読者からの質問と回答 01001 〜 01010

H.O.さんからの質問 #01010

『はじめよう位相空間』例題 5.16 (68ページ):
f^{-1} の終域を E^2 に変える理由を教えて下さい.

『はじめよう位相空間』の例題 5.16 (p.68) の証明について,
f^{-1} の終域を E^2 に変えなければならない理由を教えて下さい。

お答えします:

この例題の証明の鍵は定理 5.14 を使う点にあります.
定理 5.14 は E^n を終域とする写像に関する命題ですので,それを適用するために f^{-1} の終域を E^2 と考えました.


H.O.さんからの質問 #01009

『はじめよう位相空間』演習問題4の問題6(1) (58ページ):
この問題について教えて下さい.

「はじめよう位相空間」の中の演習問題4,問題6 (1) について,
ε = 1/100 に対する答えは,δ = 1/40000 でよいでしょうか?

お答えします:

正解です。
なお,正解はこれだけではありません. 1 以下のすべての正数 δ が正解です.
その理由を考えてみて下さい.


H.O.さんからの質問 #01008

『はじめよう位相空間』演習問題4の問題5(1) (58ページ):
この問題について教えて下さい.

『はじめよう位相空間』の中の演習問題4,問題5 (1) について,
ε = 1/100 に対する答えは,δ = 1/300 でよいでしょうか?

お答えします:

正解です。
なお,正解はこれだけではありません. 1/300 以下のすべての正数 δ が正解です.


S さんからの質問 #01007

位相空間は、社会的に何か役に立つことがあるのですか?

位相空間の授業を受けている学生で、Sと申します. 位相の抽象性に戸惑いながら勉強しています.
今日の授業が終わって、友達と話をしていると、
位相空間は、社会的に何か役に立つことがあるのですか?
という話題になりました.
社会の役に立っていないような気がしています. どんなことに位相空間は役立つのですか?

難問です.お答えしてみます:

位相空間が社会にどう役立つかというご質問ですが,位相空間によって自動車が走ったり病気が治ったりすることがないので,もっともな疑問だと思います.
位相空間が数学の発展に役立っていることには疑問の余地がありません. 実際,現代数学のほとんどすべての分野は大なり小なり位相的な考え方を使っています. したがって「数学が社会にどう役立つか」という問いへの答えが,結局のところSさんのご質問に対する答えになるのではないかと思います.
いろいろな答えがあると思いますが,私の意見を1つ書きます.
数学以外の自然科学では,研究の進歩によって過去の定説がくつがえることがよくあります. 最近も,太陽系の大きさがこれまでの定説よりも3倍近く大きいことが分かったという新聞記事がありました. また,ある病気の特効薬だと考えられていた薬が実は重い副作用を持っていたというようなニュースもよく耳にします.すなわち,自然科学においても,真理は時代とともに変化すると言えます.
一方,数学ではこのようなことは起こりません. 三角形の内角の和が180 度であることはギリシャ時代に証明されましたが,現在も 180 度であり,将来も180 度です.現代の超精密機器で測定すると実は 180.000002 度であったというような事件が起こる心配は決してありません. これは,他の科学のように実験や測定の結果を真であると認めるのではなく,論理的に証明された事実だけを真と認める数学の特徴によるものです.
私は,混沌とした人間社会の中で,少なくともこれだけは絶対に正しいと言える真理を探求している学問が数学ではないかと思います.数学の定理によって病気は治りませんが,もし我々が新しい定理を証明したとすれば,それは人類全体 に共通な永遠の真理を1つ手に入れたことになります.
ところで,証明を最初に始めた人は誰かご存知ですか?  それはギリシャ7賢人の1人であるタレスだと言われています. タレス以前の古代エジプト文明やバビロニア文明には証明という概念がなく,正しい数学的知識と正しくない数学的知識が混在していました. タレスはそれらの真偽を判別する手段として証明を始めたのではないかと推測されています. 彼は「対頂角は等しい」のような簡単な命題から証明を進めて,最後には「同じ弧の上の円周角は等しい」ことなどを証明しました. それらの定理は 2000年以上のちの現代でも正しく,いま私達は中学校で学んでいます.
科学が発達したとは言え,我々は周囲はまだまだ未知の世界です.その中から不変の真理を見つけだす数学は社会に役立っているとは言えないでしょうか. いかがでしょうか. 


T.T.さんからの質問 #01006

『はじめよう位相空間』演習問題7の問題8 (99ページ):
全射連続写像 f : QZ の例を教えて下さい.

