「生」と「瓶」は同じもの?

 最近はどこの飲食店へ行っても一年中「生」ビールを置いている店が珍しくなくなった。

 かつてはサーバーを使ってジョッキに注ぐ「生」ビールは、ビアホール等を除くと夏場しかやっていない店が多く、それ以外の時期は瓶ビールだけであった。だから、暑い時期に飲食店に入って「生」をやっていないことがわかるとがっかりしたものである。

 あのジョッキで出てくる「生」こそがビールの醍醐味である、と考える人は今でも少なくないはずだ。

 ところでこの業務用の樽に入った「生」と、瓶に入ったビールとの中身は別のものなのであろうか。

 正解は「同じ」。まったく同じものである。

 瓶ビールがまだ熱処理のラガーばかりだった頃には、非熱処理の「生」との間に違いはあったかもしれないが、現在のビールは殆どが非熱処理なので、樽も瓶も缶も同一のタンクで作られるのだから、当然同じビールということになる。

 では、何故ジョッキの「生」ビールの方が美味しく感じられるのか?

 一つには品質の安定という問題はあるだろう。大容量の容器で工場や問屋から店へ直接搬入される樽の方が、おそらく鮮度の点で有利であろうということはある。一方の瓶は少容量である上に、搬送途中で日光の影響も受けざるを得ない。加えて家庭で飲まれる場合には、小売店を通している分どうしても鮮度の点で不利であろう。そのため、「瓶より生の方が上」というイメージが既に定着してしまっていて、その先入観で味を判断している場合が少なくない。

 だが、ビールの配送システムは以前とは比較にならないほど改善されている。

 もはや鮮度の点で樽生と瓶との優劣を云々できるほどの差はないと言っていい。

 それどころか、樽生ビールは余程上手にサーバーを使いこなさないと美味しくはならない上に(実際には使いこなせていない店が大多数)、瓶よりも値段が割高の場合が圧倒的に多い。

 もはや「生>瓶」ということは一概には言えないということだ。

 

 「(所謂普通の)店に入って生と瓶があったら、迷わず瓶ですよ。」

 日本一のビール注ぎの名人、故・新井徳司氏が生前にそうアドバイスしてくれたことが忘れられない。

 

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