読者からの質問と回答 01021 〜 01030
『はじめよう位相空間』演習問題 12 の問題 12(182ページ):
E^1 - {0} と E^1b-b{0, 1} が位相同型でないことを証明するヒントを下さい.
演習問題 12,問題 12 の (2) についてですが,E^1 - {0, 1} は連結だからかな?と思うのですが,
その理由のヒントを頂きたく,よろしくお願い申し上げます.
お答えします:
E^1 - {0, 1} は連結ではありません.
位相同型写像 f: E^1 - {0} --> E^1 - {0, 1} が存在したと仮定して,
次の順序で矛盾を導くのがよいと思います.
1.A = {x : x < 0}, B = {x : x > 0} とおく.
2.A と B は E^1 - {0} の連結集合.
3.f(A) または f(B) の少なくとも一方は非連結(なぜか?).
4.これは,系 12.7 に矛盾する.
『はじめよう位相空間』演習問題 12 の問題 11(182ページ):
2次元球面 S^2 の連結性を証明するヒントを下さい.
演習問題 12,問題 11 のヒントを頂きたく,よろしくお願い申し上げます.
ヒントです:
E^3 の中の 2 次元球面 S^2 の連結性を証明する問題です.
問7(p.173)の解答の別証明と同様に証明すればよいのですが,
平面ではないので極座標が使えません.
そこで次の3段階に分けて証明を進めます.
1.まず,E^3 - {0} が連結であることを示す.
2.E^3 の点をベクトルと考えると,
写像 f: E^3 --> S^2 ; x |--> x/|x| は連続(なぜか?).
ここで,|x| はベクトルの絶対値(=大きさ).
3.S^2 = f(E^3 - {0}) だから,定理12.6 より S^2 は連結.
この証明は,問7(p.173)の解答の別証明の3次元版と考えられます.
また,n > 3 の場合に拡張することも容易です.
『はじめよう位相空間』演習問題 5 の問題 19(76ページ):
「鏡映が距離を保存しない」とは,どういう意味ですか.
演習問題 5 の問題 19 は,問題を見ても何をすべきかよく分かりませんでした.問題文の
「鏡映が距離 d_1(p, q) を保存しない」
という部分がどういう意味なのか教えていただきたいです.
お答えします:
説明不足だったかも知れません.
第 1 章で説明したように,鏡映は平面 R^2 から R^2 への写像です.
一般に,写像 f : R^2 --> R^2 が距離 d_1(p, q) を保存するとは,
任意の 2 点 p, q ∈ R^2 に対して,d_1(p, q) = d_1(f(p), f(q))
が成り立つことを意味します.
したがって「鏡映 f が距離 d_1(p, q) を保存しない」とは,
「鏡映 f について,d_1(p, q) ≠ d_1(f(p), f(q)) となる2点 p, q ∈R^2 が存在する」という意味です.
この問題は,そのような鏡映 f と2点 p, q の具体例を与えよということです.
p. 73, 74 に「回転が距離 d_1(p, q) を保存しない」ことを示した例がありますので,参考にして下さい.
『はじめよう位相空間』演習問題 3 の問題 15(43ページ):
3 次関数が全単射であるための必要十分条件は,この考え方でよいでしょうか.
演習問題 3 の問題16(43ページ)
関数 f(x) = ax^3 + bx^2 + cx + d が全単射であるための必要十分条件を考えていたのですが,a ≠ 0 のときは,
(1) ax^3 + bx^2 + cx + d = 0 の解が x =αの 33重解1つであること,
(2) f が単調増加であること,
の 2 つを考えてみたのですが,これだけでいいのでしょうか?
a = 0 のときは,b = 0 で c ≠ 0 ならば f(x) = cx + d は全単射で,b ≠ 0 ならば f は全射でも単射でもないと考えていいのでしょうか?
お答えします:
後半の a = 0 のときは,その考え方でよいと思います.
前半の a ≠ 0 のときは,(1) と (2) は f が全単射であるための必要条件ではありません.
なぜなら,例えば,関数 f(x) = -x^3 + 1 は全単射ですが,-x^3 + 1 = 0 は3重解を持たないし f も単調増加でないからです.
正しくは,a ≠ 0 のとき,f(x) = ax^3 + bx^2 + cx + d が全単射であるための必要十分条件は「f が単調増加または単調減少である」ことです.
このことを,a, b, c, d を使って表現すれば,それが正解です.
なお,ここで f が単調増加であるとは,
任意の実数 x, x' に対して,
x < x' ならば f(x) < f(x')
が成り立つことを意味します.後の不等号に = が付かないことに注意して下さい.
単調減少についても同様です.
『はじめよう位相空間』の章末の演習問題の解答は他の参考書等に掲載されていないのですか?
自分は数学科 2 年で,今年から位相を習っています.
質問なのですが,章末の演習問題の解答は他の参考書等に掲載されていないのですか?