たぶん7章の章末問題にあったと思うのですが,
全射連続写像 f : Q --> Z の例を考えているのですが, さっぱりわかりません.
f(x) = x (x が整数のとき),
f(x) = 0 (xが整数でないとき).
こうすると全射は満たすのですが,連続にはなりません.
答えを教えてください.気になって仕方がないのです・・・ 

お答えします:

確かに,Tさんの例では,全射ですが連続ではありません.
答えを聞くと「なーんだ」とがっかりしてしまうかも知れませんが,1つの例をご紹介します.

無理数 a を1つ選びます(例えば,2 の平方根).
次に,各整数 n について,集合 U_n を
U_n = {x ∈Q : na < x < (n+1)a}
と定義します.
すなわち,U_n は R の開区間 (na, (n+1)a) と有理数の集合 Q との共通部分です.
最後に, 写像 f : Q --> Z を U_n に属する x に対しては f(n) = n と定めます.
このとき, f は全射です.
さらに『はじめよう位相空間』の中の例題 7.11 と同じ議論によって, 写像 f は連続であることが分かります.

上で定義した写像 f のグラフの概形を描いてみて下さい.
正負の方向に無限にのびる階段状のグラフを持つことが分かると思います. 段差の所の数 na が Q に属さないことが,f の連続性の鍵になっています.

気になる問題にこだわりを持つTさんの姿勢は,大切だと思います.


K.K.さんからの質問 #01005

『はじめよう位相空間』例 10.12 (130ページ):
位相空間 (S, T_1) の開集合は,なぜ φ, {b}, {a,b}, {b,c}, S の5つなのでしょうか? 

どうも,はじめまして. 『はじめよう位相空間』の本を購入いたしました.
早速,読み進めていったのですが,少々わからないことが出てきましたので, 質問なのですが,よろしいでしょうか??
p.130 の 例 10.12 及び 問5についてなのですが, まず,例10.12 の (S, T_1) の開集合は,なぜ
φ, {b}, {a,b}, {b,c}, S の5つなのでしょうか?
{a}, {a,c} などは,(S, T_1) の開集合にはなぜならないのでしょうか??
この点に関して,わからなかったので,できれば教えていただけないでしょうか??

お答えします:

例 10.12 の位相空間 (S, T_1) とは,そこに書かれてあるように,例 10.6 で定めた位相空間のことです.
一般に,位相空間 (S, T) を作るには,まず集合 S をとり,次に開集合になる S の部分集合を自分で定めます.
そのときに定めた開集合全体の集合族が位相構造 T です.

例10.6 では,集合 S = {a, b, c} をとり,次に
T_1 = {φ, {b}, {a,b}, {b,c}, S}
と定めました. したがって,位相空間 (S, T_1) の開集合は
φ, {b}, {a,b}, {b,c}, S
だけです.
一方,{a}, {a,c} などは T_1 に属していないので,位相空間 (S, T_1) の開集合ではありません.

以上で答えになったでしょうか?
さらに疑問があれば,遠慮なくご質問下さい.


R.K.さんからの質問 #01004

『はじめよう位相空間』演習問題5の問題7 (65ページ):
2次元球面から1点を取り除いた図形と E^2 が位相同型であることの証明を教えて下さい.
2次元開球体と E^2 が位相同型であることの証明を教えて下さい.

『はじめよう位相空間』の 65ページの n = 2 の場合(2次元球面から1点を取り除いた図形と2次元ユークリッド空間と2次元開球体が互いに位相同型であること)の解答をお願いします.
独学でやっているのでつまづいてしまいました. ぼくは高校2年生なのですが,数学がすきなので買って始めました.

お答えします:

高校2年生で独学とは,感心しています.

ご質問の内容は演習問題5(75ページ)の問題 7 と問題 8 に他なりません.
解答は 『解いてみよう位相空間・改訂版』の問題 5.7 と問題 5.8 の解答をご覧下さい.

2017/3/8 加筆.


H.I.さんからの質問 #01003

位相空間 (X, T) と位相構造 T の濃度の関係はどのようになっているのですか?

定義には「集合 X の部分集合族 T が位相の公理 (O1), (02), (O3) を満たすとき,T を X の1つの位相構造といい,位相構造 T の定められた集合 X を位相空間という」とありましたが,X, (X, T), T の集合の濃度の大きさはどのようになっているのですか?
X のべき集合を P(X) で表すと,
card(X) = card(X, T) ≦ card(T) ≦ card(P(X))
のようになっているのですか?

