登場人物
沢谷 千鶴(さわたにちずる):女25歳 OL
田川 登 (たがわのぼる) :男25歳 サラリーマン
鏑木 孝子(かぶらぎたかこ):女25歳 大学院生 田川の恋人
中林 みき(なかばやしみき):女22歳 千鶴の後輩
相楽 宗一(さがらそういち):男27歳 千鶴の会社の先輩
課長 :男45歳 千鶴、相楽の上司
夜、千鶴の部屋で
千鶴と田川がプレステで楽しく遊んでいた。
千鶴はゲーム画面に釘付けの田川の顔を見つめていた。
千鶴は胸の内でつぶやいた
− 私の隣にいる彼は昔私に告白してくれた。 −
千鶴は想像した自分が白い空間にいる状況を。
四方八方と白が続き途中には何もない、ただ、田川と線以外は。
千鶴と田川が立って向かい合っていて、田川の後ろに線が引かれていた。
田川は千鶴を見つつも、視線をそらしたりと緊張気味であった。
千鶴は肩を固めつつ視線を下に向けていた。
田川は溜め込んだ息を吐き出すように
「千鶴さん、す、好きなんで付合って下さい。」と告白したのだった。
千鶴おじぎをした。
田川は線を越えて去って行った。
千鶴は線を見つめ
− それから彼は2年近く私の前に現れなくなった。そして半年前… −
白い空間が引けてきて、千鶴の部屋のインテリアが浮いてきた。
千鶴が部屋で呆然とテレビを見ていると携帯が鳴った。
手にし液晶の表示に驚き、不安げに電話にでたのだった。
「もしもし…」と薄い声で応答。
携帯の向こうから
「久し振り。」と落ち着いた声がやってきたのだった。
千鶴は携帯を少し耳から離して固まった。
再びインテリアが白味を増して白い空間となっていった。
独り立ってる千鶴の前に田川がやって来て、線の前で止まった。
ちょっと気まずそうな千鶴。
目をそらし、眉間にしわが寄る。
それでも微笑みかける田川にそれに答えて作り笑顔を返す千鶴。
徐々に自然に本当の笑みを見せた。
− 私達は再び友達の仲を持ち始めた。 −
千鶴の部屋で楽しい会話に笑ったりしてる自分達を思い出した。
再び白い空間で
千鶴が地面の線を越えて田川の身体に手を触れようと手を差し出した。
− 今度は私が彼に恋を持ち始めた。 −
田川の後に女性の影が突然沸いた。その存在に気付いて手が止まる。
− でも、今度の彼には連れがいた。 −
まともにその女を見られずに顔の下半分だけしか見えられなかった。
想像からもどり千鶴の部屋
− 彼が好き。でも、ふっておきながら告白なんて出来ない。
それに他人の彼を取るのも嫌だ。でも、それでも彼が好き。 −
と思い悩んだ。
「ねえ。」
ゲーム画面を見ながら「何?」と田川。
「彼女がいるのに私といて大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。そんなことを気にする人じゃないから。」
「そう。…彼女とはうまくいってないの?」
「うまくいってるよ。」
「あ…そう…」と肩を落とした。
その姿に田川は全く気づかなかった。
千鶴は会社の中庭で後輩女子社員の中林と昼休みをすごしていた。
「先輩、そんなの奪っちゃえばいいのですよぉー!」とパンを食べる中林。
「何いってるの。出来る訳ないでしょ。もしもね、
奪えたとしても彼は今のが気になるでしょうね。
悩ませなくないもの。」
「ふーん。」とジュッとストローをすすりジュースを飲む
