2016 桶川のまちづくり=建築紛争調停委員会
 
 2016年4月、桶川市建築紛争調停委員会が開かれた。任期は2年で、私は2010年以来、4期目になる。この日は2016年度第1回委員会で、委嘱式に続き、後述する建築紛争の防止・調整に関わる中高層建築物の報告と質疑応答・意見交換を行い終了した。紛争調停の議案がなかったことは、「桶川市中高層建築物の建築に係る紛争の防止及び調整に関する条例」に基づいた事前公開+調整の成果であろう。
 「桶川市中高層建築物の建築に係る紛争の防止及び調整に関する条例」は、平成9年1997年に制定された。聞くところによれば、大規模マンションの建設で周辺住民とのトラブルが起き、その反省を踏まえ、事前公開・事前説明を盛り込んだこの条例が制定されたそうだ。
 目的は、第1条 この条例は、中高層建築物の建築に関し、関係法令等に定めがあるもののほか、建築計画の事前公開及び事前説明並びに紛争のあっせん及び調停について必要な事項を定めることにより、良好な近隣関係を保持し、もって地域における健全な生活環境の維持及び向上に資すること、である。
 もともとの居住者と新にマンションに住む居住者が良好な近隣関係になることが望ましい。それが町の発展につながる。多くの場合、開発業者がマンションを建設し、居住者を募集する。であれば、開発業者は事前に周辺の住民に丁寧に説明し、了解してもらうことが前提になろう。
 ということで、この条例では、中高層建築物の建築主または工事施工者は周辺の住民に事前公開+事前説明を必須条件としている。
 
 都市計画法・建築基準法では、住居専用の地域、住居系の地域、商業系の地域など用途地域を定めている。中高層建築物も用途地域によって規制が異なる。
 条例第2条2(1)では、別表の左欄に掲げる地域又は区域内に建築する建築物のうち、同表の右欄に掲げる建築物をこの条例に該当する中高層建築物と定義している。ただし、地階を除く階数が3以下の自己の居住する専用住宅を目的とした建築物を除いている。
 別表は3区分していて、第1種低層住居専用地域・第2種低層住居専用地域では軒高さ7mを超える建築物地階を除く3階以上の建築物を中高層建築物
 第1種中高層住居専用地域・第2種中高層住居専用地域・第1種住居地域・第2種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・準工業地域では高さが10mを超える建築物を中高層建築物
 商業地域・工業地域では高さ15mを超える建築物、高さが10mを超え上記の地域に冬至日の午前8時から午後4時までに日影を生じさせる建築物を中高層建築物としている。
 一般的な建物の階高は3mだから、高さ15m=5階、高さ10m=3〜4階になり、商業地域・工業地域でも午前8時から午後4時までの日影にも言及しているから、かなりの建築物が事前公開・事前説明の対象になる。
 
 ではどんなことがらが条例の適用を受けるのか。第2条2(2)では中高層建築物の建築に伴って生ずる日照、通風及び採光の阻害風害、周辺の交通安全の阻害、電波障害等並びに工事中の騒音、振動等によっておきる周辺住民と中高層建築物の建築主又は工事施工者とのあいだでのトラブルを紛争と定義している。
 日照・通風・採光のみならず、風害、電波障害、交通安全、工事中の騒音・振動も含めている。これなら周辺の住民はもともとの良好な環境を享受することができ、新たな居住者を気持ちよく迎えることができると思う。
 周辺の住民については、第2条2で、(3)近隣住民を、中高層建築物の敷地境界線からの水平距離が15m以内の範囲で、かつ、中高層建築物の外壁またはこれに代わる柱の面からの水平距離が50m以内の範囲における建築物であって居住の用に供するものの所有者、管理者又は居住者、および中高層建築物の敷地境界線からの水平距離が当該中高層建築物の高さの2倍を超えない範囲内であり、かつ、当該中高層建築物により冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間に日影となる部分を有する建築物であって居住の用に供するものの所有者、管理者または居住者
 (4)周辺住民を、中高層建築物の敷地境界線からの水平距離が15m以内の範囲における土地の所有者又は建築物の所有者、管理者もしくは居住者、中高層建築物により冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間に日影となる部分を有する土地の所有者または建築物の所有者、管理者もしくは居住者、さらに中高層建築物による電波障害の影響を著しく受けると認められる者とし、
 近隣住民に対しては建築計画の事前説明、周辺住民に対しては建築計画の事前説明を求められたときには説明するよう定めている。
 敷地境界から15m以内、建物から50m以内、冬至の午前8時から4時前でのあいだの日影、著しい電波障害をあげているので、中高層建築物の建設のかかわる住民はほぼ網羅されているのではないだろうか。
 