お答えします:

位相空間 (X, T) において,X, (X, T), T の濃度の間の関係はどうなっているかという質問だと思います.質問の中の数式について,3つに分けてお答えします.

1. X の濃度と (X, T) の濃度の関係:
位相空間 (X, T) とは,集合 X と位相構造 T がペアになった概念であると考えられます. それでは,位相空間 (X, T) の濃度とは何を指すのでしょう?  一般には,集合 X の濃度のことを意味しますので, 等式 card(X) = card(X, T) は正しいと考えられます.

2.X の濃度と T の濃度の関係:
実例を考えてみましょう. 3点からなる集合 X = {a, b, c} に位相構造 T_1 = {emptyset, {b}, {a,b}, {b,c}, X} を定めた位相空間 (X, T_1) を考えると,
card(X) = 3 < 5 = card(T_1).
次に,同じ集合 X に別の位相構造 T_2 = {emptyset, X} を定めた位相空間 (X, T_2) を考えると,
card(X) = 3 > 2 = card(T_2).
以上の例からわかるように,card(X) と card(T) とは,一般にどちらが大きいとも言えません.
なお,少し進んだ議論をすれば,ハウスドルフ空間 (X, T) に対しては,不等式 card(X) ≦ card(T) が成り立つことが証明できます.

3.T の濃度と P(X) の濃度の関係:
X の位相構造 T は X のべき集合 P(X) の部分集合です. したがって,不等式 card(T) ≦ card(P(X)) が成立します. 特に T が離散位相の場合には,等号が成り立ちます.


E.K.さんからの質問 #01002

高次元空間での回転は,どの様な写像によって与えられるのですか?

数日前に大学の生協で『はじめよう位相空間』の本を買って来て,今,ゆっくりではありますが,時間を見つけては読み進めています.
ところで,さっそく質問なのですが,p.9 に「高次元の座標空間内でも,合同変換・・・」とありますが,高次元での回転と言うのは,どの様な写像によって与えられるのですか?
平面の場合には複素数で考えて分かるのですが,複素数では2次元から抜け出せません。やはり,cos, sin からなる回転を表す様な n 次の行列があるのですか?

お答えします:

n 次元空間における回転は n 次の直交行列によって表現されます.
もう少し詳しく説明するために,3次元空間 R^3 の場合を考えてみましょう.
3次元空間における回転を考えると,回転軸上の点は動かないことに気付きます.
そこで,x 軸が回転軸になるように座標変換をして,そのまわりの回転角を θ とします.
このとき,この回転によって,x 座標は変わらず,y 座標と z 座標だけが
(1) Y = y cos θ - z sin θ
(2) Z = y sin θ + z cos θ
に変わります.

4次元以上の空間 R^n における回転を想像することは困難ですが,適当に座標変換をしたとき,2つの座標だけが上の (1), (2) のように変わり,残りの座標が 変わらない写像を R^n における回転と考えます.
この写像は直交行列で表現される線型写像(=直交変換)です. 逆に,任意の直交変換は鏡映といくつかの回転の合成写像として表すことができます(松阪和夫著『線型代数入門』10 章13 節を参照).
なお,本書を読むためには,2次元までの理解で十分でしょう.


E.H.さんからの質問 #01001

空間の部分集合とはどのような意味でしょうか.

私は数学科ではないので,あたりまえのことを質問しているかもしれませんが,教えてください.
『はじめよう位相空間』の p.13 に「E^n は集合ではなく空間と呼ばれる」とあって, 次ページには「E^n の部分集合」という言葉があります.
部分集合というのは,集合の中にあるものではないのですか?

お答えします:

少しも当たり前の質問ではありません.
数学はちょっとした言葉遣いで分かったり分からなくなったりするので, 大変貴重な質問だと思います.

p.13 の定義 2.2 では,
「2 点間の距離を数式 (2.1) によって定めた集合 R^n を n 次元 ユークリッド空間とよび記号 E^n で表わす」と書きました.
簡単に言うと
「空間 E^n = 距離が定められた集合 R^n」
ということですが,この関係は
「老人 = 年をとった人間」
に似ています. 人間は年をとると老人になりますが,人間でなくなってしまう訳ではありません.
同様に,集合 R^n に距離を定めると空間 E^n になりますが, これはよび方と表し方が変わっただけで,集合でなくなってしまった訳ではありません.

したがって,ご質問に対する答えは:
我々は E^n のことをユークリッド空間とよぶが,集合であることには変わりはないので, その一部分を部分集合とよぶことができる.
これで答えになったでしょうか.


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