book438 暗殺者の鎮魂 マーク・グリーニー ハヤカワ文庫 2013
 暗殺者グレイマンを少し前に読んだ(book435)。ヨーロッパを舞台に、襲ってくる秘密工作員を次々と倒しながらノルマンディーに監禁されている双子姉妹を助け出す物語だった。背景には巨額の利権が絡んでいるが、だからといって社会悪を正すといったメッセージは込められていない。双子姉妹を助け出すために、襲ってくる敵と壮絶な戦いを繰り返す活劇である。その活劇はテンポが良く、臨場感があり、次々と頁をめくってしまう。ベストセラーになったのもうなづける。しかし、著者のメッセージがうまくつかめなかったので、2冊目を読むことにした。2作目の「暗殺者の正義」はロシア・マフィアとの戦い?、3作目はメキシコが舞台で麻薬カルテルとの戦いである。「犬の力」(book431)もメキシコの麻薬カルテルとの戦いだった。メキシコの惨状を別の角度から見ようと、3作目の「暗殺者の鎮魂」を読んだ。
 原題Ballisticの直訳は「弾道の」になる。銃器に縁のない日本では理解しにくいと思ったのか、訳者は「暗殺者の鎮魂」とした。
 暗殺者グレイマン、本名ジェントリーは2000年にラオスで囚われた麻薬捜査官のエデュアルド・ガンボア=エディー・ギャンブルの救出を指令されたが、マラリアに感染して倒れ、同じ監房に閉じ込められてしまった。二人で脱出を図るが、ジェントリーはマラリアのためほとんど動けない。エディーはジェントリーを草むらに隠したあと、一人で逃げられるにもかかわらず、反政府勢力の応援を得てジェントリー救い出す。九死に一生を得たジェントリーはエディーにいつか恩を返したいと決意する。
 エディーはその後メキシコに帰り、連邦警察特殊作戦GOPESの少佐として麻薬と人身売買を取り締まっていた。そして、麻薬カルテルの頭目であるダニエル・デ・ラ・ロチャを倒そうと、部下7名とともにダニエルの持ち船を強襲するが、情報が漏れていて、船に仕掛けられていた爆薬でエディーと部下5名が爆死する。ジェントリーはそのニュースをグアテマラで知り、エディーの墓参りをしようとメキシコに向かう。その後、ジェントリー+エディーの残された家族とダニエル+麻薬カルテルの壮絶な戦いが始まり、多くの犠牲を払いながら、ジェントリーが勝ち抜く展開である。
 ジェントリーがエディーに恩を返す展開であり、訳者が「暗殺者の鎮魂」としたのはうなづける。
 冒頭は、アマゾンの奥地に隠れていたジェントリーをマンハンターが見つけ出すところから始まる。マンハンターの指示で、殺し屋がジェントリーを襲ってくる。あらかじめ避難路を準備していたジェントリーは殺し屋に大打撃を与え、逃げ切り、ホテルで指示を出していたマンハンターを倒す。ジェントリー暗殺の指示はロシア・マフィアからだった。これは2作目と関連しているのかも知れない。ただし、この冒頭と、後半のエディーの死、ダニエルと麻薬カルテルとの戦いは無関係である。グリーニーの本はやはり分かりにくい。
 ジェントリーは、エディーの墓の前で身重のエディー夫人エレナに出会う。エレナの家に招かれて、エディーの妹ラウラ、エディーの両親たちと夕食をともにする。翌日、太平洋に面した港町プエルトバリャルタの広場でエディーと部下たちの追悼式が開かれた。そこにダニエルと警護部隊が現れる。生き残ったエディーの部下2人がダニエルを狙撃するが、ダニエルは高性能の防弾着を身につけていて助かる。ダニエルの配下、ダニエルに買収された警察官が、壇上で追悼しているエレナや亡くなった部下の家族たちに向かって銃を乱射し、多数の死傷者が出た。この銃撃戦からエレナたちを救おうと、ジェントリーは4階から電話線にぶら下がり、広場に飛び降りる。
 ジェントリーは、銃撃戦からエレナやラウラたち、ガンボア一家を助け出し、エレナの家に戻る。一件落着したので、ジェントリーは家を出るが、エレナたちが心配で戻ってくる。暗殺者グレイマンは義理堅く、情にもろい。
 エレナの家が警察、陸軍に見張られ、このままだとダニエルに引き渡されてしまう、といったときにエディーの生き残った2名の部下が現れ、直面する危機を回避する。急ぎ、避難しなければならない。家族の延々と続く議論を我慢しながら、とりあえずの作戦を練ろうとする。暗殺者グレイマンは命令や指示を受け、単独で行動してきたので、みんなを統率し、指令するのが苦手である。
 ジェントリーたちは大型車に乗り、ダニエルの目から隠れられるはずのラウラの義父母の農場に向かう。しかし、地元市警もダニエルに買収されていて、隠れ家が露見する。第1波、第2波の攻撃を何とかしのぐが、買収された海兵隊、連邦警察に農場を包囲されてしまう。絶体絶命の危機をどう乗り切るか。なんとジェントリーは敵の装甲指揮車を乗っ取り、農場からエレナ、ラウラたちを助け出す。
 ジェントリーは、メキシコシティのアメリカ大使館員に偽造書類を作らせ、エレナたちをアメリカに脱出させようと考えた。しかし、アメリカ大使館員はダニエルにこの情報を流してしまい、ジェントリーとラウラが囚われてしまう。拷問を受け、死を覚悟したジェントリーはこの絶体絶命の危機をどう乗り切るか・・・。
 ジェントリーに次から次へと絶体絶命の危機が降りかかってくるが、あわやというところを切り抜け恩義を果たす展開についつい引きずり込まれる。それにしても、メキシコが麻薬カルテルに牛耳られているのは事実らしい。第2、第3のエディーの登場を期待したい。(2017.4)