「なんで、ふったんですかぁ?」パンを含みながら
「ほんと、あん時OKしとけば、こんなことにならなかったのにね。」と苦笑。
千鶴の視線の先にキャッチボールをしている男性達。
「仕事が今以上に楽しかったから。」腕を前に突き出して、伸びをした。
「一段落着いて、周りを見たら誰もいなかったよ。」
「はぁ・・・」ストローをくわえた。
木々の枝がサラサラサラと揺れ、葉が落ちた。
千鶴の側面に影か掛り、影の方を見上げると相楽が立っていた。
相楽は千鶴に想い寄せている先輩社員であり
彼の業務成績はとても上から有望視されてる優秀な男であった。
千鶴はすぐに視線を逸らす。
中林は相楽の千鶴への熱い視線をみ、すぐに千鶴を見て
「あ私ちょっと用事があったんだ課長のところに…」とあたふたと去るのだった。
「あ、ちょっと」と去る中林に手を差し出すが、すぐに諦めた。
「沢谷さん、お付き合いの件…」
「相楽さん、まだちょっと考えさせて下さい。」
「俺じゃ、ダメですか?」
「いや…」
「好きな人いるんですか?」
「え……」
「俺待ちますよ。沢谷さんの方の決着つくまで。」
風が吹いて、千鶴の髪が揺れる。
田川を思い浮かべ
− 待つか…私もそうしようかな。 −
と思った。
居酒屋で田川と鏑木が飲みながら談笑していた。
鏑木とは田川の彼女で大学院生。
デーブルに置いてある田川の携帯が揺れた。
田川が携帯に出て、楽しそうにメール送信をしていた。
それを不信気に見ていた鏑木であり
「誰から?」と躊躇なく質問をぶつけた。
「知り合いから。」と悪気もなく笑顔で答えた。
「ふーん、そうなん。」と納得いかずな表情であった。
田川が携帯を置いた。
食事の後、歩き回りつつホテルに向かった二人だった。
枕元に置かれてる田川の携帯。それを手にする鏑木。
ベットで寝ている田川。
メールの内容を見る鏑木の表情が曇る。
千鶴の部屋にて千鶴が一人プレステをしていた。
「今日は来ないかな。」と時計を見る。
時計は12時を指している。
「早くつなげて来いっていうの。冒険始まらないって言うの。」と
オンラインゲームで田川のログインを待ってた。
時計は25時を指した。
千鶴はプレステの電源をきり、溜息をつき
しばらく固まった後に一息、鼻で笑う。
「ホントに待っちゃった。あーあ……なんなのかしら。」と床に横になる。
「今、何してるのかなぁ。」
そのまま眠りについてしまい、夢を見ていた。
そこは夜、街にいた。
通りに田川と鏑木が手をつないで歩いているのが見えた。
「あ・・」と落胆したが
いつの間にか千鶴は二人の背後にいて、さっきの落胆の気持ちはなく
千鶴は田川の後を駆け抜け、田川に声をかけ
田川が笑顔で応えた。
千鶴は二人の手を解き、鏑木から田川を奪い走った。
笑顔に駆ける二人。
強く握られた手。
周りの人々が二人を祝福し、千鶴は笑顔振りまいて周りに手を振った。
観衆の中に冷たい視線を送る千鶴がいる。
それに気付き笑い止み、立ち止まる千鶴。
千鶴は手を振り始める自分自身を見て、振ってる先が自分の背後を気づいて振り返ると
背後に田川が鏑木と楽しそうに離れて行った。
寂し気に見送る千鶴。
朝となり
プレステの前で眠っている千鶴にカーテンの隙間からの朝日が掛った。
ゆっくり目覚め
「馬鹿らしい、他人の彼氏取るなんて。私のすることじゃない。」
