裏切りの罪と罰




乱れた夜具の上にぐったりと横たわったジェレミアは諦めきった顔をしていた。
衣服を纏っていないその身体を、男が薄笑いを浮かべて眺めている。

「いい加減強情を張らずに、私の知りたいことを教えていただけませんか?」

声は穏やかだったが、その口調が癇に障る。
ジェレミアは返事を返さずに、見下ろしているディートハルトを睨みつけた。

「そんな目で私を脅しても無駄ですよ?」
「わ、私は本当に知らない!」
「そんなはずはないでしょう?いつもゼロの傍にいるのですから・・・それとも、その頑なさがゼロの正体となにか関係があるのですか?」
「くッ・・・!」
「図星みたいですね?貴方が素直にゼロの正体を私に教えてさえくれば、こんな屈辱を味わうこともなかったでしょうに・・・」

「誰にも言いませんから教えてもらえませんか?」と、ディートハルトはジェレミアの耳元に口を寄せて囁いた。

「うるさい!私はゼロの正体など知らない!!知っていたとしてもお前になど教えはしない!」
「そんなことを私に言って、よろしいのですか?ジェレミア卿」

首筋を指先で撫でられて、ジェレミアの背筋に悪寒が走る。
クスクスと笑って「敏感なんですね?」とディートハルトは愉しそうにそれを繰り返した。
元は近づくことさえ畏れ多い存在だったジェレミアが、今は完全に自分の玩具になっている。

「貴族の貴方が民間人の私に一方的に犯されるのはどんな気持ちですか?」
「お、お前は・・・私がお前にゼロの正体を教えたところで、私を脅し続けるつもりなのだろう!?」
「それもいいかもしれませんね」

ジェレミアは眉を顰めた。
征服欲に駆られたディートハルトは、当初の目的だったゼロの正体など、もうどうでもいいようだった。
ただジェレミアを嬲って支配することに喜びを感じている。

「さぁ、そろそろ行かないと貴方のご主人様に怪しまれますよ?」
「うるさい!私に指図するな!」
「そんなことを私に言っていいと思っているのですか?私は貴方の秘密をしっているのですよ?それをゼロに伝えたら、貴方はどう思われるでしょうね?」

ジェレミアは言葉につまった。
ディートハルトの機嫌を損ねれば、知られたくない過去の秘密をゼロにばらされてしまう。
それだけはなんとしても避けなければならない。

「す、すみ・・・ま、せん・・・」

屈辱に顔を歪ませながら発した言葉はジェレミアの高い自尊心を酷く傷つけた。
泣きたいほど惨めな気持ちをぐっと堪えて、ベッドの中で蹲る。
それを満足そうに眺めながら、ディートハルトは口許に歪んだ笑みを浮かべた。

「次はいつがよろしいですか?これでも私は結構忙しいので、そうそう貴方で遊んでばかりはいられませんが・・・そうですねぇ、三日後なら空いていますからそれでよろしいですね?」
「ま、待ってくれ!その日は駄目だ!!」
「何か大事な用事でも?ゼロに何か命令を受けているのですか?」
「そんなことはお前に話す必要はない!」
「私にも言えない密命ですか・・・」
「お前には関係ない!」
「では三日後にお待ちしていますよ」

「待ってくれ」と叫ぶジェレミアに構うことなく、ディートハルトは無情にも部屋の中から姿を消した。










ことの始まりは数日前のことだった。
前々からゼロの正体を探ろうと嗅ぎまわっていたディートハルトは、ジェレミアに目をつけたのである。
元は敵であるブリタニア軍の上層部にいたジェレミアが、なぜゼロに寝返ったのか。
その正体を知ってのことなのではないのだろうかと、推測したディートハルトはしつこくジェレミアに付き纏った。
ディートハルトのその推測は概当たっていたのだが、ジェレミアは予想以上に口が堅かった。
いくらしつこく尋ねても、「知らない」の一点張りでゼロの正体を教えてはくれない。
痺れを切らしたディートハルトは、ついにジェレミアを脅しにかかった。
ゼロの正体を教えなければ、政庁時代のジェレミアの秘密をゼロに話すと言ってきた。
最初はただのハッタリだろうと相手にもしなかったのだが、証拠の写真を突きつけられてジェレミアは激しく動揺した。
それでもジェレミアは口を割らなかった。
あまりのその強情さに、ディートハルトは正面から直接当たったのでは埒が明かないとばかりに、遣り方を変えてきた。
無人の部屋に呼び出して、ジェレミアの弱みをちらつかせながら、ディートハルトはとんでもない提案をしはじめた。

「貴方がゼロの正体を私に教えるつもりがないのはわかりました。口を割るつもりがないのならそれでも結構です。ですが、私にも意地がありますからねぇ?折角こんなにすばらしい秘密を持っているのです。これを有効に使わない手はないでしょう?」

ディートハルトがなにを言っているのかわからなかったジェレミアは、その癇に障る口ぶりに苛立って部屋を出て行こうとした。
しかし、「まだ話はすんでいないのですよ」と引き止められて、足を止めてしまった。
それがいけなかった。

