2001大宮のまちづくり「大宮駅東口再開発事業を見直す」大宮市公共事業評価監視委員会
 
 2017年、大宮駅東口の再開発が本格的に動き出した。その一環として中央デパートが解体された。詳しくはさいたま市ホームページを参照されたい。
 遡ること17年、そのころ都市計画決定された公共事業の見直しが始まっていて、大宮市でも公共事業評価監視委員会が設置され、私も委員を仰せつかった。審議内容は大宮市情報公開条例にもとづいてホームページなどに公開されたが、委員の立場から審議経緯の概略を私のホームページに紹介したあったので、改めてひもといた。
 まず2001年当時の朝日新聞を抜粋し、結論を紹介する。
 JR大宮駅東口再開発事業は休止/大宮市公共事業評価監視委員会の初会合があり、JR大宮駅東口再開発事業を「休止」し、計画を見直すことを決めた。この再開発事業は駅東口の商店街などが密集する約2.4fに商業ビルや広場などを整備する計画で、1983年に都市計画決定された。地権者は約200人いて反対意見もあり、バブル経済の崩壊もあって、都市計画決定から17年たっても事業が進展せず、建設省の見直し基準の一つである「事業採択後5年間を経過しても未着工」に該当したためである。初会合には委員6名が出席し、「話し合いでは地権者の意見を十分に反映させること」「経済活性化に加え、まちとしての魅力づくりを考えるべきだ」「地権者以外の市民や県民の声を反映させるべきだ」などの意見が出され、市の「2002年度末までの期限を設けて再開発を休止し、その間に計画の抜本的見直しを行って事業を再構築する。適切な代替案が得られれば、現在の計画は白紙撤回する」方針案を採択した。
 以上が朝日新聞報道の概要である。
 公共事業見直しのきっかけは、2000年、自民党・公明党・保守党による「公共事業の抜本見直しに関する三党合意」が決定され、次のことを含む要望が政府に出されたことによる。
@採択後に5年以上経過して、未だ着工していない事業
A完成予定を20年以上経過して、完成に至っていない事業
B現在、休止(凍結)されている事業
C実施計画調査に着手後10年以上して、採択されていない事業
 2000年時点で、該当する事業は建設省102、運輸省61、農水省70、計233事業だそうだ。
 建設省はこれらを踏まえ、次のDの基準を独自に加えて、都道府県に事業再評価監視委員会の開催を要請した。
D事業採択後20年以上経過した後も継続中であり、当面事業の進捗が見込めない事業等(これに該当する事業は34)
 この背景について、三党合意文書では、「我が国の社会資本整備の歴史は欧米諸国と比べて浅く、整備水準も依然として立ち遅れている現状にある。社会資本の整備を図る公共事業は安全で豊かな国民生活の実現や、均衡ある国土づくり・地域づくりを推進し、人・もの・情報の流れを円滑にする等、効率的な経済活動を営むためのものとしてこれまで大きな役割を果たしてきた」とし、「今後とも社会資本整備を計画的にかつ着実に進めていく」必要を述べたうえで、「公共事業の配分比率の硬直化や事業の長期化などにより、経済社会の変化や時代のニーズに必ずしも適応したものになっていないとの強い批判がある」ので、「現在の公共事業のあり方を効率化・透明化、さらには事業の重点化を進める根本的な見直しを行い」、「21世紀にふさわしい公共事業の姿を求める」ことが肝要であり、三党は公共事業の見直しについて検討し、合意したと述べている。 このような合意ついて、表題の「公共事業の抜本見直し」にもあるように、従来、公共事業がこのように抜本的に見直されることがなく、積極的に見直そうとすることは評価したい。が、背景に述べられている内容には、建築計画の立場からも、一住民の立場からも異議がないわけではない。例えば、明治維新以来、国の根幹の目標を欧米におき、追いつき、追い越そうとしてきた発想がいまも続いているのは、実に残念でならない。ヨーロッパはその土地の特質のもとで1000年なり2000年なりの文化をはぐくみ技術を発展させてきた。百歩譲って欧米に目標をおくとして、日本がどれだけの資本を蓄積できたのかは分からずとも、まったく異なった土地がらの日本ではぐくまれた文化と技術を欧米のものとそっくり入れ替えるほどの備蓄はなかろうし、もし、そっくり入れ替えることができたとして、それでは日本が消えてしまおう。(注、ここでいう「日本」は国家や国境をイメージしているのではない、それぞれの土地にはぐくまれた文化をイメージしている。) 明治維新では目標が欧米であってもやむを得ないとして、何故に、いまも欧米をものさしとした基準で国土づくり・地域づくりを推進しようとするのであろうか。21世紀にふさわしい公共事業は、日本にふさわしいものさしを基準に構築すべきであり、三党合意では、日本にふさわしい公共事業像から説いてほしかった。残念でならない。
