2011年 宮代のまちづくり 「公共施設マネージメント計画」
宮代スタイルによる公共施設再配置の提案
 
公共施設マネージメント計画の必要性
 毎日の暮らしに保育園、幼稚園、学校、行政施設、図書館やホール、福祉施設、公園などの公共施設、道路、橋、水道、下水道などのインフラは不可欠である。
 公共施設やインフラを正常に機能させるには保守管理が欠かせないし、耐震性を高め、最新の機能を取り入れるには改修が必要になる。老朽化すれば作り替えなければならない。そのための財源を確保しなけらばならない。
 埼玉県宮代町では、1960年代〜の高度経済成長期人口増加が続き、行政需要が増え、公共施設やインフラ整備が集中的に整備された。それから50年経ち、公共施設やインフラの老朽化が進んでいる。その一方、少子高齢化が進み、町の財政力は減衰傾向にある。
 そこで、財政を健全に保ちつつ、良好な生活に欠かせない公共施設・インフラの維持・更新を長期的に展望する公共施設マネージメント計画を検討することになった。
 有識者、公募町民による7名の委員会が組織された。2011年4月から6回の会議、および現地調査、ワークショップを重ね、今後の公共施設のあるべき姿を「宮代スタイルによる公共施設再配置の提案」としてまとめて、12月に「公共施設マネージメント計画」を答申した。
 
「公共施設マネージメント計画」目次
1.はじめに
T 現状分析
2.公共施設整備のあゆみ
(1)第1期学校施設の増加
(2)第2期施設の多様化
(3)第3期修繕・改修・更新
3.本計画で検討対象とする公共施設
(1)公共施設の区分
(2)検討対象の公共施設
(3)現在の公共施設の地域的な配置状況
4.公共施設を取り巻く課題
(1)社会構造の変化〜少子高齢化社会への対応
(2)町の財政力では賄いきれないこと〜東洋大学PPP 研究センター報告書
(3)今後の公共施設運営のヒント
(4)資産運用
5.公共施設の現状と課題
(1)利用状況
(2)管理運営コスト
(3)資産価額
U 今後の公共施設のあるべき姿
6.未来志向の公共施設再編を
(1)課題整理
(2)公共施設再配置の基本的考え方
7.公共施設の再配置
(1)地域コミュニティ活動の活性化、地域づくり(第4 次総合計画)
(2)施設配置の考え方〜機能分担
(3)小中学校の更新と再編
(4)利用者の声市民ワークショップから
(5)公共施設再配置計画・工程(モデル)
(6)地域の中心施設の設置
8.効果と検証
(1)再編モデル案
(2)学校敷地の検証
(3)財政効果の検証
(4)検証結果の整理
9.実行に向けて
公共施設現地調査レポート
公共施設マネージメント会議の記録
 
会議での発言要旨 6回の会議での私の発言の一部
公共施設更新に関するメモ/2011.5
公共施設の更新をいつ、どのような理由で判断するか
1 資産価値(評価額?)が限りなく0に近づいたとき
2 施設の安全性が損なわれ使用に耐えないとき (耐震基準の変化、土壌汚染の発見、使用材料の発ガン性・・・など)
3 施設の性能が大きく損なわれて使用に耐えないとき (雨漏り、すきま風、設備の老朽化、仕上げの老朽化・・など)
4 住民=利用者ニーズに対し施設の機能が著しく対応できなくなったとき (少子化による空き教室、社会施設に対するニーズの変化、乳幼児が多ければ子育て支援施設や児童館が必要だが、高齢化が極端に進めば高齢者福祉施設が必要・・・など)
5 以上が単独で起きるか、複合して起きるかによって判断が異なる
6 施設の一部で発生するか、施設全体で発生しているかで、判断が異なる
7 建物で起きているか、敷地=土地(土壌汚染や洪水などの警戒区域、地の利が悪く利用しにくいなど)で発生しているかで、判断は異なる
→更新判断チェックリストをつくる必要がある
→典型事例で更新判断モデルをつくるのも一つの方法
 
