中流の女性の魅力

〜 「雨夜の品定め」 と 空蝉・夕顔 〜 
                            




 『源氏物語』 今から千年前、平安時代に紫式部によって書かれた巻数54帖からなります。
主人公 光源氏から、その子、孫までの70年余りの物語を書いた大長編小
説です。 光源氏をとりまく個性豊かな多くの女性たちが描かれています。
作者・紫式部 藤原道長の娘、中宮彰子の女房として宮仕えしながら書いたとされています。
平安時代の女性作家、歌人で、中古三十六歌仙の一人です。
光  源  氏 桐壺帝と桐壺更衣を両親とする皇子父帝の判断で臣下にくだり、源氏姓を
名乗ります。 幼い頃より才能、容姿に優れ、「光輝く君」と称されます。
多数の女性との出会い、別れがあり、最高の位までのぼり栄華を誇りますが
最愛の「紫の上」の死後、出家をして余生を送ります。


                   〜 雨夜の品定め(女性論) 〜
                  雨の夜を徹して女性の身分について話し合う

     まだ、中将であった頃の源氏は、堅実な貴公子らしくふるまっていましたが、惑いがないわ
       けでもなかったのです。 (源氏17歳の夏)

      五月雨の降る夏の夜、宮中の宿直所で、
頭中将(とうのちゅうじょう)という、源氏の義兄と女
      性論の話になり、そこに、2人の仲間も加わって、「雨夜の品定め」は盛りあがります。


     
「品定め」とは、身分を定めるという意味であって、この当時は、女性は三階級に分けられ
     
上流・上の品(皇族・お姫様)。 中流・中の品(宮廷に仕える女性、中流貴族)。 下流・下
      の品(召使等をするような女性)。   (紫式部・清少納言・泉式部・・・中流・中の品)

      嫉妬深い女や浮気な女、内気な女、才気走った女など、体験談を交えた女性論がかわされ
      ます。源氏は、彼らの話を通して、中流の女性の中に、個性のある魅力的な女がいることを
      教えられ、未知の世界へ興味をそそられます。
      
      そして、理想の女性は得難いものだ、という結論に、源氏は、いっそう
義母(藤壺の宮)への
      思慕をつのらせるのでした。
                                          
                                            
                    〜 空蝉うつせみ)の巻 〜  
                     「空蝉」は蝉、また蝉の抜け殻
                      
      空蝉は、上流の女性として育ちましたが、両親の死後、幼い弟を抱え、年老いた中流の地
       方官の後妻となります。中流の女性に興味を覚えた若い光源氏の強引さに負けて生涯一
       だけ屈してしまいます。   空蝉は人妻なのです。  (源氏17歳)

       見栄えのしない不美人な空蝉ですが、かたくなに拒むたしなみ深さに、源氏の執着心はか

     
 えってそそられていきます。
      
       ある夜、源氏の気配に空蝉は、小袿(こうちぎ)を脱ぎすて逃れ出てしまいます。源氏は自

       分を拒み続ける空蝉に対し、逆に本気になり思いがつのるのでした。     

       源氏の手に残ったものは、蝉の抜け殻のような、小袿一枚だけだったのです。

       決して美人とはいえないが、節度を守った毅然な態度に、中流の女性としての魅力が充分
       にうかがえます。 この世にままならぬものがあることを源氏は会得したことでしょう。     

       後に源氏と再会し、源氏の二条東院で余生を送ることになります。



                     〜 夕顔の巻 〜

       五条の道すがら、ある家の板塀に白い夕顔が美しく咲いていました。     
     

       源氏が、一枝ほしいと訪ねたことが、この家に住む
夕顔との出会いでした。    
      
       子供のように素直そうでもあり、恋愛経験がありそうでもあり、また、訳があって身を隠して
       いるようにも見える謎めいた女性でした。
       
    
       相手も素性を語らず、源氏自信も身分をかくし、姿を変えた秘密の逢瀬が重なります。
      
       古ぼけた廃院を宿にした時でした。 枕元に 『
物の怪(もののけ)』 が立ち、夕顔におそ
       いかかります。 抵抗のしようもなく夕顔は絶命します。

       この時代は、物の怪がよく登場し、それを退治する加持祈祷が盛んだったようです。

       夕顔の身元は、亡くなってから解ります。源氏の義兄の恋人であり、彼の妻から逃れる為
       にひっそりと身を隠していたのです。


       従順だった夕顔を失った源氏の悲しみは大きく、亡骸を自分の馬に乗せ、正体もない様子
       で、徒歩で二条院まで帰り着いたといいます。声も惜しまず限りなくお泣きになる・・・


     
 夕顔の花に似て、はかない思い出となりました。    (源氏17歳)

                                          

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