川棚温泉物語5-3へ
川棚温泉物語  
(2)死ぬ程見たかった良質の裸体

 秀明館の温泉は、岩風呂式の凝った造りである。ずばぬけて大きくはないが、屏風岩でセパレートされた三つの湯槽がある。脱衣場からは裏側の湯槽のほんの一部が見え、湯治客はカーブした石段を降りながらぐるっと迂回して、表側の湯槽から入る仕掛けになっている。
 私ははやる心を押さえ乍ら表側の湯槽に回った。表側の湯槽の中には二人の男が入っていた。二人の男は、彦太郎と岡山の先生であることがすぐ分った。やはりそうだったのかと腹立たしい気持だった。

 私が入湯しに来たことを知っても彦太郎は殆ど表情を変えなかったけれど、先生は瞬間きまり悪そうな顔をして小声で言った。

「体がべとついて気持悪かったので、急に思いたって来たんだ」

「目をさますと先生が見えないので、心配で随分探しましたよ」

 私はそう言って先生の傍に体を寄せて、肩まで沈んだ。彦太郎は私から見ると、先生の体の陰になって僅かに頭や肩先が見えるだけである。
 私はタオルで顔や体を何度も拭き、湯槽に入ったまま動きを止め、きき耳をたてた。脱衣場から見た三人の頭のうち二人は大将と本田だろうと見当がついたが、あとの一人が誰なのか分らない。

 真夜中の温泉はしんと静まって僅かな動きでもききとれる。さき程からきき耳をたてる私の耳に大将と本田らしい人達のひそひそ話がききとれるし、時々矯声がきこえる。もしかしたら大将の情婦もいるのではないかと思う。
 どうやらこの時間に温泉に入っているのは、表側の湯槽には私と先生と彦太郎の三人で、裏側には大将と覚しき人を交えた三人の計六人だけらしい。とすれば、どの人も私と同じ性向を持った仲間達である。そう考えて私はいくらか安心した。

 何時の間にか岡山の先生の体が私の前面にぴたりと張りついている。張りついているというよりも、先生は私の体を左腕で抱きあげ太鼓腹と太鼓腹を合わせ、更に右手で握った自分の固く反り返ったものの先を、私のバックの中心にあてがい、ゆっくり腰を回している。
 そんな二人を彦太郎がじっと見ている。

 先生の固く勃ちあがったものは、少し浮き上った私の尻の穴をぐりぐりとこね廻し、それが少しづつひろがり始めたようだった。私が意識して穴をゆるめるか、両足をひらいて腰をおとしさえすれば、先生のものは私の中に根元まで簡単に入ってしまいそうだった。そんな姿勢のまま先生が、私の耳に口を寄せて囁いた。

「脱衣場から三人を見ただろう」

 私は、大きく頷いた。

「あの中の二人が、大将と本田さんだよ」

「やっぱりね、あとの一人は誰ですか」

「それが、大将の女なんだ。宮津の芸者をかっさらって来たって、三十二歳だって……」

 私は目を一杯にひらいて、又大きく頷いた。

「大将は何といっても体がいいし、特にマラが凄いんだ。だから男は勿論、女だって一度抱かれたら惚れこんでしまうんだ。宮津の芸者は総なめしたというし、大将の巨根の味を知っていたので、この女を大将が落籍した時は、女どうしの嫉妬の雨が降ったというんだ。大将はそのマラだけでなくその気っ風が又あっさりして優しくていいんだなあ」

 何時の間にか私のバックは、先生のものを根元まで埋めこまれ、湯槽の中できつく抱きしめられていた。
 そんな二人から目をそらした彦太郎が湯から出て、裏側の三人の方に歩いて行く。
 それを見送って先生が言った。