会社の庭先でいつも通りに中林と昼休みを取っていた。
「先ぱーい、あの奪っちゃう作戦どうするんですかぁ?」とカップ麺をすする。
「なんで作戦なの!もう。」と軽く笑った。
視界にキャッチボールをしてる男性社員がいる。
「…でも、どうしようかね。」と溜息。
− なんて、心内は決まっているんだけど。 −
と思った。
中林は箸を振りながら
「だからぁ!好きですって今の女と別れてお願い!って
言えばいいじゃないですかぁ!」と麺を口へ運ぶ。
千鶴の足下にボールが転がって来て、男性社員が「すいません」と取り向かう。
千鶴はボールを先に拾い、男性社員に向けて投げ構える。
千鶴は力込めて勢いよく投げながら、
「フフ、みきちゃん最高。」とよろける。
「私?」麺を頬張りながら聞いた。
その日の夜に千鶴はアパートの階段に座り込んで、目が涙ぐんでいた。
ぬるい風が階段を這い浮き上がり、千鶴の髪がゆれ
涙が流れた跡が乾き、微かに肌がひりときた。
それをぬぐった。
千鶴は部屋で二人で過ごした時を思い出した。
田川がプレステをして、千鶴はそんな彼を見てた。
背中を見ながら、振り向かれることを不安に思いつつ
「あの…さ……田川君さ、私のとこに来ちゃマズイんじゃないの?」
田川はゲーム画面が目を離さなず
「なんで?」
「彼女いるのに私の所って、彼女怒るよ。」
「大丈夫だよ。」
「…もう…」と、次の言葉を吐き出す勇気を出し、つばを飲んだ
「私の所に来ちゃ、だ、ダメだよ。」
「大丈夫だって、だって恋愛関係になるわけじゃないしさ。」と
千鶴の気持ち知らずで、軽く答えた。
千鶴はハッとして「…うん。」と、田川から視線を下ろした。
田川がプレステを中断して振り向く。
すぐに視線を上げた。
「確かに昔は俺が千鶴さんに興味持ったけど」と後頭部をボリボリとかきだし
「千鶴さん俺に興味ないでしょ。
それ知ってるから再び興味持つことはないしさ。安心してよ。」と笑顔。
千鶴は「うん…」と作り笑いした。
田川はまたゲームを再開しテレビに向き合った。
千鶴はうつむき下唇を噛む。
噛む唇が震え鼻をすする。
また続きを思い出した。
うつむいている千鶴と振り返り優しく見つめる田川。
「それに」田川が振り向いていることに気づいてなく
最初の言葉で気づいて、慌てて顔を上げた。
「ゲームをかなり分かってくれるの千鶴さんだけだし…。
気つかわせちゃって、ごめんね。」
と、千鶴の心内は全く分かっていなかった。
たた、自分の彼女との関係を気遣って心配していると思っていたのだった。
首を横に振る千鶴。
田川は落込んでいる千鶴を気づかって、「今日はもう帰るね。」と千鶴の前を通った。
千鶴は立ち上がり、踊り場から外を見る。
風が千鶴の髪をなびかせた。
もう涙がこぼれ落ちないように上を向いて鼻をすする。
一週間後
ある昼の喫茶店。
田川が入って来た。
目が細くシャープさを感じさせる女、鏑木が嬉しそうに手を上げて居場所を示した。
鏑木は田川の恋人であり、大学院生。
田川が笑顔と手を軽く上げて反応したのだった
田川が席に着き、しばらく話をした後に
「今夜うち来ない?」と鏑木。
夜、気品のあるレストランで
千鶴と相楽が食事をしていた。
相楽は笑顔に満ちてあれこれ話をする。
それに反して千鶴は作り笑いの時々窓を見る。