お答えします:
演習問題の一部は他の参考書から採用しましたので,元の参考書には解答が与えられている場合があります.
それ以外の問題も,どこかに類題があるかも知れません.
また,「位相空間・質問箱」の「読者からの質問と回答」コーナーに解答やヒントが与えられている問題もあります.
巻末(p. 224)にも書きましたが,数学を勉強するこつの1つは,できるだけ多くの教科書や参考書を見てみることです.
同じ概念が本によってそれぞれ違った方法で説明されています.
1冊の教科書で分からなくても,他の教科書や参考書にあたってみれば自分にあった説明に出会うことがよくあります.
自分で考えて分からないときには,図書館や書店へ行ってみられてはいかがでしょうか.
追記. 『解いてみよう位相空間・改訂版』では, 『はじめよう位相空間』のすべての章末演習問題の解答例を与えました (2017/3/8).
第 7 章の演習問題がほとんどわからないのですが,どうすれば解けるでしょうか?
第 7 章の距離空間の間の連続写像と位相同型写像の演習問題がほとんどわからないのですが,一体どのようにすれば解けるでしょうか?
お答えします:
第 7 章の演習問題がわからないということですが,2つの場合に分けてお答えしたいと思います.
1.第 6 章までを理解していて,すでにそこまでの演習問題に解答を与えている場合:
第 7 章を再度よく読んで,本文中のすべての問に解答を与えて下さい.
もしわからない問があれば,巻末に詳しい解答例がありますのでそれを参考にして下さい.
その後でもう一度,演習問題に挑戦してみて下さい.
演習問題は,問を解いた読者には難しくないように出題してあります.
2.第 6 章までがまだ理解できていない場合:
わからなくなった所から勉強し直す以外に方法はありません.
わからなくなった章まで戻って,その章の説明をよく読み,その章の問に解答を与えてから,その章の演習問題に挑戦して下さい.第 7 章までそのことを繰り返せば,必ず第 7 章の演習問題も解けるようになると思います.
HA さんは「幾何学に王道なし」という言葉をご存知ですか.
幾何学をもっと簡単に勉強する方法はないか?と尋ねたプトレマイオス王にユークリッドが答えた言葉だと言われています.
著者の私が言うのはおこがましいのですが,これまでに本書を読んではじめて位相が理解できたという読者(高校生もいます!)から何通もメールを受け取っています.
最初から十分に理解しながら一歩一歩読んで頂ければ,HA さんもきっと位相が分かるようになるのではないでしょうか.
応援しています.
なお,それでも分からない問題がありましたら,具体的な質問を「位相空間・質問箱」にお送り下さい.
ヒントを用意したいと思います.
『はじめよう位相空間』定理 11.11(148ページ):
コンパクト空間の閉集合がコンパクトであることの証明はこれでよいでしょうか.
定理 11.11.コンパクト空間の任意の閉集合はコンパクトである.
私はこの定理を次のように証明してみましたが,テキストの証明とは異なっています.
次の証明は間違っていますか?教えて下さい.
証明.
X はコンパクト空間であるから,X の任意の開被覆は有限部分被覆
{U_1,・・・, U_n} を含む.
そのとき,任意の閉集合 A ⊂ X とし,
U* = {U_i : A ∩ U_i ≠ φ, i = 1, ・・・, n} とするとき,
U* は A に対して有限部分被覆になる.
つまり,A はコンパクトである.
お答えします:
T.A.さんの証明は,完全に間違っているとは言えませんが,改善すべき点が2つあると思います.
(1) 定理11.11 は,コンパクト空間 X の任意の閉集合 A がコンパクトであることを主張しています.
したがって,次の順序で証明を進める必要があります.
1. 最初に,X の任意の閉集合 A を1つとる.
2. 次に,その A がコンパクトであることを証明するために,A の任意の開被覆をとる.
上記の証明では,この順序が明確でないように思います.
(2) A がコンパクトであることを証明するためには,X の開被覆ではなく,A の開被覆を考えなければなりません.
実際には,X の開被覆を考えれば十分なのですが,それには理由(補題11.7)がありますので,そのことを説明する必要があると思います.
以上で答になったでしょうか.
任意の異なる2つの無理数の間に有理数が存在することを証明してみたのですが.
アルキメデスの公理を利用して,
任意の2つの無理数 x, x' (x < x') に対して,x < r < x' をみたす有理数 r が存在することを証明してみました.
このとき,
(1) z < x < z + 1 をみたす整数 z の存在,
(2) z + k/n < x < z + (k +1)/n をみたす整数 k (0 ≦ k < n-1) の存在
は自明ではいけないでしょうか?
お答えします:
上の (1), (2) が自明ではいけないか?というご質問ですが,不安に感じられるということは,自明ではないということだと思います.
(1) はアルキメデスの公理が必要です.次のように証明します.
証明.
いま x > 0 であると仮定する.
このとき,アルキメデスの公理から x < n をみたす整数 n が存在する.