「大将が今日は女を抱くんだ。彦太郎がそれを見に行った」

「女じゃ、面白くないでしょう」

「それが、大将の体は女を抱くとこたえられない程よく似合うんだ」

「そうですか、私も見たいです」

「見ればいい。大将は男でも女でも抱いた自分達の交合を他人に見せて喜ぶ癖があるから、見ればいい」

 先生はそう言って私を抱いたまま、私の口を強く吸った。

 裏側の湯槽は湯の量が少く立上ると腰から上が湯の上に出た。それに三方が平らな岩で囲んである。その中でも一際平らな岩の上にどっかりと大将が腰掛けており、ももの上に前面を見せた小柄な女が抱かれていた。女は左右の乳房をぶるぶる慄わせ、首を前後左右に揺すってもがいている。
 彦太郎と先生と私は、その様子をじっと見ている。私は女なんかに全く興味がなかった。ただ初めて見る大将と本田の体を交互にくい入るように眺めるだけだった。

 大将の体はその前面に女を抱いている故に半分も見えなかったが、小柄な女を抱きこんでいるだけに一層淫らだった。
 太い腰も厚い胸も太鼓腹も、その僅かな両端しか見えなかったが、そのいずれも深い快感に反応して収縮したり、ぱんぱんに張りつめたりしてその重厚な男の精気を充分に私に見せつけた。
 頭髪がなくつるつるに禿げあがった頭、豊かな頬、切長の瞳、それらが表現出来ない男の魅力にあふれて、冷酷なまでに整った風貌である。そして鼻下の髭を美しく刈り込み、部厚い唇を真一文字に結んで、抱いた女の目をじっと見つめていた。

「ああ、大将のあの目には、男も女も一度で参ってしまいます」

 先生がそう云うと、彦太郎がそれを受けて感嘆した口振りで云った。

「バイセクシャルと云いますが、大将は男の時も女の時も殆ど同じような抱き方をして欲情し、最後はいい気をやるんですね。」

 二人のそんな言葉をきき乍ら大将を見ていると、私は激しい昂奮の為じっとしていることが出来なかった。
 さっきまで先生に抱かれて、二度程中途半端な射精をして軽くなった筈の体が、再び表側の湯槽の中で先生の巨根を根元まで入れられ中途半端のまま抜き取られた故か、どうしようもなくむずがゆいようなもどかしさを持て余していた。

 私は、彦太郎と先生の傍から離れて大将の傍に近寄った。私が歩みよった場所に本田が立って大将達をじっと見ていた。本田の悲愴なまでに整った顔が、強い嫉妬の為少し歪んで、あーあというような呻き声を出した。
 私は本田の体全体を舐めるように見た。大将に較べると一回り以上小さいが、堅太りの体の太ももから上を湯槽から露出させて、私のすぐ前にある。四ヶ月前の、紅葉荘の卓三やユーサクと覗き見した隣室で、大将に抱かれていた体である。

 体の総てが男性的でぴちぴちしており、大将を知るまでは若い時から一貫して、美少年専門のタチ役だったということが頷ける体である。
 たとえば殆ど白髪なのに鼻下の髭は漆黒で如何にも固そうだったし、すぐ下に続く部厚い唇やどっしり落着いた顎や首の線は、動かない時も動く時も、男性的魅力に溢れて誰よりも男の精気を感じさせた。

 又、部厚く盛上った胸や太鼓腹は精気に溢れ、触れば内側から押し返されそうだった。それでいて、傍にいるだけで私の心が和む雰囲気である。
 更に太鼓腹の下で半勃ちになったものを彼は隠そうともしなかった。彼のものは岡山の先生程長くはなかったが、亀頭部だけは誰れにも負けない程の体積をもって、如何にも重そうだった。
 深い黒紫色の沈澱した彼の亀頭は、若い時から数限りなく美少年のバックに挿入して抽送を繰返して来たことを実証するように、ふてぶてしい型と色彩を個性的に定着させて、私の前で静かに息づいているようだった。

 私は耐え切れずに本田に近寄って、左手で彼の体を抱きしめ右手で股間のものを握り、ずるりずるりと剥きあげた。
 よく発達した亀頭冠のすぐ下のくびれは、私の親指を余す所なく隠せる程だったし、亀頭冠の皮膚は部厚くゴムのようだった。

 大将のすぐ眼前だった故か、彼はあくまで受身のままだったが、私は他人のことは無視して夢中で彼を抱きしめていた。私はまるでタチ役の男のようだったし、彼は受けの男には勿体ない体をもった優しい男のようだった。

川棚温泉物語5-3につづく


川棚温泉物語 目次へ