 さらにいえば、公共事業の主役は住民であるはずで、公共事業はそれぞれの公共事業にかかわる住民によく理解されなければならない。確かに住民の立場、考えは多様である。古くから住んでいた人、新しく住み始めた人では意見が異なることがある。動物や植物の声も聞く必要があると思う。むろん、実際に聞くわけではなく、動物や植物との共存を模索した公共事業のことである。国会議員や地方議会議員は住民代表としての立場から大局的な意見があるかもしれない。庶民は身近な生活からの発想で発言することが多い。多様な立場、多様な意見のどこに重きをおけばよいかは難しい。これまでの公共事業の計画決定では難しさを嫌い、「すべての住民の理解を得る」ことを避けてきたふしがある。「効率」が優先されすぎ、資本の論理に偏りすぎたのではないか。公共事業の原点は住民が主役であることであり、住民がすべて理解するまで等しく情報を共有し、十分に時間をかけて合意をかたちづくることが基本でなければならないと思う。この点も三党合意の始めに述べてほしかった。
 しかし、何よりも残念なことは、三党合意以前に公共事業の見直しに建設省が動き出さなかったことにある。都市計画マスタープラン策定などにみられたように、住民による都市計画が本来的であるとの認識を示しながら、すでに都市計画決定し採択された公共事業に対して、それが長期的に硬直化し、住民からの反発も高く、見直すべき現実を前にしながら、なぜに躊躇してきたのであろうか。官僚はその先端技術を身につけたエリートであってほしい、技術は住民のために行使されるべきであり、エリートは住民の先陣であってほしい、と願っている。21世紀にあっては、住民のための住民による公共事業をリードしていただきたい。
 本題に入る前に話が長引いてしまった。建設省にリストアップされた見直すべき公共事業の一つに、「大宮市東口地区市街地再開発事業」がある。事業採択は昭和58(1983)年で、経過年数18年のため、@採択後に5年を経過して未着工の事業に該当し、10月に大宮市公共事業評価監視委員会が開かれた。
 当初の事業目的は「大宮駅前地区を魅力的で活力あふれた都市として創出するため、都市施設の整備に併せて適切な土地利用を行う」ことであり、その必要性について「県下最大の商業・業務都市として発展してきたが、インフラ整備が追いつかない状況下においてその整備と併せながら、駅前地区として土地の効率的かつ健全な利用を図ることが求められている」ことをあげている。事業内容は、施行区域面積2.4f、公共施設として大宮駅東口交通広場・銀座小路線・交通広場を含む、延べ面積67300平方b、総事業費3億8900万円(当時)の計画であった。
 大宮駅東口再開発事業に関する大宮市公共事業評価監視委員会は公開で行われ、まず、昭和58(1983)年に採択された事業概要が説明された。
目的/大宮駅前地区を魅力的で活力あふれた都市として創出するため、都市施の整備に併せて適切な土地利用を行う
必要性/県下最大の商業・業務都市として発展してきたが、インフラ整備が追いつかない状況においてその整備とあわせながら、駅前地区として土地の効率的かつ健全な利用を図ることが求められている
効果/大宮の発展の歴史の中心である駅東口の玄関口として、駅前広場等のインフラ整備と併せて商業・業務機能の向上を行うことにより、周辺のまちづくりへの波及効果が生じ、大宮都心構想の実現が期待できる
事業内容/施行区域面積 約2.4ha、総事業費 約38,900百万円、公共施設:大宮駅東口交通広場・銀座小路線・交通広場、建築物:建築面積 約6,700u、延べ面積 約67,300u
 当時の様子は、その後18年たっても事業は実施されなかったのでほぼ現況と同じであり、中低層の建物が混じり密集した市街をなしている。当初の計画では、東口駅前に階上デッキを設け、駅前を現在よりも広げた交通広場とするとともに駅への進入路を拡幅し、既存の店舗・事務所などの密集地に代わって高層ビルを建てる予定であった。ところが、昭和58年の都市計画決定の際、多数の反対・賛成意見が出され、市都市計画審議会会長と市長とのあいだで次の『覚書』が交換された。