「私は貴方の身体に興味があるのです。私に貴方の身体をくれませんか?もし断れば、この証拠の写真をゼロの目に付くところに置くことになりますが・・・どうしますか?」

ジェレミアの苛立ちは驚愕へと変った。寧ろ驚愕よりも絶望に近かった。
選択肢は二つ。そのどちらも拒む権利は与えられていない。
ゼロの正体を教えるか、その身体を弄ばれるか。
どちらもジェレミアには耐え難いことだった。
しかしその二つを計りにかけたときに、辺境伯で軍部の要職に就いていた自尊心の高いジェレミアがどちらを優先させるかなど、ディートハルトには予め予想がついていた。
ジェレミアは我が身大事さに自尊心を選ぶだろう。
貴族とはそう言うものだし、実際ディートハルトの知っているジェレミアもそうだった。
だから、すんなりとゼロの正体を聞きだせると考えていた。
ああは言ってみたが、ディートハルトはジェレミアの身体にはあまり興味がなかったのだ。
返答に窮してジェレミアは混乱する頭で必死に考えた。
自分はどうすればいいのかと。
貴族の自分が民間人の男に身体を預けるなど、考えただけでも虫唾が走る。
しかしゼロの正体を誰かに話すと言うことは、ルルーシュに対する明らかな裏切り行為だ。

―――主君は裏切れない!

例えどんな目にあわされても、ルルーシュだけは裏切れない。
それがジェレミアの出した答えだった。
ジェレミアの意外な返答に驚きはしたが、ディートハルトはそれを顔には出さずに薄ら笑いを浮かべていた。
このままジェレミアを追い詰めて行けば、そのうちに耐え兼ねて口を割るだろうと考えている。

「それでは、貴方の気が変らないうちに服を脱いでもらいましょうか?」
「こ、こんなところでか!?」
「はい」
「だ、誰か、人が来たらどうする!?」
「別に構わないでしょう。服を脱ぐのは貴方だけなのですから」
「そ、そんな・・・」
「素直にゼロの正体を明かしてくれたらどうですか?」

自尊心を抉るような屈辱的な行為を命じて、ゼロの正体に迫るディートハルトの手の内を理解したジェレミアはぎゅっとくちびるを噛み締めて、躊躇うように上着を脱ぎ捨てた。
ディートハルトはそれをじっと眺めている。
全てを脱ぎ捨てて全裸になったジェレミアを手招きして、自分の前に跪かせると腰のベルトを緩めだした。
俯いたままのジェレミアの前にまだ勃ち上がりきっっていない欲望が曝される。
ジェレミアのくちびるにそれを圧しつけて、「口を開けろ」と命令された。
その声にはさっきまで感じられなかった興奮の色が窺える。
諦めてゆっくりと口を開くと、くちびるに圧しつけられていた欲望が押し込まれた。
「どうすればいいか、わかっていますね?」と言われて、こみ上げてくる吐き気に耐えて舌を絡ませる。
瞼をきつく閉じて、言われるままに舌を動かすと、ディートハルトの口から感嘆の息が零れた。

「貴方はゼロに、こうやって取り入ったのですか?」

ジェレミアは何も答えなかった。
ルルーシュと身体の関係を続けてはいるが、それそれを利用して取り入ったわけではない。
少し捻くれてはいるけれど、それでもルルーシュがジェレミアを大切にしてくれていることは知っている。
この行為は主のその気持ちを裏切る、背徳の行為なのだ。
しかしそれを拒むことは、今のジェレミアにはできはしない。
拒めばルルーシュに知られたくない過去の秘密を暴露されてしまう。
そうなっては、ジェレミアは傍にいることも許されないだろう。
だから耐えるしかないのだと、自分に言い聞かせた。
完全に起立した欲望を喉の奥まで押し込まれて、ジェレミアは噎せ返る。
「全部飲んでくださいね」と、淫猥な笑みを浮かべた男の精がジェレミアの喉に流し込まれた。
後のことははっきりとは覚えていない。
ディートハルトが部屋を出て行った後に慌てて服を纏って、自分の部屋に戻ると、ジェレミアは洗面所に直行したことは覚えていた。
しかしそれで終わったわけではないことをジェレミアは理解している。
自分がゼロの正体を話さない限り、この屈辱は続くのだ。
その後ディートハルトは二日にあけず呼び出して、ジェレミアに屈辱的な行為を強制した。
ジェレミアの唯一の救いだったのは、多忙のルルーシュと顔を合わせる機会が少なかったことだ。
顔を合わせる機会が増えれば、ジェレミアの顔色からその心は人の心理に目敏いルルーシュに簡単に読まれてしまう。
主に身体を求められたら、どうしていいかわからない。
こんな汚れた身体をルルーシュに差し出すわけにはいかなかった。
ジェレミアは泥沼の底に沈んでいく自分を止める術を模索して、考えに考え抜いて、それでもその答えは見つけることができなかった。
そして、指定された三日後、ジェレミアはルルーシュの信頼を裏切った。
ゼロの命令よりも自分の命令を優先させたジェレミアに、ディートハルトは勝利の悦楽に浸りきった。



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