2006「国土形成計画策定に向けて」日本建築学会農村計画委員会
 
 平成17(2005)年7月、国は総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法の一部を改正する等の法律(国土形成計画法)を公布した。これは、昭和37年以来続けられてきた全国総合開発計画を見直し、開発中心から転換して成熟社会にふさわしい国土の質的な向上を図ろうとすることが目指され、平成17年9月から全国計画の検討が始められ、平成18(2006)年11月に国土審議会計画部会の中間とりまとめがなされた。
 国土交通省ではさまざまな分野の考えを採り入れたいと、日本建築学会で懇談会がもたれた。農村計画委員会も同席し、その後、農村計画委員会独自で国土交通省と意見交換を行ったうえで、農村計画委員会ならびに各小委員会で議論を重ね、平成18年7月に「国土形成計画策定に向けて/日本建築学会農村計画委員会からの提案」を日本建築学会を通じて国土交通省に提出した。
 2007年の日本建築学会大会は福岡大学で開かれることから、農村計画委員会はこの国土形成計画への提案を念頭に、2日目の午前にパネルデスカッション「誰が守る九州の美しむら」、同日午後に協議会「いかに美しい国土(くに)をつくるか」を開催する予定で企画をつめているので、国土形成計画への提案を紹介したい。
 
重点テーマ@「安心して住み継げる故郷(くに)づくり」
方針1 多元的な自立地域社会の構築
 町村合併による地域社会の広域化が進んでいる。道州制の議論もある。対して、高齢化、過疎化のもとで身近な徒歩生活圏が重要になっている。
・合併市町村の行政単位、あるいはより広域な行政単位とまちづくり・むらづくり構想
・旧村ほどの大きさの自治・行政単位と地域づくり構想
・身近なまとまりの地域コミュニティ単位と地域づくり構想 
 など、多元的、多層的な自立地域社会の構築と地域住民によるまちづくり・むらづくり構想を目指す。
方針2 地域コミュニティの再編と新たな地域自治組織の形成
 集落の人口減少、高齢化による自治機能や土地利用の維持・管理機能の低下が進んでいる。多元的な自立地域社会の構築のもとで、過疎地域を広域化し居住地を集約化するなどの新たな地域コミュニティの再編成と、伴って新たに地域自治を担う組織の形成を目指す。
・低密度居住地域の特性に応じた地域システムの構築
・集落再編計画の策定
・新たな地域自治組織の形成
・高齢化に対応した生活空間のバリアフリーデザイン
・農村コミュニティの活性化
方針3 複居住拠点をもつライフスタイルの社会的認知と支援
 農山漁村集落住民の都市居住志向は依然として高い。一方、都市居住者の潜在的な農山村居住志向は決して低くない。農山漁村での空き屋発生のみならず、都市近郊団地の空洞化の懸念もある。農山漁村・都市、それぞれの利点、魅力を享受できるライフスタイル、多様な価値観時代のライフスタイルを支援できる複居住拠点ライフスタイルを目指す。
・夏山冬里型のライフスタイルに応じた居住システムの構築
・農山漁村新規居住希望者への居住支援体制
・都市近郊地域での優良な田園住宅地の形成
・近郊団地の再生・活用計画
・複居住を担保する生活諸サービスの統合的ネットワークデザイン
・複居住者を含めた地域マスタ−プランづくり
方針4 新たな市町村互助ネットの構築
 多発する自然災害に対し安全・安心な国土形成は急務である。新潟県中越や福岡県玄界島などの中山間等、農山漁村集落の復興、再建が話題になっているが、農山漁村に限らず都市も含めた安定的、持続的発展を担保する自治体互助ネットの構築を目指す。
 この互助ネットは、地震、洪水、山崩れなど多様な災害のリスクの異なる地域の組み合わせにより、日常的な交流をベースに非常時に助け合うネットワークシステムのほかに、複居住を担保する互助ネット、地場産業育成支援互助ネットなどの多様なネットシステムにより、日常的に自立地域社会の形成を支援する。
 また、自治体相互にとどまらず、複数自治体が連携した互助ネット、広域互助ネットも想定される。
・自治体互助ネットの構築
・災害支援互助ネット
・産業支援互助ネット
方針5 地場産業空間としての農山漁村地域の活性化
 農山漁村は、食糧供給(いまや国内食糧自給率は40%を切ろうとしている)のみならず、生活物資、水源、空気(炭酸ガス固定を含め)を供給し、国土を保全してきた。農林漁業の活性化なくして、農山漁村、ひいては国土、国民を守れない。地場産業空間としての農山漁村の活性化を目指し、住み継ごうとする人々の生活を担保する。
・農林漁業・地場産業・環境型産業の育成支援
・農林漁業・地場産業・環境型産業の担い手・後継者、新規参入者の育成
・中山間地等直接支払制度などの継続・充実
・グリーンツーリズム、エコツーリズム等の環境型産業の育成
 
