2015.2 埼玉のまちづくり「県営大宮長山団地再生事業事業者選定」
 
 埼玉県営住宅は、310団地、約27000戸ある。そのうち1965年代の住宅がおよそ2割あり、老朽化が進んでいる。そのころは階段室型の5階建て、片廊下型の7階建てが大半で、住戸面積も狭かった。エレベータのない階段室型、設備の老朽化、面積の狭さ、収納スペースの少なさなど、不満が高まっていた。入居当時は若い世代が多かったが、50年も経過して居住者の高齢化率は著しい。空き部屋が発生し、若い世代が少なくなって、自治会の活動も低迷してきた。
 そこで埼玉県は、古くなった県営住宅を建て替えるとき、エレベータを設置し、居住性を高めるとともに、高層化によって用地を生み出し、その土地を民間に貸し出し、入居者、地域住民の生活を支援する福祉施設として運営してもらう、団地再生を試行することにした。
 2011年、県営大宮東宮下団地再生事業が公表され、団地の建替えで生み出した団地内敷地で福祉施設を運営する事業者が公募された。その結果、2014年に高齢者総合サービスセンターが開設された。
 同2014年10月、県営大宮長山住宅の建替えでも、建て替えによる創出地を県から賃借し、高齢者支援施設、子育て支援施設及び多世代交流スペースを整備・運営する民間事業者を募集する、県営大宮長山団地再生事業が公表された。
 事業者に求められる必須機能は、1.高齢者支援施設、2.子育て支援施設、3.多世代交流スペースである。また、任意機能として、1.介護保険法による介護サービス、2.その他、団地や周辺地域に貢献する多様な機能については事業者の判断に任された・・いずれも細かな規定があるが省略・・。
 一方、事業者の決定にあたり、同年9月、まちづくり、子育て支援、高齢者支援、事業運営の学識経験者、および高齢介護、少子化対策、都市整備担当の県職員で構成する「県営大宮長山団地再生事業事業者選定委員会」が設置された。
 選定委員会では現地視察を踏まえ、再生事業について意見を交換し、審査方法について議論を重ねた。そして、事業コンセプト、事業計画、施設計画、運営計画を評価項目とすること、県事務局が応募者の参加資格要件を審査し・・1次審査・・、可とされた応募者に対しヒヤリング、質疑応答を行い、選定委員による評価、評価結果について意見交換のうえ、優先交渉権者=最優秀提案者、次点交渉権者=優秀提案者を選定・・2次審査・・することとした。
 
 2015年1月の受付日に3者から事業提案書が提出された。
 県事務局で応募者が参加資格の要件を満たしているか審査し、その結果、全ての応募者が一次審査の要件を満たしていることが確認された。
 審査の視点は・・一部抜粋・・、
 必ず導入する機能(必須機能)を提案しているか
 創出地の提案賃貸料が最低賃貸料以上となっているか
 収支計画において賃貸借期間を50年間としているか
 創出地の最低賃貸料の算出に誤りはないか
 さいたま市等との協議状況の報告義務となっている項目について添付されているか
 創出地東側に市道10084号に接する幅員2m以上の歩道が整備される計画となっているか
 創出地北側に位置する住棟(6号棟)に4時間以上の日影を生じさせていないか(地盤面からの高さ4m)
 創出地活用施設に導入する介護保険法の規定による事業所のうち主たる機能(延床面積が最も大きい機能)の運営者が、同種の事業所の3年間以上かつ同等規模以上の運営実績を有しているか
 子育て支援施設の運営者が、認可保育所について、2年間以上の運営実績を有しているか
 応募者の当期純利益(当期活動収支差額)が3期連続でマイナス値ではないか
 応募者の営業利益(事業活動収支差額)が3期連続でマイナス値ではないか、等々である。
 
 選定委員会による審査は、公平な審査を実施するため、応募者名は優先交渉権者=最優秀提案者、および次点交渉権者=優秀提案者を選定するまでは伏せることとした。
 応募者の提案内容に関するヒアリングを行い、提案意図等を明確にしたうえで、以下の項目について評価・点数化を行った。
@事業コンセプト:配点合計20点
 提案された事業コンセプト(目的・意義等)が本事業の主旨に合致しているか。
 団地や周辺地域の現状や課題を理解し、多くの住民の利便性の向上や交流の促進に資する多様な機能の導入が図られているか。
 サービスを提供する対象者の設定が妥当であるかどうか。
A事業計画:配点合計35点
 資金調達及び毎年度の収支計画の確実性と安定性について、根拠が明確な優れた提案がなされているか。
 想定する補助金制度の改正など、不測の資金需要への対応について優れた提案がなされているか。
 施設規模が、地域の需要を考慮し、また明確な需要予測に基づいた適正な規模となっているか。
 事業を実施するにあたって特に影響が大きいと想定されるリスクが抽出され、顕在化させないための仕組み及び顕在化した場合の対応策について優れた提案がなされているか。
 適切な工程が考慮され、早期に運営が開始されるスケジュールとなっているか。
B施設計画:配点合計15点
 団地や周辺地域の住民が気軽に訪れやすい施設配置計画や外構計画となっているか。
 利用者の特性を踏まえ、安全で快適に施設を利用できるような施設面での優れた提案がなされているか。
 周辺環境に調和した景観形成への配慮や環境負荷低減に資する優れた提案がなされているか。
C運営計画:配点合計30点
 必須機能(高齢者支援施設、子育て支援施設、多世代交流スペース)及び事業者の提案による任意機能が有機的に連携し、一体的かつ円滑な運営が可能な方針及び体制となっているか。
 幼老一体施設という特性を活かした高齢者と子どもの交流など、利用者である高齢者の生きがいづくりや子どもの健全な育成に資する仕組みや工夫がなされているか。
 団地や周辺地域の高齢者や子育て世帯を中心とした多世代が交流・活動でき、地域の活性化に資する仕組みや工夫がなされているか。
 