大宮都市計画案について(覚書)/「大宮駅東口再開発事業については、公共施設等の配置を含め、同事業の権利者および周辺関係者の意見が充分尊重されるよう配慮して執行にあたるとともに、事業決定を行うに際しての権利者の合意については、組合施行に準ずるものとする」
 また、大宮駅東口再開発を考える会から市議会議長に請願書が出され、趣旨採択された。市では、覚書・請願の趣旨にそい、権利者および周辺関係者の意見を尊重するため話し合いを試みてきたのだが、合意形成の糸口がつかめないまま現在に至ったそうである。加えて経済不況の影響もあり、保留床の処分先の見通しがたてにくく、また地価が下落傾向を続け、開発意欲、投資意欲が減退していることも、事業実施にブレーキをかけたようである。
 しかし、大宮市としては、@建物が老朽化していて早期の事業化を望む声もあり、A反対する方も自らの意見を尊重する新たなまちづくり手法に関心を示しており、B3市合併、その後の政令指定都市移行を控え百万都市の顔として、また駅前交通結節機能の改善を進める必要から、C手法の変更、区域の変更も含め、権利者等の参加と協力により抜本的な見直しを図り、事業の再構築を進めたいとし、次のような提案が公共事業評価委員会に出された。
市の提案
対応方針案/休止
対応方針案決定の根拠/業務核都市である大宮市の大宮駅東口地区では、高次な都市機能の育成が求められていることから、当地区のインフラ整備と土地の効率的かつ健全な利用を図ることが急務となっている。多数の複雑な権利関係にある当地区については、公共施設や建築物の整備を行うための事業として、市街地再開発事業が最善な方法と考えていたが、社会経済情勢の変化に対応し、政令指定都市の顔としてふさわしいまちづくりを進める観点から、期限(平成14年度末)を設けて現計画の抜本的見直しを行い、関係権利者の意向を尊重し、事業手法等を含めた事業の再構築を図ることが必要と考えているので、休止とした。なお、見直しした結果については、新市の公共事業評価監視委員会に諮問し、意見をいただくものとする。
 審議では、まず「継続・休止・中止」の定義について説明を求めた。これに対し、「建設相の通達では、継続・休止・中止の3つで諮ること、休止・中止には、事後の措置を含めること」となっており、「休止とは、一時事業を止め、その間に事業手法、区域を含めて計画内容の見直しを行う」こととの答えであった。通達の範囲で審議をするのであるからやむを得ないが、「見直し」など明確な言葉を用いた方が混乱は少ないと思う。市民感覚でのまちづくりを目指すなら、こうした言葉の使い方から注意して欲しいと感じた。
 対応方針案についての質疑を終えたところで、私は以下の意見を述べさせていただいた。「原案の休止について賛成。ただし、@住民参加のまちづくりを強くアピールし、名実ともに住民参加をすすめること、A少子高齢社会の進展のなかで住民が住みたい場所を選別する動きが強まる、大宮あるいはさいたま市の魅力づくりを進める必要があること、B平成14年度末と期限をきっているが2年ですべての計画を練り直すのは難しいのではないか、住民参加のワークショップなど、時間をかけて合意を形成するべきである、そこで大枠・細目など、2段構え、3段構えのまちづくりを考える必要があること、C大宮駅東口は、大宮市民、あるいは埼玉県民にとっても重要な都市空間である、関係権利者の意見は十分に尊重されなければならないが、大宮駅東口の位置づけや具体的な計画に市民、県民の意見も反映させること、D合意形成には情報の共有が重要であり、ホームページなど、情報公開、意見交換の機会をつくること」に配慮をお願いしたい。
 他の委員からも、休止賛成と付帯意見が述べられ、委員会としては、下記の意見書として「休止」を了承、市に答申をした。平成144年度末と時間は限られているが、情報を共有し、ワークショップなどを積み重ね、住民参加のまちづくりを実現していただきたい。
意見書/対応方針案である「休止(平成14年度末と期限を設けて、現計画の抜本的見直しを行い、権利関係者の意向を尊重し、事業手法等を含めた事業の再構築を図る)」を了承する。
 なお、委員会としては、以下の意見を付け加える。
「関係権利者の意向の尊重」について、関係権利者の意見を幅広く、公正に取り入れ、その方法についても関係権利者の意見を十分に反映させること。また、「現計画の抜本的見直し」の進め方について、関係権利者の意見を十分に反映させること。さらに、見直しにあたっては、新しいまちづくりの観点から住民参加でこれを行い、その見直しの経過の公開に努める。(2001.10)