川棚温泉物語3-2へ
川棚温泉物語  
(1)私を抱いた特定の男達

 その年の冬はことの外寒かった。木枯しが吹いて四、五日経つと山間の川棚温泉郷はもう冬だった。ちらほら雪が降り温泉町の湯治客は濃茶色の丹前を羽織り背を丸めて足早に通り過ぎて行き、そのあとには閑散とした温泉宿が湯煙の中にぼんやり眺められた。

 私は秀明館の主人彦太郎の庇護のもと六畳間に寝起きしているが、木枯しの吹く寒い夜は広島に残して来た家族を思って泣いた。

 体の弱い妻や十年前高校に入学したばかりの娘等が現在どこでどんな生活をしているのかと思うと、いても立ってもいられない気がした。といってこのまま秀明館を見捨てて家に帰ろうとは全く考えなかった。

 生まれつきの男好きという性癖は、どんなに泣いてもなおる事はなかった。そして十八歳の冬、按摩の修業に出た私を半ば力ずくで犯した師匠梅吉はその後十年間殆ど毎日の様に私の体の中に精液を吐き出し、私の体に男色の快楽を植えつけたのである。

 でっぷり肥って恰幅のいい梅吉の体は、その後の私の男色経験を決定づけたようだった。私にとって若い男や痩せた男、女性的な男はその人がどんなに優しくて美男子だろうとも私の眼中になかった。私はひたすら年配で肥満体の男ばかりを求めつづけた。それに、それらの男のもちものが巨根であれば私は生命も欲しくない程燃える事が出来たし、そんな男さえ近くにいれば、家族の事などすぐ忘れる事が出来た。

 彦太郎にとって私は正に彼の女だった。そして彼に云わせれば私の体はころころ肥って、バックを堀れば深く吸いこみ締めつけ、口に突っこめばねろねろと舐め回し、正に絶品だと云うのだ。
 それが本当なら十八歳の時から梅吉に仕込まれた故かも知れないが、私は主人からそう言われる事が嬉しかった。
 然し彦太郎は、例えばその長大なものを私のバックに根元迄埋めこんで気をやる直前、よくこの様な事を云った。

「俺だけでお前を使用するのは勿体ない。誰かに貸してお前の良さを誇りたい」

 この言葉は私をひどく悲しませた。私の男は彦太郎だけで十分だった。たとえ一週間に一度だけでもいい、私の好きな彦太郎の精液を受け、力一杯抱かれれば又、一週間秀明館のおかかえ按摩として一所懸命働く事が出来るのに、一体誰に私の体を貸したいのかと不安だった。所が彼は実際に私を他の男に、貸して自慢したのである。

 その為、私が彦太郎の女になってから貸された相手はこの十年間で七、八人になっている。その男達はどの人も超肥満体で六十歳前後のどっしりしたいい男ばかりだった。彦太郎は、私を貸す男の人選を余程慎重に行うらしく、七、八人の総てが純粋の男役で、その男性的な体で私を十分楽しませたのである。

 博多から来た五十六歳の男は、身長一五八センチに対し八十キロの体重をかぶせて、夕方から朝迄延々十四時間も私のバックを堀りつづけ、六回近くも射精したのに、朝の別れを前にして私の部屋の入口で又一回口の中に精液を残して去って行ったし、山陰から深夜訪れた肥満体の六十五歳の神主さんは、朝迄私の体を舐め回し、私の精液を四回もしぼり出して、又来るから待っていてくれと云って帰っていったのだ。

 然し、岡山市から遠路はるばる正午頃私に会いに来たでっぷり肥った医師は、私の体にとり返しのつかない爪跡を残して去っていったのである。彼は類まれな肥満体と巨根で、一晩中私をじわじわと責め通し、その快感は私にとって忘れる事の出来ない想い出を植え込んだようだった。決してそんな事は云ってはいけないと思ったが、私は彦太郎に泣き乍ら頼んだ。

「あの岡山のおとうさんにもう一度会わして下さい。もう一度だけでいいのです」

「やっぱりなあ、あの人がそんなにいいか」

 彦太郎は、悲しげにそれだけ云ったが、私があの人の隠された男の魅力のとりこになった事をよく知っている様だった。これは彦太郎にとって危険な事だった。自分より男性的魅力に富んだ男が現われ、私に巨根の快楽を埋めこんで去ったという事は気になる事に違いなかった。
 結局彦太郎は私を何時迄も傍においておく代りに、一年に四度、つまり三ケ月に一度彼から抱かれる事を許してくれたのである。

 この様にして、私が女として抱かれる男は岡山の医師を始め、大阪の五十二歳の柔道七段の男、博多の六十二歳の人形師等五人の素晴しい男達が定期的に抱きに来るが、私はその日が近くなるとそわそわして何となく落着きをなくしてしまう。
 それに最近では紅葉荘の主人卓三に抱かれたばかりであるが、この人とは体では十分な一体感を味わい乍ら、何故かフィーリングが合わなくて今一つという感が強い。
 然し、体が合うという事は私達の世界では最も大切な事で、いくら気分が乗らなくても、その男性的な体で有無をいわせない責め方をされれば簡単に女になって、その人の体を恋しく思う様になるものである。

 それに最も強烈な印象を残したのは、隣室で交っていた大将という男の事だった。好色な私は、卓三とユーサクの部屋に行って彼の肥った体を覗き見した日から、ずっと大将の事を想い続けていた。寝ていても、他人の体を按摩していても、絶えずあの男は一体どんな人なのかと思っていた。そして出来る事なら是非これから一度は抱かれてみたいと願った。私は彼の事を想うだけで、尻の奥深くがべっとり濡れ、目が潤んで欲情するのを一所懸命耐えねばならなかった。


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