重点テーマA「美しさを育む国土(くに)づくり」
方針1 農山漁村の景観資源の掘り起こしと保全・継承
 農山漁村景観は、その土地の自然を読み取り、人々の叡智を傾けて構築されてきた。その美しさは日本人の美に対する感性を育て、自然応答の知識・経験は日本の文化を形づくってきた。農山漁村の景観資源を掘り起こし、再評価し、国民の共有資産として保全・継承を目指す。
・生態学的、水門学的、美観的、歴史的、地域史的、民俗・生活史学的、建築的、生業史的、等、多様な観点にたった農山漁村景観資源の掘り起こし
・伝統的地域景観の保全・継承
・伝統技術・伝統文化の保全・継承
・自然と共生する知の学びと継承
方針2 生命循環環境としての農山漁村地域の保全
 農山漁村は、1次自然の一部に自然応答型の技術で手を加えた2次自然空間で生産・生活を営んできた。そのため、農山漁村には生命循環が保たれ、生物多様性が保持されてきたてきた。生命循環系を保全し、生物多様性を保証するのは人間の責務であり、同時に自然の豊かさと自然を育む責務を広く伝える必要がある。農山漁村とそれを囲んでいる生命循環環境の保全を目指す。
・1次自然空間の保全と国民への啓発
・2次自然空間としての循環型農山漁村の保全
・流域エリアごとの生態系保全と流域エリアに適した農林漁業の育成
・耕作放棄地・放置林、災害で破壊された自然環境、災害防止の土木工事等における環境型補修・保全
方針3 担い手の育成拡大と知の伝授
 農山漁村の景観は、人手をかけることで保全できるので、景観保全のための支援を諸施策に位置づけ、担い手の拡大を図る。自治体互助ネット、あるいは都市農村交流を通し、農山漁村の美しさ、生命循環環境としての農山漁村を啓発し、担い手育成を支援する。新たに育成された担い手は、経験豊富な担い手から自然応答の知と経験の蓄積を学び、その意義を次の担い手候補に伝える機会を用意する。新たな担い手による美しい景観形成への提案や産業振興へのリンクも期待される。
・担い手の育成・拡大の支援
・自然応答型技術の伝授
・グリーンツーリズム・エコツーリズムなどの都市農村交流による景観資源の補修・育成
・美しい景観と知のアーカイブ発信とアジア・国際連携
方針4 景観資源の育成と農山漁村の活性化
 農山漁村の美しい景観は、農林漁業の結果として形づくられてきた。農山漁村の美しさは農林漁業の発展、農山漁村の活性化によって保持することができる。それぞれの地域に固有の景観資源の美しさを育成し、それを活用した農山漁村の活性化を目指す。
・生命環境としての1次自然景観の保全とエコガイドの育成
・文化的景観としての2次自然景観の保全とエコガイドの育成
・伝統文化・景観資源と産業振興・交流のリンケージ
・景観資源を活用した環境型産業、エコビジネスモデルの構築
 
共通方針 施策展開のための行政システムの提案
・農山漁村集落のモニタリング(定点観測)体制の構築
・農林漁業統計(センサス等)における地域振興の観点からの調査項目設定
・行政施策効果の評価検証体制の充実・精緻化
・補助金の運用方法の見直し
・NPO、ボランティアに対する支援組織(中間セクター)設立への支援
・水源税、環境税等の動きと直接支払い等既存制度のリンケージ
・社会資本としてのむらづくり・むらおこし情報の整備(2006.7)