すなわち,0 < x < n.
集合 {m : m = 0, 1, 2, ・・・, n - 1 かつ m < x} は空でない有限集合だから,
その最大元 z が存在する.
このとき,z < x < z+1.
(1) は自明のように感じられますが,それは実数体がアルキメデス的順序体(すなわち,整数の集合が非有界)であるからです. 非アルキメデス的順序体では,整数の集合は有界であり,(1) は成立しません.
(2) は上の証明の後半と同様に示されます.
単調増加関数の逆関数の連続性について教えて下さい.
次の定理の証明に関する質問です.
定理. 区間 I = [a, b] で強い意味で単調増加な連続関数 f(x) は逆関数 f^{-1}(y) をもち, f^{-1}(y) は区間 [f(a), f(b)] で強い意味で単調増加かつ連続である.
上の定理の証明の中の連続を示す部分(下記)に関する質問です.
点 x_0 ∈[a, b] の任意の近傍 (x_0 -ε, x_0 +ε) をとると,
[x_0 -ε, x_0 +ε] の f による像は有界閉区間だから,
単調性よりそれは区間 [f(x_0 -ε), f(x_0 +ε)] に等しい.
ここで,f(x_0 -ε) < f(x_0) < f(x_0 +ε) より,
δ= min {f(x_0 +ε) - f(x_0), f(x_0) - f(x_0 +ε)} とすれば,
f(x_0 -ε) < f(x_0) -δ< f(x_0) < f(x_0) +δ < f(x_0 +ε).
したがって,f^{-1}[U(f(x_0,δ)] ⊂U(x_0,ε).
これは,f^{-1}(y) が y_0 = f(x_0) で連続であることを示している.
この証明の中で,f の連続性が作用している部分は次の所(略)だと思うのですが, 何か変な感じです. ご指導お願い申し上げます.
お答えします:
ご質問の主旨は:
(1) f が強い意味で単調増加であること,
(2) f の定義域が区間 I = [a, b] であること,
(3) f が連続であること,
と
(a) f の逆関数 f^{-1} : f(I) --> I が存在すること,
(b) 逆関数 f^{-1} が連続であること,
(c) 逆関数 f^{-1} の定義域が区間 [f(a), f(b)] であること,
の関係を明らかにすることだと思います.
(a) は (1) から導かれます.
理由は,(1) より f は単射だからです.
ただし,この場合,逆関数 f^{-1} の定義域は,f による I の像 f(I) です.
(b) は (1) と (2) から導かれます.
証明:
y_0 = f(x_0) での連続性をしめす.任意の ε> 0 をとる.
このとき,(1) と (2) より
(*) f(x_0 -ε) < y_0 < f(x_0 +ε).
また (1) より,
(**) f(x_0 -ε) < y < f(x_0 +ε) ならば x_0 -ε < f^{-1}(y) < x_0 +ε.
ここで,
δ= min{f(x_0 +ε) - y_0, y_0 - f(x_0 -ε)}
とおくと,(*) より δ> 0.
さらに,(**) より
|y_0 - y| < δ ならば |f^{-1}(y_0) - f^{-1}(y)| <ε.
ゆえに,f^{-1} は y_0 で連続.
注意:
上の証明で (*) がキー・ポイントです.
もし f の定義域が区間でなければ,x_0 +ε, x_0 -ε で f が定義されていない可能性があります.
(c) は (1) と (2) と (3) から導かれます.
理由は, (1) と (2) から f(I) は [f(a), f(b)] に含まれる.
(3) より中間値の定理が成立するので,f(I) = [f(a), f(b)].
『はじめよう位相空間』演習問題 3 の問題 5(42ページ):
アニュラスの変形についてヒントを下さい.
演習問題 3 の問題 5(42ページ)
例2.7 のアニュラス A を A'' に変形する写像 f についてですが,上手くいきません.
先生に質問してみて,
x = r cosθ, y = r sin θ
とおいて考えてみては?と教えて頂いたのですが,そうしてみても上手くいきませんでした.
何かヒント(特に, z 成分を表すことについて)を頂きたいと思っています.
ヒントです:
まず,A と A'' を集合の形で表してみるとよいと思います.
A の内側の境界の半径を1,外側の境界の半径を2,A'' の底辺の半径を1, 高さを1とすると,A, A'' の1つの表現は,次のようになります.
A = {(rcosθ, rsinθ) : 1 ≦ r ≦ 2, 0 ≦θ< 2π},
A''= {(cosθ, sinθ, z) : 0 ≦θ< 2π, 0 ≦ z ≦ 1}.
このとき,A を外側から起こして A'' に変形する写像 f を定義することが目標です.
f : A --> A''; (rcosθ, rsinθ) |--> (?,?,?)
?に何が入るかを考えて下さい.
A の点 (rcosθ, rsinθ) に対応する A'' の点を,r とθを使って表現すれば,
それが答です.