ビールもどきに未来はあるか

 かつて同人誌「びいるじゃあなる」第35号(1994年11月20日発行)に「ホップスに未来はあるか」という記事を書いたことがある。

 ちょうどその年の10月20日にサントリーより日本で最初の発泡酒「ホップス」が発売されたのである。そこでそのレポートを兼ね、麦芽比率と酒税の関係についてまとめたのであるが、今また同じようなことを書こうとしている。

 ここにきてサッポロから「ドラフトワン」、サントリーから「麦風」という今まで違ったジャンルの酒が発売されたのである。

 「ドラフトワン」は「えんどうタンパク」を使った醸造酒で、麦も麦芽も使っていないので酒税法上では税区分が「雑酒・その他の雑酒A」にあたるという。

 一方の「麦風」はビールに麦焼酎を加えたカクテルなので、酒税法上の税区分は「リキュール類」にあたるという。

 どちらも税金対策であることは言うまでもないが、ちなみに1キロリットルあたりの税金は以下のようになっている。

   

ビール

222,000円

麦芽使用量25%未満の発泡酒

134,250円

リキュール類

119,088円

雑酒・その他の雑酒A

103,722円

 

ということで、確かに税率は発泡酒より「ドラフトワン」や「麦風」の方が低く、その分店頭での小売価格を下げることが出来るだろう。

 実際に飲んでみると、「ドラフトワン」はいかにも「ビールもどき」だ。コクも香りも乏しく、泡持ちも悪い。明らかに味は発泡酒に劣る。まずくはないが、ビールとは似て非なるもの、という気がする。普及するかどうかは小売価格次第であろう。

 一方の「麦風」はビールが原料(?)だけあって、味はいける。ビールと発泡酒の中間くらいの味か。まずいよ、これ。いや、味がまずいんじゃない、味がまずくないからまずいのだ。ってますますわかりにくいか。

 ようするに確実に国税庁と財務省が狙ってくるだろうということである。4年もの歳月をかけてえんどうタンパクからビールに似た味を作り出したというサッポロはともかく、ビールに麦焼酎を入れただけで「これはリキュールです」というサントリーの主張は、明らかに「反則技」の趣があって、モロに突っ込まれそうである。

 しかし、もし増税される時は「リキュール類」だけではなく当然「雑酒」もターゲットになるので、そうなればサッポロの4年の歳月をかけた研究費はパーになってしまうだろう。

 

 「びいるじゃあなる」の「発泡酒に未来はあるか」という記事は次のような言葉で締めくくってある。

 

「……ところで、ホップスが売れていると次のことが予測される。売れている商品にすぐに右に倣えするのが日本のビールメーカーの常であるから(それはかつてのドライブームを見てもわかる)、当然ホップスの類似商品が出ることが考えられる。それら類似商品も含めた「麦芽発泡酒」が、酒の一つの分野として定着していく可能性も十分に考えられるだろう。さて、そうなった時に大蔵省・国税庁がどう出るか。「ビールと同じものという認識で売られている」と、ビール並みの税率を課してくることも決してないとは言えまい。

 ゲリラ的と言おうかアウトロー的と言おうか、新しい試みの酒・ホップス。この酒にまで新たな法の手が伸びるようなら、日本の未来は暗い。」

 

 この1994年の予言はピタリ的中しちゃったんだけど、歴史はまた繰り返すんだろうか……。

 それにしてもこのいい加減な「酒税法」の改革(全般的にもっと下げろ! 取りすぎだ!)を公約に掲げる政党って出ないものかな。あれば、我々飲兵衛はそれこそこぞってそこに投票するのにね。

 

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