 選定委員の評価・点数化ののち、評価結果について意見を交換し、最終評価結果を単純加算した結果、最優秀提案者に応募者C、優秀提案者に応募者Bを選定した。
 総評は以下である。
 本事業は、県営大宮長山団地及び周辺地域に居住する高齢者や子育て世帯等に向けた福祉・子育て等に関するサービス提供を目的として、県有地に高齢者支援施設、子育て支援施設及び多世代交流スペースを整備し運営するものである。
 事業者を公募した結果、3者より応募があり、各者から提出された事業提案書を本委員会において公正に審査・評価し、最優秀提案者及び優秀提案者を決定した。
 各応募者の提案は、豊富な実績とこれまでに培われたノウハウをもとにした優れた内容となっており、本事業の特徴である「幼老一体施設」「多世代交流」についても様々な工夫がなされていた。
 審査の結果は、最優秀提案者となった応募者Cの得点が、優秀提案者である応募者Bの得点をわずか0.4点上回るものであった。応募者Aを含め、各応募者とも随所で優れた提案がなされていたが、応募者Cの事業計画の確実性と、建築計画の考え方を高く評価したものである。ただし、運営内容については応募者Bの提案に優れた点が多く、応募者Cには、運営内容を今一度整理していただき、今後、運営内容のさらなる具体化・充実化がなされることを期待している。
 応募者Cは、埼玉県と契約を締結し本事業の事業者となった場合には、自らが提案した事項を確実に履行することはもちろんのこと、埼玉県やさいたま市が目指す地域包括ケアシステムの一翼を担い、地域交流の場として地域住民から愛される場となるよう、地域と積極的に連携して事業を進めることを望む。
応募案についての講評
応募者A
 「交流」に着目し、多世代交流スペース以外にも地域交流・多世代交流に資する用途の室が配置された施設計画となっている。また、多世代交流スペースの配置は地域住民の動線が考慮された計画となっている。
 リスク管理を大手デベロッパーに依頼しリスク顕在化回避が図られている。
 運営にあたり、運営母体の異なる高齢者支援施設職員と保育所職員が合同でミーティングを行うことが計画されており一体的かつ円滑な運営が期待できる。
 高齢者と子どもの交流促進に資する運営メニューに魅力がある。
 保育所送迎の時間帯の交通整理に、地域のシルバー人材センターの活用が図られている。
応募者B
 導入機能の数が多く、種類も幅広い。特に、カフェ運営、配食サービスの実施は、地域住民にとってさらなる利便性向上が期待できる。
 地域包括ケアシステムのモデルにしたいという強い意欲が感じられ、本施設のみで地域包括ケアシステムが構築できる計画となっている。
 地域コミュニティづくりの指向が高い計画となっており、活発な地域交流の実現が期待できる。
 保育園の保育メニューが充実しており、子育てニーズへの対応性が高い計画となっている。
 幼老一体施設運営の実績・経験に基づいた運営方針・体制となっており、高齢者支援施設・保育所職員の技術的相互交流によって、有機的で、一体的かつ円滑な運営が期待できる。
 季節行事を中心とした高齢者と子どもの交流促進に資する運営メニューは魅力がある。また、これまでの実績を生かした様々な取組の実現が期待できる。
 地域の民生委員との関係性を構築して地域連携を図る計画は、さらなる地域交流促進が期待できる。
応募者C
 施設はコンパクトであり、必要かつ有効な機能が盛りこまれた施設計画となっている。
 人口推移等から将来需要予測を明確に整理し、結果をもとに適切に事業規模が設定されている。
 高齢者支援・子育て支援サービスをワンストップで提供する計画となっている。
 地域コミュニティスペースや屋外の交流広場を活用し、高齢者と子どもの交流促進を積極的に行う計画となっている。
 地域コミュニティスペースは、地域住民の動線が考慮された配置となっている。
 配置計画・建築計画が十分検討されている。自然エネルギー導入や積極的な緑化など、周辺環境・地球環境にも配慮がなされており、様々な工夫が随所にみられる。
 保育所の園庭は、保育環境や保育所の特性を考慮した配置となっており、南側に十分な面積が確保され、また交流広場も兼ねており地域交流の場としても期待できる。
 十分な収益力により、安定的な運営が見込める事業収支計画・資金計画となっている。
 高齢者支援施設・保育所職員相互交流の実施が計画されており一体的かつ円滑な運営が期待できる。また、継続的な職員研修によるサービス向上が期待できる。
 地域連携の取り組みに関するメニューは魅力がある。
 
 埼玉県営住宅再生事業は、老朽化した県営住宅を高層化して創出地を生み出し、民間事業者に貸し出して高齢者支援施設、子育て支援施設、多世代交流スペースを整備・運営する画期的なアイデアである。成果を期待したい。