 市長は、第3条 紛争を未然に防止するとともに、紛争が生じたときは、迅速かつ適正に解決を図るよう努めなければならない、2 中高層建築物に類する建築物の建築に際し、争いが生じたときは、迅速かつ適正に解決を図るよう努めなければならない、と定め
 事業者及び工事施工者にも、第4条 中高層建築物の計画または建築に当たっては、周辺の生活環境に及ぼす影響に十分配慮するとともに、良好な近隣関係の形成及び保持に努めなければならない、2 中高層建築物の建築に際して紛争が生じたときは、その紛争の当事者である事業者、工事施工者及び周辺住民は相互の立場を尊重し、自主的に解決するよう努めなければならない、としている。
 
 そのうえで、第5条 事業者は、中高層建築物を建築する場合は、周辺住民にその建築計画の周知を図るため、当該建築敷地の見やすい場所に、規則で定めるところにより、当該中高層建築物の建築計画の概要を表示した標識を設置し、2 事業者は、前項の規定により標識を設置したときは、速やかにその旨を規則で定めるところにより、市長に届け出、 
 第6条 事業者は、前条第1項の標識を設置した後、速やかに、近隣住民に対し、当該中高層建築物の建築計画の概要その他の規則で定める事項を説明し、2 事業者は、当該中高層建築物の建築計画について、近隣住民以外の周辺住民から説明を求められたときは、前項の規則で定める事項を説明するよう求めている。
 
 万一、紛争当事者の双方から紛争の調整の申出があったときは第8条で市長はあっせんを行い、紛争当事者の一方から紛争の調整の申出があった場合において相当な理由があると認めるときは第8条2で、市長はあっせんを行うことができる。
 
 そして、第11条 市長の付託に応じ紛争の調停を行うとともに、市長の諮問に応じ紛争の防止及び調整に関する重要事項について調査審議するため、桶川市建築紛争調停委員会置き、2 調停委員会は、前項の諮問に関連する事項その他紛争の防止及び調整に関する事項について、市長に意見を述べることができる、としている。
 第12条 市長は、紛争当事者の双方から調停の申出があったときは、調停委員会の調停に付することができ、2 市長は、前項の規定にかかわらず、紛争当事者の一方から調停の申出があった場合において、相当な理由があると認めるときは、調停委員会の調停に付することができる。
 第13条 調停委員会は、調停のため必要があると認めるときは、紛争当事者に対し、意見を聴くため出席及び必要な資料の提出を求めることができ、2 調停委員会は、必要に応じ調停案を作成し、紛争当事者に対し、期間を定めてその受諾を勧告することができる。
 しかし、第14条 調停委員会は、紛争当事者間に合意が成立する見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。
 
 詳細な条文は省略したが、条例制定後の該当する中高層建築物は18年間で共同住宅27件、事務所・店舗9件、工場4件であったが、事前説明の結果、計画が変更されるなどにより紛争・調停に発展することはなかった。よって建築紛争調停員会は開店休業である。事前説明により双方が計画を納得できたということであり、良好な近隣関係が築かれているということでもある。これからも開店休業であることを期待したい。(2017.1)