《サッポロ 畑が見えるビール》〜生産者の顔が見える!?

 サッポロは2006年から麦芽とホップとを100%協働契約栽培化したという。ということで、ドイツの協働契約農場で栽培した大麦とホップを使用したビールが、この「畑が見えるビール」という訳。実にわかりやすいネーミングではある。

 このビールはメーカーによると「へレスタイプ」とのこと。ヘレスタイプは従来日本で親しまれてきたピルスナータイプと同様、下面醗酵の淡色ビールではあるが、ピルスナーほどホップを利かせていないのが特徴なのだとか。

 ところで、このレポートを書くためにメーカーのホームページを参照したのだが、どうにも書いていることが無茶苦茶なのでマイッタ。

 「従来の麦芽100%ビールは、麦芽とホップの風味が豊かな反面、重たいテイストになりがちでした。」

 このくだりはアサヒのホームページの「熟撰」のページにあったのと同じ台詞である(それにしても自社の主力製品である「ヱビス」を間接的に批判してしまってどうするんだろう?)。

 更にこう続ける。

 「『サッポロ 畑が見えるビール』はビールの本場、ドイツ・ミュンヘンで親しまれているへレスタイプを採用。麦芽100%なのにスッキリ爽快、麦の風味がほんのり香る飲みやすいテイストを実現しました」

 「へレスタイプは(中略)ホップの香りを控えめにし、麦芽の風味を前面に出した淡色のビールのことです」

 ???である。このビールはいったい麦芽の風味が豊かなのか、そうでないのか?

 実のところこのコピーを書いた人も、ちゃんと整理できていないのではないかと思われる。最初に「麦芽とホップの風味が豊か」と「重たいテイスト」を結び付けちゃったもんだから、麦芽の風味をどう扱ったらいいのか混乱してしまったのであろう。

 そもそもが「重たいテイスト」とか「すっきり爽快」とか訳のわからんイメージ戦略で売ろうとしていることが根本的な誤りなのだ。

 例えばワインで、皮を除いて果汁だけを醗酵させた白ワインに比べ、皮ごと醗酵させている赤ワインはコクや渋みや香りがより複雑な味わいとなっている訳だが、これを「重たいテイストになりがちだ」などと表現するしれものはいないし、「スッキリ爽快な」赤ワインを誇るたわけたワイナリーもない。何故なら、複雑で深い味わいこそが赤ワインの魅力だからだ。

 ビールも同様に、タイプによって個性があるのだから、その個性を消費者にきちん理解してもらえるような売り方をすべきなのだ。「ピルスナーの味はこう」「ヘレスはこう」「デュンケルはこういう味」。「こういうシチュエーションでこのように味わってください」と。

 メーカーにそのような姿勢がなければ、いつまでたっても日本のビールは「キンキンに冷やして喉の渇きを癒す最初の一杯だけの飲み物」から脱することは出来ないであろう。

 オールモルトのプレミアムビールなのに、茫漠としてつかみどころがない味わいのこの「畑が見えるビール」は、生産者の顔よりもむしろ販売者の姿勢が見えてしまうビールなのである。

 

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