REAL AT NIGHT
終演後、ムービー撮影のコメント撮りも終わって
お疲れさまでしたーと、スタッフ達が笑顔で楽屋から出ていった。
少しだけ放心状態、でも達成感が心地よくてまだ心が燻ってる感じ。
毎年恒例のXmasディナーショー。
緊張も少しくらいなら気持ち良いけど、あのクラッシックコーナーだけは
そんな悠長なこと言ってられないくらい今年もイッパイイッパイだった。
とりあえずお疲れさま、と心の中で自分に声をかけて椅子に深く沈んだ。
私服に着替えて荷物をまとめてるとアベちゃんが入ってきた。
「これ、ここに置いとくわよ」
カードキーをテーブルに置いたかと思うと、ハンガーに掛けてあった衣装を
わさっと抱えてもう一言。
「じゃ、お疲れさまー。
週末のオフだからってあんまりはしゃぎすぎないようにね!」
・・・子供じゃないんだから分かってるよ。と思いながらも笑顔で見送った。
明日わざわざ空けたオフに備えて、部屋でゆっくりしようかな。
と、伸ばした手の先のケータイが震えだした。
「ヒロ?いいタイミング!どうしたの〜?」
「ルームナンバー」
「えっ?」
「部屋、今夜そこにとってんでしょ?」
「あ、うん・・・え、と、1021・・・」
「わかった」
「あ、ちょ、ちょっと・・・!」
戸惑うボクの言葉なんておかまいなしにそれだけ尋ねて電話が切れた。
一緒に仕事してるときだって、ヒロはボクに想像もつかない行動をしたりする。
それぞれがソロの活動をしているときだって、びっくりするようなことをする。
きっと計画性なんて全然ない思いつき。見えないからまたドキドキが増す。
だけどそのドキドキはワクワクにすぐ、すり替わってしまうのだけど。
汗を流す時間くらいあるだろうと、余裕こいてシャワー浴びてたらベルが鳴った。
濡れた身体にバスローブ羽織って髪から落ちる雫をぽたぽたさせながら
慌ててドアへと向かった。
大ちゃん、と小さく名前を呼ばれる。
そっとドアを開けると、真っ赤な薔薇の花束を肩に担いだヒロが立ってた。
「あ・・・」
思わず口をぽかんとしたまま動作が停止してしまったボク。
うつむいた視線、少し拗ねたような口元、だけど照れたような顔して。
「・・・中、入ってもいい?」
「あ、ご、ごめん!」
足取り軽いヒロの後ろをぽたぽたの姿のまま歩いてついてく。
気持ち落ち着けたくて落としたルームライトの中、
くるりと振り返ってヒロが肩の花束を差し出す。
「これ、大ちゃんに」
「あ、ありがと・・・」
結構な本数。強い薔薇の香りが部屋中を満たすようなくらい。
っていうかこれ持ってホテル入ってきたの?
またベルが鳴る。
ヒロがスッとドアへ向かう。
ぼんやり見送ってたら右手にグラス、左手にワインボトルを持って戻ってきた。
「ルームサービス」
「は?」
「ディナーショーお疲れさま。と、メリークリスマスってことで」
開けっ放しのカーテン、窓の外の小さな無数のイルミネーションをバックに
目を細めて口の端をあげて笑うヒロ。
舞台の稽古が共演者の都合で早く終わったから、
明日も何時まで稽古やるかわかんないし、1日早いけどいいよね?って
それって言い訳?それとも行き当たりばったり?
誕生日にはプレゼントとケーキ。
クリスマスには花束とワイン。
まるで恋人にするような行動を、サラリとやってのけるヒロ。
いい年の男がいい年の男にこれって問題あるよな気がしないでもないけど。
・・・・・・これが悪い気がしないのがボク的にも問題あると思うけど。
ま、いっか。
「ありがとう」
少しだけ錯覚して、言い訳に頷いて、素直に感謝の言葉を伝えた。
ソファに座り、ワインを開ける。
今日のデキゴトを語り合う。ボクが少し興奮気味に喋るのを
目をそらさずに頷きながら聴いている。優しい瞳が安らぎをボクにくれる。
この空間がたまらなく好き。
ワインがすすむ。気が付けば髪の雫ももう乾いてしまってた。
薔薇の匂いとロゼワインと、ヒロと。
もうどれに酔ってるのかわからない。
「で、今夜のメインはどれなの?」
「ん?・・・俺」
空になったボトル。
物足りなさげにしてたボクの唇に優しいキスが降る。
そんな聖夜。
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