童話








あの風の中で
(散文詩)


もうずいぶん昔のことですが
雲になって しばらく漂っていたころ
つめたい風にさらされて 
あてどなくさまよう 若い女性を見ました
失恋の鋭い痛みに われを失っているのでした

深い悲哀が 彼女の姿を霞ませ 体が透明に成りはじめた時  
はげしい突風が その体を真二つに切り裂いたのでした

半身は色も姿も回復し 何事もなかったかのように 家に戻っていきました
綺麗な顔は 冷たい鉄のような表情に変わっていましたが… 

半身は透明なまま さらに二つに分かれると
ひとつは 白くかわいらしい生き物の姿になると 
風の匂いをかいでいましたが やがて
近くの柔らかなしげみの中に姿をけしました

もうひとつは透明なまま さまざまに形を変えながら
風の中を流れていきました
その悲しみの美しさに惹かれた私は
雲の姿のまま あとを追いましたが
情けないことですが 気弱く 声がかけられないのでした

その悲しみは まるで私の存在に気づきもしないで
小さな湖の上空にたどりつくと
深いエメラルド色の 湖水の底にとけこんでいきました

湖は 微かに波紋を広げましたが
あとは 青い空と雲を映しているばかりでした

私はずいぶん永い間 その空を漂っていたのですが
結局あきらめて そのまま 旅を続けたのでした

話はこんな事件をとうに忘れるほど 時がたったころのことです
永い永い旅と邪悪な呪文との闘いで消耗し
そのときの私は 魔法の力をほとんど失っていました
日が暮れる前に もう一山越そうと考えたのが 間違いでした
厳しい傾斜をやっと上りつめ 黄昏の中に立つと
そこは火山の頂上 火口は 静かな緑の水を湛えた深い湖になっていました
切り立った崖のどこにも休めそうな場所はなく 
険しい尾根をぐるりと回って向こう側にたどりつくのはとても困難に見えました
湖面をまっすぐに渡っていくのが最短距離で一番楽なのは 地形からも明らかでした
判断力も鈍っていたのでしょう 山下に戻る気になれなかった私は
わずかに残っていた魔法の力を使ってみることにしました
さいわい湖水は凍る寸前の冷たさだ…

冷たい水に指をいれ 湖面に玻璃化の秘法をかけた
ガラス化して凍った湖面をゆっくり渡っていく
ちょうど中心あたりに進んだとき
かすかな音がして わずかにひびが入った
思わず立ち止まったが 別条はない
一歩踏み出したら さらにひびは広がった
私はしゃがみこみ まったく動けなくなってしまった
玻璃が割れれば 身を切る湖水の冷たさに 疲れた体は5分も泳げないだろう
魔法の力も せめて1日熟睡できない限り 回復しそうにないが
玻璃は一時間ももたない…

ひびの入ったガラスごしに 微動もできない透明な
エメラルド色の湖水の恐怖の底を 覗きこんだ私は
奇妙な眠りの渦に引き込まれて そのまま小さく石化していく予感の中で
心が一切を諦めはじめていくのを 見つめていました

その時 湖水の深い緑の底から 
青く揺らめきながら こみ上げるように やさしく
近づいてくるものがありました
その若く美しい女神の顔は 湖全体に広がるかと思われるほど
巨きくなりましたが 心配そうな表情のまま
白くたおやかな手を伸べて 玻璃の面を裏側から
そっと支えてくれました

その後のことは 実はよく覚えていないのですが
対岸の山の頂上に立って やっと自分を取り戻した私が振りかえったとき 
もうあの湖の精の姿は何処にもありませんでした
激しい胸の鼓動はなかなか静まりませんでした
急速に闇に沈んでいく森の中に歩を進め
なんとか一夜の眠りの場を整え終え 身体を伸べました
そして黒い梢の隙間に さやかな星空を眺めていると
気になってならなかった たしかに見覚えのあるあの湖水の妖精の顔に
やっと思い当たったのでした

それは あの日の 美しい 悲しみの顔 でした
そして 時間はさらに遡って 
私が苦しい旅の途上で いつか通り過ぎたことがあった 
あの町の あの家の窓辺で
窓硝子に 白くたおやかなその手をそっとふれたまま
私を悲しく見つめていた あの少女の顔でもあったのでした