そんなふりを見るたびに相楽の表情は曇ったがすぐに笑顔で話しかけた。
ワインを飲み干す千鶴。
作り笑い。
千鶴の着メロがなり、携帯を手にする。
千鶴はハッとして「すいませんちょっと…」と席を発つ。
相楽の眉間にしわがより、千鶴を見送る。
鏑木の部屋。
鏑木が田川の携帯を折りしまい、田川の枕元に置き、添い寝をした。
「うーん」と寝言で腕を鏑木の肩にまわした田川。
翌日の昼、田川のアパート。
千鶴が階段を登りやってきて、インターホンを押した。
ドア前の通りの隅から千鶴をみつめる影が近づいて来るのだった。
それに気づいて、影を見た。
鏑木の部屋で
田川がうーんとうわ言ながら起きはじめた。
「よう寝た。」と伸びをしながら周りを見たが。
静かな部屋に異様さを軽く感じ
「孝子さん?」と呼び掛けた。
田川の部屋前で
近づく影が「あの。沢谷さんですよね」と、強めに千鶴に声をかけた。
その影は鏑木だった。
冷たい視線だった。
そんな鏑木の様子を見て、目の前の女が田川の恋人とハッと気付いた。
その反応に対して会釈をする鏑木。
「私、鏑木孝子と言いまして…田川の連れです。」
「…」顔に汗がにじみ出た。
「彼は来ません。昨日の私がメールしたんです。」
二人は公園に移動し
ベンチに座って会話をした。
お互い向かい合わせられず、公園の景色を見ている。
初めに切り出したのは鏑木だった。
「分かってますよね、私が言いたいこと。」
千鶴の目線が鏑木にちらっと行く。
「す、すいません。」
「止めて下さいね。あなただって嫌でしょ。いい大人なんだからさ。」
「…」と、こくりと頭を上下した。
「…」鼻からため息を出した鏑木。
公園では男の子、女の子混じって駆けて遊んでいた。
「…やっぱり、怒りますよね。」
「あたりまえじゃない!」と即答に声を張り、すぐに千鶴へ振り向く。
大きな声にびくつく千鶴だった。
鏑木の視界に悲しそうな目をする千鶴が入り
「そんなに好きなん?」と聞いた。
「…」”はい”とは言えないけど、その通りであり、答えられない。
「彼は知ってるん?あなたの気持ち。」
千鶴は横に首を振った。
「もう寝たん?」
その問いかけに驚きとっさに鏑木を見てしまったが、すぐに視線をそらした。
「出来るわけないじゃないですか。」
鏑木の口元が少し笑った。
「ふーん、そうなん。…あなたさ、もう彼の前に現れないで欲しいんだけど。」
千鶴、ちらっと鏑木を見て固まった。
「ただ…」と空を見上げて、一考し
「…一度だけ抱いてもいいよ。」
千鶴が鏑木の言葉に驚いて鏑木をつい見てしまう。
鏑木は千鶴の目を見る。
「一度だけ見逃してあげる。その代わりそれを最後にして。
これっきりって言うこと。」
千鶴、目線を逸らして黙る。
「じゃ、私」と立ち上がり
「帰る。でも、なんであなたのとこに行くんかね。」
千鶴は見上げて、か細く「ゲーム…」とつぶやいた
「ん?」鏑木には届かなかった。
「……ううん、何でもないです。」
「そ。今、彼…うちにいるのよ。」と嫌味気に言い吐いた。
千鶴は目を強く閉じ、鏑木の言葉を拒否する。
そして立ち上がり、「ごめんなさい」と言い、足早にその場から逃げ去り
走り、走り、走り。涙を拭いながら走った。
また白い空間にて
千鶴の前で田川と鏑木がお互いに寄り掛かり座っていて
鏑木の目線が千鶴にこの状況を自慢げに当ていた。
