川棚温泉物語3-3へ
川棚温泉物語  
(2)何気なく凄いことを話すユーサクさん

 正月が近くなって客がこみ始めるのは何時ものことだったが、今年は例年になく客足が少なかった。温泉町の人々はそれを寒さのせいにしたが、私は世間一般の景気が悪くなった故だと思う。

 木枯しの吹く寒い夕方だった。客の按摩をして部屋に帰る途中のカウンターの前で、私はユーサクさんとばったり出会った。そっと肩を叩かれる迄彼の顔を見てい乍ら、気付かなかった。

 ユーサクさんは、一ケ月程前あの部屋で卓三さんに抱かれ完全な女になって泣いた人だったが、過去教職にあり校長までつとめただけあって、背広を着てカウンターの前に立っていれば、でっぷり肥って顔の皮膚が美しくて、何時見ても風呂上りのようにつるつるしており、どこかの社長のようだった。そして卓三さんに好かれるだけあってその目や鼻やひきしまった口が可愛いく、男達は誰でも彼を自分のものにしたいと思うに違いなかった。

「今日は又随分冷えますね」

 ユーサクさんはそう言って、気品のある目で私を見た。私はとっさにあの時の事を想い出した。

「もう一ヶ月になりますね。私は仕事がいそがしくてすっかり御無沙汰しています」

「いそがしいのは健康の証拠です。こんなうれしい事はありません」

 彼は、上体をそらして明るい笑顔を作った。
 ツイードの仕立上りの背広が重厚な彼によく似合った。私の視線は彼の胸許から下にさがり股間でとまった。心なしかその辺がもっこりふくれていたからである。
 私の脳裏に一ヶ月前卓三さんに貫かれた彼のぺニスを口に入れた時の感触がよみがえった。短いけれど太くて、亀頭冠のよく発達した魅力あるペニスが私の口の中ではねて噴き出した感触は決して悪くなかったのだ。

 よく見ると、彼が男と寝て女になるとはとても思われなかったのだ。誰よりも男性的であり、二年前迄はこんな遊びは全く知らなかった彼が、この遊びを覚えた途端すっかり女になり切ったのは全く不思議な気がした。それにそんな性向は私とよく似ている。私は彼と少しでも話してみたかった。

「私の部屋に来て、お話でもしませんか」

 私は小声で誘い乍ら、一ケ月前隣室を覗いた時、彼が大将の事を、私が最初にこんな遊びをした男が大将でしたと云った事を思い出していた。
 是非彼と話さなければと思い、もう一度ささやいた。

「むさくるしい部屋ですが、ききたい事もあります」

「一時間位でしたらいいですよ」

 ユーサクは唄うような声を出した。
 
 私の部屋にユーサクをつれてくると、彼を彦太郎用の大型坐布団に坐らせた。ユーーサクは特別遠慮するでも、高ぶった態度をとるでもなく、至って素直に坐布団に坐って私と向かい合っている。
 そんな彼を見ているだけで私の心がひどくなごんだ様だった。私もユーサクも同類の男という安心感が親しみに変化しそれは男の優しい心を表面に出して部屋の中を殊の外、温くした様だった。

「家族も棄ててたった一人でこの部屋に住んでいます。もう十年にもなるんです。だから私は決していい死に様はしない筈です」

 私は何故そんな事を云ったか分からなかったが、いつも思っている事をべらべら喋った。すると彼は、にっこり笑った。

「そんな事ありませんよ、ゴローさんはきっと彦太郎さんに抱かれて安らかに眠る筈です。好きな男に抱かれて死ぬ、それがどうして悪い死に様ですか」

 私は何故かにこにこ笑い出した。ユーサクの笑い顔があまりに明るかったからである。

「貴男は私の名前を何故知っていますか」

 私は訊ねた。

「ふふ、それは当然ですよ、もうお互いに体を合わせたのですから」

 ユーサクは又にこにこ笑った。

 暫くして私は一番知りたい事を訊ねた。

「大将のことを貴男は最初の男だと云ってましたが、もう少しくわしく知りたいのです」

 私の言葉が終らないうち、彼の表情が少し曇った。彼の心の中であるためらいがせめぎ合っている様だった。

「私もくわしくは知らないのですが」

 彼はそう前置きして語った。

「大将のことを一番よく知っているのは卓三さんです。私は彼から大将の傍にいく様連絡を受けたのです。勿論卓三さんが男好きの男だとは知らなかったのです。然し、私は肥った年配の男に何となく抱かれてみたいと思うようになっていましたのでごく自然に大将に抱かれました。大将は私が可愛いいといって全身を舐めて下さり私も又大将のものを二時間近くも愛しましたがその当時私のバックは受身の経験がなかったのでどうしても入りませんでした。大将のものは、私の二倍位の大きさで根元がうねるんです。それに亀頭が独立して太くなり赤ん坊の握りこぶし程もあるんです。もう一度是非抱いて貰いたいのですが、仲々チャンスがありません。本当は今ならあれから卓三さんに大分ほられましたので道はついているのですが」

「そんなに会えませんか」

「あの人は男とも女とも遊びますし、自分の屋敷に三人の男を住まわせているので、その三人の男に精を吸いとらせているといいます」

「あの時、抱かれていた鼻髭の男もその三人に入るのですかねえ」

「ああ、あの人は県警本部長だった本田さんですよ。有名なたち役の男性的な男です。柔道が六段で剣道が三段のぷちぷちした六十六歳の人で、若い時から美少年を求めて随分この世界では有名だったそうです。それが何か弱みをにぎられ、ひょんなことで大将と知りあい一度だけ抱かれただけで大将のとりことなり、二度目に抱かれた時、あの太い長いものでバックをほられ、それから今では大将の一番可愛いい愛人だといいます。然し、私は本田さんが羨しいなあ………」

「私も一度だけ大将を見たいですよ」

「ああ、見るだけならこの秀明館には一ヶ月に一度位来るんですがねえ」

「それは何の為ですか………」

「色々云い訳はありますが、何しろ大将と寝てみたいという人は、この世界では何万といるでしょうから。彼は、うちも云った様に体重も九十キロはありますし、肌の肉も、股のものも肉が厚くて長大です。それに太って大きい人は下品な人が多いのにとても品があります。現在本田さんを含めて四人の男と住んでいますが、何でも四人の男を一日に二度づつ完全に愛する事が出来るそうです。又四人の男が体ももちものも超一流だというのですから……。然し、私達もいつかは大将のものを受けてみたいですね」

 私はユーサクさんの話にすっかり昂奮して彼の体にもたれ、ズボンのファスナーを開いて彼のペニスを握った。何時か舐めた太い亀頭がかちかちに固くなって握った手をぐんぐん押し返した。

「いいですか」

 私はそうことわって顔を近付けると、彼はにこにこ笑い乍ら立ち上って言った。

「かんにんして下さい。今日は下関のパパに抱かれるんです。いい人です。下関のパパに抱かれていると、妻子のことを完全に忘れられるんです。ですからゴローさんとは又、いつかね、ほんとにかんにん………」

 ユーサクさんの態度は、この時完全な女になりきっていた。私は、ユーサクさんや私の為にそんなユーサクさんの勇気をたたえたいと思った。彼を見ていると男好きである事が恥しい等とは全く思えず、かえって自分のそんな性向がひたすらいじらしく誇らしくさえなるのだった。

川棚温泉物語3-3につづく

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