時は 愛は すでに 遠く遠く過ぎており
もう とりもどしようもない…
涙は流れて止みませんでした

あの星空の彼方に
名も知られぬ小さな星があって
はてもなく広がる草原一面に 咲き乱れる花々…

永い永い冬の終りに 
ついに訪れたその星の美しい春を
やさしい風に揺れる春を
十数年来得られたことのない不思議に深い安らぎの中で
その夜の私は 夢見ることができたのでした









ある魔ものの伝説
(minstrelさんに その2)

昔々 限りない闇の中で 魔ものがまどろみ漂っていました
あるとき魔ものは 自分の混沌とした長いまどろみの中で 世界を夢見ました
すると 星空の下の世界が現れ やがて朝になり 日が昇りました
こうして その魔ものは 光の下の世界を創造したのだと思いました

果てしなく広がる草原一面に 美しい花々が咲き乱れていました
しかし どれくらい時がたった後のことでしたか 
魔ものはなんだか物足りなさを感じました
するとしだいに なんともかぐわしい匂いに包まれて 魔ものは驚きました
こうして 魔ものは 光の世界の匂いを創造したと思いました

おだやかな日の光をあびて 花々は 微かな風に 揺れていました
魔ものは やはり 少し物足りなさを感じました
すると 柔らかな日の光と気持ちのよい風が やさしく肌にふれるのを感じました
こうして その魔ものは 世界の触感を創造したと思いました

森にも林にも 色さまざまな木の実や果物が たわわになっていました
思わず魔ものは 宝石のように美しい果物のひとつを口にしました
しかし 何の感動もなく 落胆しました
すると 口のなかいっぱいに 甘く言いようもないふくざつな味わいが
輝くように広がっていきました
こうして 魔ものは 味覚を創造したと思いました

森にも林にも 山にも野にも 川や海や 空や地の下にさえも 
生きものたちが満ちあふれ うごき戯れて 魔ものはうれしくてなりませんでした
なぎさには やさしく はげしく 波がうちよせて それは
魔ものの幸せな胸の鼓動と ひとつになりました
このとき 海が この魔ものをさらに喜ばせようと 最後の贈り物をしたのでした

魔ものの耳に くりかえしくりかえしうちよせる波の音 川のせせらぎ 
風と木々のさざめき 鳥たちのさえずり 動くもの 生きとし生けるものたちの調べが
壮大な交響曲のように やさしく 生き生きと 聞こえてきたのです
こうして魔ものは ついに自分の全き世界を 創造し終えたと思い
至福の思いに 全身を震わせました

魔ものに 聴覚を贈った 海は かわりに自分の言葉を失いました
魔ものをあわれんで 視覚を贈った星々も 夜空に遠ざかり 
自分の言葉を失っていました
嗅覚を贈った花々 触覚を送った風と日 味覚を贈った果実たちも
それぞれがかわりに大切な自分の言葉を失っていましたが
誰も後悔はしていませんでした 
それはそれぞれが はるかな未来を信じていたからかもしれません  

魔ものは喜びにあふれて自分の世界のすべてに触れ 見 味わい
聴き 匂いをかぎました
永い永い幸せな時の中で 彼は五感のすべてを使って
その世界とすべての事物を捉えきろうとする心を満足させていました
言葉は 今や言葉は 魔ものの思いの中に満ち充ちていました
幸せにあふれた彼は 自分の喜びを語る相手を求めました

しかし 星々は すでに彼と交わす言葉を失っていました
花々も 日も風も 宝石のような果物たちも 海も
もはや 彼と語りあう言葉を持ってはいませんでした
永く永く彼は自分の幸福を語る相手を求めて世界をさまよい続けましたが
ついに出逢うことはありませんでした

魔ものは 星空の下 はるかに海が広がる 高い岩山の頂で
ひざを抱え 涙を流し続けました
果物たちが 花々が 日が風が 海が 星空が
何とか慰めたいと心から願い あらゆる美を彼の前に見せ続けたのでしたが
もはや 世界の何ものも 彼に喜びを与えることはできませんでした
孤独のもっとも深い深遠に落ちていき 彼はついにその果ての絶望の中で
体を 二つに引き裂きました