公共施設更新に関するメモ/2011.5
公共施設更新の考え方
1 公共施設は、これまで建設時点の社会ニーズで計画が進められてきた結果、構造的には支障なくても機能的に不適合が起こることが多かった(児童数の急激な増加、または減少など)。
 公共施設更新時期を50年とすると、社会ニーズの変化に応じた可変性をあらかじめ考慮する必要がある
2 学校は児童生徒の教育の場であり、他の公共施設の機能とは全く異なる(すべての施設は機能的に異なる)ことを前提に、現在の多くの小中学校は児童生徒増に対応して建設されているので、児童生徒が減少している現況を勘案すると、敷地、建物の一部を転用することができる。
→転用可能な敷地、建物に他の公共施設を移転することができる。→教育敷地の余地に公共施設を集約することで、地域コミュニティの中核として整備することができる
3 宮代町総合計画では人・地域の結びつきの重要性が指摘されている →地域コミュニティの中核施設への重要性がますます高くなっている →各地域ごとに中核施設の整備が必要となる
4 駅を中心とした3〜4エリアに地域コミュニティの中核を計画する場合、町の全域に居住する人々へのサービス提供、高齢者・障害者への同等のサービス提供のためにも、地域循環バスなどの移動手段の裏付けが必要である
 
公共施設更新に関するメモ/2011.6
小中学校の敷地を核とした公共施設の再編メモ
1 学校敷地の活用
 人口減少に伴う学校規模が文科省基準単純計算でおよそ4割になるとすると、校庭をそのまま維持したとしても校舎用敷地の5割ほどを公共施設空間にあてることができる
2 エリア別学校敷地の特性の検討
・姫宮エリア/百間小2024更新・駅から1.6km+前原中2032更新・駅から1.5km・・・それぞれに公共施設を組み込むか?、公共施設をいずれかに集約するか?・・・駅からの距離を考えるとバスなどの利便性の向上が条件
・中央エリア/東小2021更新・駅から1km+百間中2028更新・駅から1km+笠原小2032更新・駅から1.5km・・・東小と百間中は線路を挟んでいるので、両地区の利便性を考え、それぞれに公共施設を組み込む、笠原小を含めて3カ所に公共施設を再編するのは利便性の向上につながりにくい、笠原小の立地地勢を考慮し、小学校を東小に統合し、笠原小のユニークなデザイン性を活かした新たな公共施設化を図る、例えば新しい村との連携、総合計画にあげられている子育て支援施設、高齢社会に対応した福祉施設など
・和戸エリア/須賀中2023更新・駅から600m+須賀小2028更新・駅から600m・・・駅からの利便性もいい、近接しあっているので両校+公共施設再編のデザインがしやすい
3 更新費用の比較
 現状のまま更新した場合の費用に対し、再編化することでどれだけの費用効果があるかの試算が必要
 
公共施設更新に関するメモ/2011.7 
1 施設立地について
 施設立地は、a施設として望ましい周辺環境、b住民サービス向上につながる交通利便性、c町の活性化あるいはシンボル性、d適当な広さ、e用地等取得価格などによって選択されるであろうが、国納保育園は田んぼのさわやかな風が入るものの交通利便性には欠け、公民館は利便性はいいものの、市街地の中の狭い敷地のため窓が開けられないなどの不都合が起きている。
 施設の役割を精査し、適切な敷地を選択することが、長期的には施設が活発に利用され=町の活性化につながり、費用対効果は大きくなる。
2 省資源化・省エネ化・温室効果ガス削減等から見た施設周辺環境について
 京都議定書、福島原発事故などでますます緊急課題になっており、これからの公共施設は率先して自然環境との共生に力点を置き、省資源化・省エネ化・温室効果ガス削減を図らねばならない。笠原小学校、国納保育年、須賀小・須賀中いずれも風がよく通り、暑さをゆるめていた。施設立地選考では環境共生ができる敷地が望ましいが、すでに取得している敷地であれば、風の道、水面、植樹を工夫するともに、施設計画では冬の日照を確保し、夏の日射を防ぐことなど居心地のいい空間作りを目指したい。進修館のブドウ棚は町の名産+住民参加コミュニティ形成を目材した日除けであったが、必ずしも成功していない。最近はやりのヘチマ棚なども手間の割に日照制限につながらず、むしろ照度不足をまねている。周辺環境計画、およびと環境へ配慮した建物計画が今後の課題である。
3 貧困な施設デザイン・魅力のなさについて
 笠原小◎、国納保育園○以外は、よくぞこのような計画を許したな!!と驚かざるを得ない。基準設計や経済設計もあろうが、町民への潜在的な影響度=感性への無言の悪影響=ちっとも誇れない施設=用がない限り行きたいとも思わない。これでは町の文化度は上がろうはずもない。ひいては町への愛着度が生まれず、行きたくない町、住みたくない町になってしまう。誇れる施設、用がなくても立ち寄りたくなる施設、知り合いに紹介したい施設づくりを目指そう。
 仮称・町民デザイン50人会議を立ち上げ、町の公共施設のすべてについて、デザイン会議で議論を積み重ねることで、宮代らしいデザインが育ち、一方で町民の町への愛着度が高まる。
4 施設の長寿命化について
 仮に耐用年数50年を何らかの工夫によって55年に長持ちさせれば、コストは10%ダウンしたことになる。新耐震基準に基づいた補強補修で、構造的には長寿命化している。
 しかし、東小、須賀小、須賀中、笠原小の性能的老朽化が目立つ。性能がさらに低下すれば、施設の建て替えにつながろう。公共施設の長期補修・改修計画を立ち上げ、適正な性能を保持する必要がある。補修・改修の費用が必要だが、長期的に見れば施設の寿命が長くなり、相対的なコストは下がる。
 構造・性能が支障なくても、規模や機能が変化する。東小、須賀小、須賀中では児童生徒数の増加にあわせ増築してきた。このことは児童生徒数の変化にあわせ、増築、減築、用途変更ができることを裏付ける。笠原小で顕著なように、基幹的な空間+可変使用可能な空間の組み合わせのように分節化した施設構成をイメージすれば、増築・減築・用途変更がしやすくなり、施設全体は長寿命化する。
 スケルトンインフィルもメリットはあるが、基幹+増減可変システムのメリットも大きい。
 
