がイメージしやすい。第2話ではオーギュスト・ロダン(1840-1917)作「地獄の門」を取り上げているから、ついでに「地獄の門」も上野・西洋美術館かインターネットで見ておくと阿刀田氏の論述が親しみやすくなる。
 ダンテが政治闘争に敗れフィレンツェから永久追放を宣告されたのが1900年代初め、30代半ばで、その後各地を転々とし、1307年ごろから「神曲」を書き始めた。1318年、53才のとき、ラヴェンナの領主がダンテを引き受けてくれたので執筆に全力を傾けることができ、1321年、56才のとき「神曲」を完成させた。ところが、その直後の外交使節の旅の途中で病死してしまう。追放の傷心に加え放浪の旅で心身ともに疲弊していたのかも知れない。
 神曲は地獄編、煉獄編、天国編に分かれていて、ダンテによればそれぞれが層をなしている。地獄は9層の構成で、「第2話 地獄の門を抜けて」で三途の川に相当するアケロン川を渡り、地獄の第1層に踏み込む。地獄の9層は漏斗状で、螺旋を描きながらより厳しい責め苦が待ち受ける下層に向かって降りていく構造になっている。第2話から第6話が地獄の旅で、ダンテは壮絶な地獄のありさまに何度も気を失う。
 ウェルギリウスに力づけられ、なんとか地獄を抜け、南半球の孤島に着く。この島に煉獄山がそびえている。煉獄は二つの丘と七つの層で構成されていて、第7話では厳しい山道を登り、二つの丘を越えて、煉獄の門に入るところまでが描写されている。煉獄は地獄と天国のあいだにあり、罪が浄化されれば天国に入ることができるそうだ。第8話では第1層から第6層に入るまでが描かれていて、第9話で第6層を抜け、第7層に来ると、川の向こうの光のなかにベアトリーチェが現れる。ベアトリーチェは・・ここに幸福のあることを知らなかったのか・・私が去ると邪道に迷い込み・・厳しく懺悔せよ・・と諭す。懺悔したダンテはマチルダに導かれ、レテ川で清め、エウネ川の水を飲み、煉獄を越える。
 第10話〜最終話が天国である。天国は12に光の輪が2層になった構造らしい。地獄〜煉獄でも神の教えが語られるが、とりわけ天国では聖書に基づいた神の教えが説かれていく。光の輪のなかにあって、ダンテは次第に真実が神の愛であることに気づいていく。p287・・ああ永遠の光よ、あなたはあなたの中にのみあって、あなただけがあなたを知り、知って知られて、あなた自身を愛してほほえむ・・を実感する。そしてダンテの旅が終わる。
 分かりやすく要約してくれた阿刀田氏の本をさらに印象だけでまとめたから原書の「神曲」には及びもつかないが、著名な著作や芸術、美術で「神曲」が引用されたり、テーマにされることがおぼろに理解できた。「神曲」は無理だという方にこの本はおすすめである。
目次を転載する。
第1話 崇高な片思い
第2話 地獄の門を抜けて
第3話 ギリシャ神話を交えて
第4話 亡者がうじゃうじゃ
第5話 予言のからくり
第6話 三人の極悪人
第7話 煉獄の丘を越えて
第8話 愛と自由な意志
第9話 ベアトリーチェの怒り
第10話 魂は輪になって踊る
第11話 神学の見た宇宙
最終話 薔薇の円形劇場へ  (2016.11読)