魔ものは死んでしまいました
星々も 日も風も それを嘆き 海に 花の咲き乱れる草原に 森に林に 伝えました
やがて世界中に とまどいと悲しみが 広がりました
星々が見守る中 風は持てる力を尽くしてうず巻き 
引き裂かれた体をひとつに戻そうとしました
ところが体は それを拒むように もう決してひとつになろうとはしませんでした

風があきらめると 日は燦々と 魔ものの体に光を投げかけました
ついに体は雪が解けるように 二つに分かれて流れ出しましたが
それは 大地にしみこむより早く 白い蒸気となって空にたち昇っていきました
風はそれを 別々の方向へはこび 旅立たせました
かって魔ものであったものは 一片の雲となり 空を流れていきました
自分がどんな形にもなることを楽しみ
かって愛した世界のあらゆるものの姿をまねながら 
何処までも何処までも流れていきました

永い永いときがたち いつしかそれは星の形からそれに似た新しい生きもの 
人の姿をとって 広い広い砂漠をさまよっていました
どんな形にもなれる雲であることにも倦み こころは再び 
強い切望のために 悲しくきしんでいました
言葉はやはりこころの中に満ちあふれ 語りかける相手を求めて
彼方へ彼方へと 彷徨わせるのでした

そして気も狂うような孤独感に身もだえ 
絶望の淵の上で再びこころが引き裂かれようとしたとき
彼は砂漠の彼方に小さな人影を見つけ 走りよっていきました

それは細くしなやかな木を思わせる体つきをした人でした
その白く輝くような体の隅々にまで触れ 見 味わい 
柔らかな胸の鼓動を聴き 匂いをかぎました
かぐわしい花の香りを残すその人を彼は おんな と名づけ そう呼びました
おんなは 太い樹を思わせる彼の
たくましい体の隅々にまで触れ 見 味わい 
かたく厚い胸の鼓動を聴き 匂いをかぎ
あたたかいけものの匂いを残すその人を おとこ と名づけ そう呼びました

おとこは 自分と似ていながらまるで違ってもいる体を持ったおんなを 
自身より愛することができました
そしておんなが 
木々や花々により近づくことが多かった 
永い永い孤独な旅の果てに 現れた 
自分のかけがえのない分身でもあることを知りました
おんなも 自分と似ていながらまるで違ってもいる体を持ったおとこを 
自身より愛することができました
そしておとこが
樹々やけものたちにより近づくことが多かった 
永い永い孤独な旅の果てに 現れた 
自分のかけがえのない分身であることを知りました

二人は たがいの違いを愛であい 
こころに満ち充ちた思いをあふれさせて 
言葉を交し共感し合いました
その行為のほとんどが 
自分たちが強い感動とともに見聞きし 
触れ味わい匂いをかいだすべての愛すべき物事について語り合い 
名づけあうことから始まり終わりました
二人はそれぞれ自由でしたが もう二度と離れようとはしませんでした

愛そのものでもあったその言葉の中で 世界はさらに美しく生まれ変わりました
星々が 花々が 日が風が 宝石のような果物たちが 海が 
二人とその子孫たちが交し合う言葉の世界の中で 
新しい命を与えられ 永遠に再生され続けていくだろうということを 知りました
そして かって自分たちが信じた 未来 が
始まったことを 知ったのでした



03’12/18 了










青空の神話
(月影の木さん に)
 
昔々 いつまでもいつまでも青空が続き ついに空の青さが 星空のむこうにとどくほ
ど 深く窮(きわ)まってしまったことがありました
空は自分の痛々しいまでの青さのその窮みについにたえられなくなったかのように そ
の孤高の極点に 真っ白な馬を生み出しました
白馬は 青空の深い深い窮みから離れると あふれる力をみなぎらせて 何処へともな
く走り去りました

白馬が走り去ってから 永遠と思われるほどの 時間がたったのでしょうか 
青空は 喪失の悲しみ故に 長く長くふるえておりましたが
その悲しみは ついに たおやかな白い鳥の形となって 
白馬の行方を求め 旅立ちました