千鶴振り返り逃げようとするが、足元の線のが目に入り
立ち止まり、俯いたまま思い悩んだのだった。
千鶴と彼女の課長が会議室に面談し、デスクを挟んで座り話をしていたのだった。
課長には笑顔はなく、渋めな表情で言った。
「えー、中国派遣の件で君にも行ってもらおうかと…」
「え!それは…」と、突然の話に驚き言葉が出なくなった。
「相楽が沢谷さんを指定してね。うーん、なんだ…君たちは…そういう
アレなのか。」
「え、あ、いや、あ、あの…」更に驚きだった、相楽が仕組んだことに。
そして何か弁解しようと言葉を探してたが
課長は手を軽く上げて、千鶴の言葉を止め、うなずく。
「うん、ま、個人的なことを会社に持ち込みたくはないのだけどね。
場所が中国だからな、独りって言うのも大変だから。
今回はいいかと思っているんだ。このことは上には言わないけど。
ま、君達次第だよ。2週間後にはどうするか教えてくれ。」
下にうつむいている千鶴。
その翌日、いつもの様に会社の庭で昼休みを過ごしていた千鶴と中林。
「やっぱ、御飯時が至福だねぇ。これ新作なんですよ。」とコンビニのお弁当を見せる中林だった。
「そう・・・」千鶴は力なく応えた。
開けてあるものの手付かずの千鶴のお弁当。
中林、それを見てふーうんと溜息。
中林と千鶴の目に相楽が遠くから向かって来るのが見え
千鶴はハッと気まずい表情を漏らしてしまう。中林はそんな千鶴を見逃さない。
「先輩、中国行くんですか?課長の情報の一部は私が管理しますから。」
相楽が近くなる。
「あの作戦はどうなったんですか?」と中林。
「…」近づく相楽を困った表情で見つつも中林の問いにも困ったのだった。
相楽が着き
「あ、どうも。」と千鶴に。
千鶴は目線を合わせずに会釈した。
相楽が中林を一瞬見る。中林は睨み返す。
課長に勝手なことを言い、千鶴の事を考えてないことに怒っていたのだった。
それに関わらず、話を続けた。
相楽にはもう何があっても千鶴と結ばれたいと思うだけで
なかなか受け入れてくれないことに焦り、苛立ちもあった。
「課長から聞いた通りなんだけど、どうかな?」
「…」
「やっぱり、待つのは出来なくてすいません。で、どうだろうか。」
「……」下唇を噛み無言
「…」さらに無言、困り果てて
「どうすりゃ…いいの」か細く震える声で自分に問うた。
それが聞こえた相楽は千鶴の気を害したことにしまったと一瞬引く。
中林はそんな千鶴を見て、相楽を怒り込めてガっと見上げ、怒鳴った。
「この新作塩っぱい!って言うかさぁー!あんたウザイ!
先輩の顔見て嫌がってるの分かるでしょ!ねー!」と大声が庭に響いた。
三人を見るキャッチボールをしていた男性達。
二人が中林を目を見開いてみた。。
中林は続けて
「先輩の好みはあんたじゃないんだよ!嫌がってる人を連れ出して自分一方じゃ
ない!相手の事考えてる?ねー!あんたの気持ち、好きですっていうのは
分かったよ。でも、それを受け入れるのは本人次第でしょ!
本人が受け入れられないって言うんだからきっぱり諦めなよ!。」
おどおどする相楽。
お弁当を一口ふくむ中林。
中林は肩で息をしながら、ごっくんと飲み込んで
「自分の気持ちを伝えるの大事だけどさ!」
中林を切なく見はじめる千鶴だった。
再びお弁当を一口の中林。
「あーあ、このお弁当ホントにまっずい!あんたのせいで!
