book446 ふたりで探偵 平岩弓枝 新潮文庫 1990
 スリランカを舞台にした平岩弓枝(1932-)著「青の伝説」に続いてこの本も読んだ。8つの短編が収録されている。順に、「ローマの蜜月」「スリランカの殺人」「チュニジアの新婚旅行」「ロアールの幽霊」「ハワイより愛を込めて」「ニューヨーク旅愁」「香港の満月旅行」「箱根・冬の旅」である。
 主人公は人気の旅行社添乗員森加奈子と夫の旅行記作家池永清一郎の二人である。実は池永は乗り物が苦手で電車、バスも絶えられない設定である。長距離の移動や海外旅行は考えただけでも苦しくなるらしい。それで旅行記作家?ということになるが、実は妻の加奈子が添乗したツアーでの詳細な記録と記憶、旅先の資料などをもとにすべて想像で旅行記を書き上げてしまう。それは、加奈子もびっくりするほどリアルで、情感にあふれていて、自らの体験をもとにまとめたかのような出来映えのため、人気旅行作家として売れっ子だそうだ。
 8つの短編のタイトルからも想像できるように、平岩氏は旅好きなようだ。自分で魅力的なところに出かけ、そこでの見聞をもとに構想して物語を練り上げる。その旅好き+作家という性分を加奈子と清一郎に分けて本にしたのが「ふたりで・・」といえよう。加奈子+清一郎のふたりあわせると平岩氏ということである。「・・探偵」と題しているように、どの短編も事件が起き、加奈子の見聞をもとに清一郎が解き明かす構成である。加奈子は見聞や推測はするが、推理はしない。推理は清一郎の分担、というより性分であろう。これも加奈子+清一郎=平岩氏ということのようである。
 それぞれの短編は独立していて脈絡も、時間的連続もない。登場人物も加奈子・清一郎の二人を除き、まったく無関係である。加奈子+清一郎に時間経過をつけると、物語がもっと身近になったように思う。たとえば、4月に二人が結婚して間もなく添乗したローマ、6月はスリランカの添乗、国際電話からは同じぐらいの暑さが伝わる、8月はからからに乾いたチュニジアの添乗、・・・結婚1年目に覚悟して箱根のふたり旅・・などの時間経過を設定すると、読者も一緒に添乗し、あるいは清一郎になって推理した気分になって、ふたりの探偵に親近感を覚えるのではないだろうか。
 「青の伝説」では次々と人殺し、行方不明が起きたが、「ふたりで探偵」では殺人は少ない。代わって、ほぼ全編が離婚騒動、夫婦問題である。海外ツアーに新婚旅行が多いことや、そのころ夫婦関係、離婚騒動が社会問題化していたせいであろうか。この本を読んだ2017年も政治家や芸能人の不倫が連日のように報道されている。だから、不倫、別居、離婚・・などは日常のことかも知れないが、設定が少し行き過ぎに感じた。あるいは私がそうした週刊誌的な話題に関心が低いせいかもしれない。いずれにしても、信義を平気で裏切るような人間関係は私の好みではない。
 「ローマ・・」はパリ3泊、ローマ2泊のツアーの添乗で、新婚4組、夫婦、友人同士、姉妹と一人参加の浅野の15人参加だった。帰国後、浅野が2000万円の預金通帳を持ち出し、ホテルで心不全を起こして亡くなる。この話を聞いた清一郎が真相を解き明かす。清一郎が謎解きするまで、結末がまったく予想できなかった。清一郎に謎解きされて、いくつか伏線が張ってあったことに気づいた。推理好きの私にも伏線が読めなかったから、平岩氏の展開に脱帽するが、平々凡々の暮らしを送っていると、とてもこの展開にはついて行けない。浅野はやり手の奥さんにまったく頭が上がらない。ひそかにキャバレーの女とつきあいだし、その女と1年に一度の海外旅行に出かけるようになった。旅行中、同じ部屋だとばれてしまうので、女はバーテンと二人で参加し、夜はバーテンと浅野が入れ替わったそうだ。ところが、バーテンが奥さんに女のことをばらすぞと、2000万円を脅し取った。浅野は大金を渡したことで?、先行きが不安になり?、心不全を起こしてしまった、という展開である。現実離れしているように思うが。
 「チュニジア・・」も私には想像つかない展開だった。チュニジアツアーには10人が参加、高齢者が多く、やや高価なツアーのようだ。一人参加の小林光代はまだ若い。同じくまだ若い高村孝夫も一人参加である。チュニスを観光しているとき、加賀尾政子という老夫人が一人で困っているのに出会わす。政子は息子裕一、妻千花子の新婚旅行についてきたそうだ。あとで考えればこのあたりがすでに怪しいが、私は気にせず読み進めた。千花子は政子が選んだ嫁だったが、異常なほど政子に冷たい。ついに政子は堪忍袋の緒が切れ、ツアーの人々と同行することになり、光代が親切にする。政子が驢馬にぶつかりチュニスの病院に入院することになったときも、光代が献身的に介護する。政子は冷たくあしらう千花子を先に一人で帰国させ、裕一と光代が介護に当たった。後日談、裕一と千花子は離婚し、おって裕一と光代が結婚することになる。千花子も高村孝夫と結婚しレストランを開店する。つまり、もともと高村と千花子、裕一と光代は恋仲だったが、政子の強引さに逆らえなかったため、裕一と千花子が契約して結婚し、千花子が政子に冷たくし、光代が親切にして、千花子の離婚、光代との結婚を同意させるという展開である。やはり現実離れしているように思うが。
 奇想天外さが小説家の醍醐味だろうから、これはこれで良しかな。(2017.7)