その 一部始終を見ていた大地は 青空の哀しみをやわらげるため 体をよじるように
水を搾(しぼ)り出すと それを大気として贈り 空にたちのぼらせました
空は 自分を見守り続けていた存在にはじめて気づき 
哀しみとその青さをやわらげ 大地に 近づきました

長い長い時間がたち 空と大地の間には 多くの生命が生まれ育ち 
ついに 心を持った存在 人間が誕生しました 

そのある心の中に あの白馬がすみつき どこまでも自由を求める 強い力になりまし

また別の心の中に 白馬をこがれる白い鳥がすみつき 愛となったのです

この話を誰から聞いたか教えます。
それは五月にしてはあまりに寒いある日、緑の丘にねころがって空をながめていたこと
がありました。
すると、私の胸のあたりから、白い人影が立ち上がると(それは帽子の形からしてもぼ
くの分身に違いありません)、それはゆっくりと階段を上るように、何処までも何処ま
でも高い青空の彼方に消えていきました。
青空の高みに一本の青く透きとおった木が生えており、
どうやら彼はその背の高く細い木にこの話を聞いてきたようなのです。
目覚めるとたしかに私の分身は、私の心の中で私に、その一部始終を語ってくれたよう
なのです。

その木というのが、月影の木さん、どうもあなたであるような気もしてならないのです
が、それはいったい、まるで違ったことであったのでしょうか…… 
    









黒犬

     「今度の遠足は、火山にしようと思うんだが……。」
     「火山って、あの黒犬のですか!」
     「そうだ。」
     校長の硬い表情が、すこし上気しているのに気づいたが、ペータ教
    諭はすぐ、
     「それは危険です。校長、あまりに冒険だと思います。あの火山は
     まだ休火山ですし。それは絶対、あまりに危険が多すぎると思いま
     す。」
 「それはわかってる。だが、ペータ君、生徒たちはぜひともマーシン
 採掘の跡を知っておくべきなんだよ。我々の歴史全体の意味を一度は
     実感して………」
     ガム校長の言葉の背後に世界の廃虚と荒野を感じて、ペータ教諭は
    つらく圧迫された。彼は全責任をかぶる気だ、としても…。
     校長の意識は入り組んでいて、その決断の経路は解き難かった。彼
    は荒野に立つつむじ風を想った。そこから苦悩が反映してくる。校長
    の顔は上気していた。それ以上何を言うことがあろう。
     「コースには海洞をいれれば面白いものになるだろう。」
     「ハイ………」

  生徒たちは大喜びだった。みんな黒犬の伝説はよく知っていたので、
少し緊張して興奮しているのだった。可愛いいポックとピコが、何か
めくばせを交わして嬉しそうにしているのを見て、Kは少し心配そう
    な顔をした。ペータ先生はみんなの様子を見ながら、
     「みんな、もう黒犬の事はよく知っていると思う。今度のコースは
     この図のとおりだが、絶対に……」
 子供たちの冒険は許可されたのだった。するとみんなが自分の生命
を重く、しかしはっきりと感じたのだった。だれも休まなかった。一
人、一人と集まったようだった。黒犬の穴には入らないようにという
    ことは、何度も言いふくめられた。
 「この水沼から出発する。大きい子は小さい子に気を配って、自分か
 ら危険をおかすことがないように。帰りは近道を通って猪ノ口に出る
 んだよ。わかってるね。みんなもう充分にわかってるね。じゃあ……
     …それだけだ。」 
     水沼はエメラルド色に沈んでいた。
  めいめいが色んな格好をした。パンツ一枚になった子が多かったが、
すっかり裸になってしまった子もいた。お父さんから借りてきた水中
めがねをかけた子もいる。Kはいちばん最後にとびこんだ。岩陰や草
    むらに、みんなの下着が、花のように残された。
 水をくぐると洞窟の中に出た。何人もの子供が、おそらくここで、
行方不明になっていると言われていた。誰もが一度は子供のうちにタ
ブーを犯すものだ。ペータ教諭もその一人だった。彼は見覚えのある
    洞窟の中を見渡すと、海の洞の方へ向った。