公共施設の規模と機能の2側面
 規模:公共施設は行政サービスの提供を行うことが本務であるから、人口の伸びに比例して公共施設が配置されてきた。現在の施設の総面積はピーク時の人口に対応しているが、人口減少に転じている今日では、規模の見直しが必要である。
 機能:公共施設の設置当時に求められた機能が今日的な新しい課題に的確に対応しているか、今後新たな行政需要が生じた場合にどのように対応していくのかを検討しなければならない。
 公共施設の更新のときは、「規模」と「機能」を検討し、財政状況を勘案しながら適正に判断することが課題になる。公共施設のなかには、社会環境の変化とともにその必要性が薄れているものがあることも考えられる。役割と機能を見直し、例えば、より地域に密着した施設や他の公共施設との組み合わせにより相乗して効果を発揮できるケースも期待される。
 
公共施設再編の基本的な考え方
公共施設の規模について
a 絶対的な総量(延べ床面積)の削減
 人口、そして財政規模の縮小が見込まれる一方で公共施設の管理運営経費は増加傾向にある。将来にわたり公共施設を維持管理し続けるためには、その規模をこれらに応じたものへと転換を図る。
b 公共施設機能の移転・集約
 これまでは、個々の目的に合せて公共施設が整備されてきた。公共施設に求められるのは「機能」、即ち「使われ方」にあると考えられるので、可能な限り移転・集約を図ることで総量の圧縮に努める。
公共施設の機能について
a 公共施設機能の廃止と転換に取り組む
 社会環境などに変化により設置当時に比べて役割が薄れた施設については、その用途の廃止や転換に取り組む。
b 将来の新しい需要にも対応できる柔軟な施設構造が求められる
 現在、各公共施設に求められている機能が未来永劫も必要とは限らない。公共施設の再編にあたっては、その時代の行政課題、住民ニーズに合った機能への転換がスムーズに行えるような建物構造にしておくことで後年度の財政負担の抑制につながる。
新たな価値の創造
a 新たなコミュニティの創造、町民に愛される建物デザイン
 「機能を分散させる」という考え方から「複合化」するという考え方に発想を転換させることで、新たなコミュニティや価値を生み出すことができる。公共施設は利用の有無に関わらず町民みんなの財産であり、町民に愛されるデザインとすることで建物に対する愛着や誇りが生まれ、大切にされていくと考えられる。
b 長寿命化、コスト低減への取組み
 建物施設は年々劣化が進む。この結果生じる修繕や改修、建替えを全く回避することは出来ないが、メンテナンスによりこれを先に延ばしていくことは可能である。また、環境に配慮した省エネ型の施設運営で維持管理にかかる経費の抑制が可能になる。
 
 以上の議論を踏まえ、更新モデルを提案し、宮代スタイルによる公共施設再配置の提案として答申した。(2011.12)