結構高かったんだから、返金してよ!」と最後は張り上げることなく、ぼやいた。
また一口。
千鶴はこの先の田川との関係を考えた。
その日の夜、鏑木の部屋にて
鏑木が電話をしている。
「もしもし、鏑木です。」冷めた声で吐き捨てる感じだった
その電話の先は千鶴の部屋
千鶴が電話にでる。
「あ、はい。」
鏑木は一瞬、表情を苦にして
「あのさ、もうやった?」淡々と言ってみせた。
「え…あ、…いや。」と、困惑。
「そう。早くケリつけてさっぱりしたいんだよね。
長くいたいからって事を長引かせてない?」
「いえ、そんな…」
「じゃーさ、今週中ってどう?」
「…」
「ね。いいね。私、今週末は学会でいないから。」と電話を一方的に切った。
鏑木はベットで仰向けになり天井を深刻な眼差しで見つめ
「こうしなきゃ、私が不幸なる。」とつぶやいた。
白い空間にて
千鶴が線を越えて戻ろうかと足を線の上に持ってきたり戻したりしていた。
後ろをちらと返り見ると、田川がいた。
笑顔で振り返るがすぐに悲しそうな表情になる千鶴だった。
田川の背後に鏑木と千鶴自信が冷たく千鶴を見ていた。
千鶴、線の方に振り戻り、悩まし気に線を見つめた。
金曜日の夜、千鶴の部屋で田川とプレステをしている。
「私、疲れたからちょっと休憩するね。」と田川の背後に回り画面を目にした。
ゲームに夢中の田川。
その背中を見つめる千鶴。
千鶴の心臓の鼓動が響きはじめる。
公園で鏑木に言われた言葉
「一度だけ抱いてもいいよ。」が浮かんでくる。
千鶴の口が興奮の余り震えた。
次々にあの時の言葉が沸いてくる
「その代わりそれを最後にして。」
田川の背中に手をかけようと手を差し出すところ
田川が言った
「再び興味持つことはないしさ。」って言うのを思い出した。
その言葉がいつも心に引っかかってた千鶴。
手が止まり、身を引く。
しかし、引けない気持ちもあって
中林の言葉
「自分の気持ちを伝えるの大事だけどさ!」も思い返していた。
下唇を噛みしめ、目を閉じ決断しようとした。
バッと立ち上がった。
田川が、ん?と少し振り向き「どうしたの?」と聞くが、すぐにゲームを再開した。
千鶴の顔は髪と蛍光灯からの影に暗さがかかっている。
「…ちょっとコンビニ行って来る…」と部屋をでていった。
何も決断できず、階段へ逃げてしまった。
よろめいて階段に座り込み涙ぐむ千鶴。
胸の中に「好きだよぉ。」と言いたくても言えない苦しみが積もるばかりだった。
苦しみに耐え切れずとうとう涙があふれてしまった。
田川がテーブルの飲み物を取ろうと振り向き、千鶴の財布があるのに気付いた。
「あ、財布忘れてる。しかも携帯も。」と財布を持って急いで千鶴の後を追いはじめた。
田川が勢いよく部屋を出て、階段へ向かう。
千鶴は部屋の開く音と駆ける音に気付いて振り向くと、田川が駆け出していた。
田川が止まり、千鶴を見てハッとする。
「ど、どう…」
千鶴は涙を流し、鼻を絶えまなくすする。
「したんだよ。」
千鶴立ち上がった。
田川が千鶴に寄り、向かい合うと
千鶴が声を上げて泣き始める。
田川はおどおどし「どうしたんだよ?」
千鶴、田川の中に寄り掛かり、田川のシャツを握り掴む。
泣く、泣く、泣く。
「す、好きなの。ごめん。」
「え、」と手を千鶴の腕に優しく当てた。
「…抱いて欲しいよ。」
「…」
「ごめん…なさい。」
千鶴、目を開け一瞬泣き止まる。
朝、千鶴の部屋では
服を着ている千鶴と田川がベットで離れて横になっていた。
二人とも目を開けている。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
静かな朝だけど、鈍い朝日だった。
月曜日、昼休みの中庭では中林がベンチでパンを食べていた。
中林に人影が掛り、ん?と見上げると
敬礼している千鶴がいた。
「作戦終了しました!結果、完敗でした。」と笑った。
どこかスッキリした感じだった。
それに答えて中林も笑い
「そう!よくやった!じゃー健闘を祝してこのメロンパンをさづけようぉ。」と
袋からメロンパンを差し出した。
それを受け取り中林の隣に座る千鶴。
楽しく話をし始める二人だった。
「じゃ、次は中国作戦?」と中林。
「うーん、ミサイル落としておっしまいさ。」
「キャハハ!サイコー!」
白い空間で
千鶴は線をまたいで元の場所に立ち
振り返って田川と向かい合った。
田川が去っていく、それを笑顔で手を振る千鶴。
田川が消え、その後に笑顔から寂し気な表情になり下を向く。
足下に線がありその線を足で消した。
終