 海は、海獣口の向こうにあった。海獣口とは、洞が海に向って、海
獣が遠吠えをしているように、口を開けているのでつけられた名だっ
た。しかし遠い海岸線から、押し寄せ駆け上ってくる荒い波を見てい
ると、それこそ海獣の舌のように見えたので、口がどちらに向かって
ついているのかわからないようでもあった。波はちょうど、口のとこ
 ろまでしか来なかった。口の前で子供たちは波をあびて遊ぶのだった。
    口のこちら側は落ちこんでいて、底は小さな池になっていた。
 突然、突風が洞の中から起こって海の方へ向った。みんなは吹きと
    ばされてころがった。ペータ先生は叫んだ。
     「あぶない、折り返しが来るぞ、みんな洞の中へ戻れ!」
 早い子はすぐに中に落ちこんだ。遠くで巨きな波が戻って来るのが
    見えた。あわてて池の中にとびこんだ子もいる。波は凄い音をたてて
    迫った。
 遠くにとばされておくれた子は、必死にペータ先生のそばで口の縁
    につかまった。同時に波をかぶって何も見えなくなった。

 さいわいだれも波には取られなかった。ペータ先生は、みんなを洞
の奥の方へ行かせながら、不安におそわれて黒犬の穴の方を想った。
 ポックとピコは黒犬の穴の中にいた。二匹の黒犬を間にして出口に
急ぐのだが、そんなに奥まで追っかけたつもりはなかったのに、なか
なか出られなかった。穴は狭くて登りの道だった。支柱やはしごの跡
がみえ、板きれがちらばっていた。黒犬は伝説によると、坑内で死ん
で炭化した人間たちが、生まれ変わった姿だと言われていたが、闇の
ように黒いほかは普通の犬と変わりなかった。とてもおとなしく二人
についてくる。だがなかなか出られない。熱くなった。何かたちこめ
    てきた。音がする。
 ペータ教諭が暗い中をうかがうと、Kが走って来た。とても真剣な
    顔をしている。
     「先生、ポックとピコが黒犬の穴に入ったらしいんです!」
     長い時間に思われた。Kたちはようやく穴をくぐって、踊り場の方
    へ近づくとあたりはすっかり熱くなっていた。低い靄(もや)の中に
    黒い人影が、二三ほの見えた。堅くなっているらしく、誰だか見分け
    がつかない。炭化しはじめたのだ。黒い人形のようになって、もう見
    知らぬもののように見えた。
     「K、もうだめだ。」
     「先生、捜してきます。」
     止める間もなく、Kは靄の中へ消えた。
しかしすぐに二人をつれて、Kは戻って来た。ポックとピコは、
 「先生、僕たち本当に黒犬を見つけたんです。それで捕まえようと
 思って。でも、中にはもう、他の子たちがいたんです。僕たちはた
  だ捕まえたかっただけですから、すぐに帰ろうとしたんですが……」
 弁解は禁じられていたのでポックはそれ以上言わなかった。ピコは
    泣き出して
     「みんなもう堅くなっちゃってるんです………」
     「先生、どうしましょう!」
その時にはそのあたりまでひどい熱気で、靄につつまれていた。
 「もうだめだ。諦めるんだ。心配しなくてもいい。もう取られてし
 まったんだからね。僕らは僕らの処へ早く帰るんだ。またいっしょ
 になれたことを喜ぶんだよ。さあ、もう何も心配しなくてもいい。
     僕らは前だけを向いてゆこう。」
 まわりの壁面はめきめき赤みを帯びて、皮膚が焦げるように熱かっ
    た。
     みんなはもう走っていた。
 みんなが猪ノ口から吹き出されるように出たころ、誰もいなくなっ
た地下では、踊り場で黒犬たちが、人間の形に戻って、すっかり炭化
して固まった新しい仲間を、優しく愛撫してやっていた。すると動き
だして、黒い皮膚のものに生まれ変わった人間たちは起き上がった。
まだ、まだらに白いのもいて、新しい者たちは総じて今は黒みが薄か
ったのだったが、しかし彼らは昔からの兄弟のように仲よく、さらに
    熱い地底の方へと歩いていった。



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絵本「魔法の林でかくれんぼ」
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絵本「猫たちの肖像画」
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