★ジャックポットの的中者が同時に二人以上いる場合の補正


 宝くじ・ロトや、ビデオポーカーやスロットマシンの一部に一等賞(ビデオポーカーならロイヤルフラッシュ)の獲得者がいないと、どんどん賞金が積み立てられて行くジャックポット形式のものが沢山あります。普通は一等賞を的中する人は一人として考えますが、ジャックポットが溜まりにたまったロト等では二人以上の的中者が同時に出現する可能性があります。従って、期待しうる一等賞金もそれに応じて少ない方向に補正する必要があります。どの程度補正すれば良いのかという考え方を書いておきます。(稲妻NFLの方の質問に反応したものです。質問者のnayami様有難うございます。)


考え方

宝くじ・ロトや、ビデオポーカーやスロットマシンの一部に一等賞(ビデオポーカーならロイヤルフラッシュ)の獲得者がいないと、どんどん賞金が積み立てられて行くジャックポット形式のものが沢山ある。
 この期待値を計算するのに、「複数の人が同時に一等賞に当たる可能性があるので、ジャックポットの表面上の金額を単純に用いるのはおかしいのではないか?」というご質問を掲示板で受けた。

 なかなか面白い話なので、どのような補正を行えば良いのかをさくっと計算してみた。次のモデルケースを考える。

モデルケース1
 ロトの積み立て型の1等賞金で、もし複数の当選者が入れば、当選した人数で賞金を按分するというルールであるとする。賞金が積みあがってA円となっているので、次回のロトは大人気となり、平均して「n人」の当選者が出る分のクジが購入される状況であるとする(100万本に1本当たるクジなら、n×100万本が販売されたということ)。この場合に、1等賞金をどのように補正して、ロトの期待値を計算すればよいか?

答:2人の的中者がいれば1等賞金は1/2に、3人なら1/3に目減りしてしまう。そこで、実際に一等が当たった時のその期待値をr×A円とする。言い換えれば、期待値の計算に用いるべき一等賞金(実効的な一等賞金)をA円→r×A円に補正する。この場合の、補正係数rは
 r = 1/n×(1- exp (-n))
となる。(式の導出は下に)
  
  このnとrの関係を示したのがグラフの青線である。比較のため、平均的にn人の当選者がいるので単純にr = 1/nであるとした場合の曲線をピンク色で示している。概ねn>4の領域では r = 1/nで計算してもほぼ問題のないことが分かる。一方で, nが小さくなるにつれ、この近似の精度はどんどん低くなり役に立たないことも読み取れよう。(また、rは1以下にならなければおかしいので r =1/n の近似式はnが1以下の時には用いることが出来ない)。
 例えば n = 1のときには 、全く補正を行わない場合もr =1/nで補正を行った場合も、一等の実効的な賞金はA円となるが、実際には r = 0.632となり実質的な一等賞金は大幅に目減りしてしまう。言い換えれば n = 1程度の状況(100万本に1本当たるクジがちょうど100万本売れた状況)であっても、1等賞金を他人と分割しなければず、実際に手に入れることの出来る賞金が1/2以下になるリスクは非常に高いので注意が必要であるということである。外国のロト等で1等賞金の積み立てが青天井の場合に、ごくたまに「一見」positive EVなロトが出現することもあり得る。しかし、このような状況でも正しい補正をすれば実はnegative EVな状況も幾らでもあり得る。購入の際には想定されるクジの販売本数をしっかり予想し、期待値の補正を行うことがロト攻略法になろう。(日本のロトやtotoは確か1等賞金の上限があったと思うので、ちょっとこれとは問題設定が異なる。多分positive EVにはならないと思う)

モデルケース2
 ビデオポーカーのロイヤルフラッシュのジャックポットが積みあがっている。また、全く同時に複数の当選者が出ることはないものとする。賞金が積みあがっており、ジャックポットが最低金額である場合に比べて、A円分ロイヤルフラッシュの配当が高くなっているとする。また、全員が1ハンドプレーすると平均して「n人」の当選者が出る人数がプレーしているとする。この場合に、ロイヤルフラッシュの賞金をどのように補正して、ビデオポーカーの期待値を計算すればよいか?

答え:全員が全く同じタイミングで同期しながらプレーすると想定すれば良い。同時にロイヤルを引いたプレーヤーがいた場合は、賞金を人数で按分する代わりに、ロイヤルを引いたプレーヤーのうちの1名にランダムに賞金全額を与えるものとする。このように考えても、個々のプレーヤーの期待値は変わらない。従って答えはモデルケース1と同じとなる。即ち、期待値の計算に用いるべきロイヤルフラッシュの賞金の増加分をA円→r×A円に補正するとした場合、補正係数rは
 r = 1/n×(1- exp (-n))
となる。
この場合、実際には、あるハンドをプレーしている途中に他のプレーヤーにロイヤルを引かれてしまい、かつ自分がそのハンドでロイヤルを引くという非常にアツイ状況となるリスクを計算していることになる。

 ビデオポーカーの場合には、約4万ハンドに1回程度ロイヤルが出る。 例えば、N =0.001, 0.01, 0.1の場合、rはそれぞれ 0.9995, 0.995, 0.952となるが、これは同時に40人、400人、4000人のプレーヤーがプレーしていた場合のロイヤルフラッシュの賞金の実効的な金額がそれぞれ、0.9995, 0.995, 0.952 ×Aになるということを意味する。この程度の人数であれば、賞金の目減りはそれほど気にする必要がないということが理解出来るかと思う。


(参考)式の導出

モデルケース1で説明する。ジャックポットの額をA円, 販売されたクジの数をN, クジの平均的中数をnとする。題意よりN>>1, p<<1
すると、 n = Np ≒ (N-1)p 即ち、ある特定の一つのクジ以外の残りのN-1個のクジのうち平均的に的中する本数もn。

(1) もし何本当たってもA円づつの配当がつくととすれば、 その期待値はpA円 ---(1)
(2) 全部でi本のクジが的中し、賞金をA/iづつ按分する場合(i≧1)

 iを固定して考えると、
賞金額はA/i,
特定のクジの的中確率はp
残りのN-1本のクジのうち(i-1)本のクジが的中する確率はNが十分大きいのでポアソン分布で近似でき、
  n^(i-1)
  -------×exp (-n)
  (i-1)!
よってこのときの賞金期待値は
    n^(i-1)              1    n^i
Ap×-------×exp (-n) = Ap×--× -----×exp (-n)
     i!                n     i!

をi は1〜Nまでの場合について足したもの。今の場合、N>>1なので、iは1〜∞まで足すと考えればよい。これを求めれば最終的な賞金期待値が出るが

            n^i
    Σ    -----×exp (-n) = 1なので (ポアソン分布確率の和は1.あるいは指数関数のべき乗展開)
(iは0から∞)    i!


            n^i             n^0
    Σ    -----×exp (-n) = 1 -  ----×exp (-n)= 1 - exp (-n)
(iは1から∞)    i!              0!

よって賞金期待値はAp×1/n×{1 - exp (-n) }    --- (2)

補正係数rは(1)と(2)の比なので1/n×{1 - exp (-n) }


【ホームページへ戻る】