迷宮〜ラビリンス〜






       「ねえ」
       「ん?」
       「こんなシュチュエーション、前に何かで話したよね」
       「こんなって?」
       「雨でずぶ濡れになってさ」
       「うん」
       「外はすごい雷で」
       「うん」
       「ふたり。。。」
       「抱き合って暖めあうしかない、ってヤツ?」
       「それ」
       「あったあった。まさか大ちゃんとそんな状況に実際なるなんてね」

       くしっ

       「あれ?寒い?」
       「うん、少し」

       窓の外を見てたヒロが僕のくしゃみに反応して振り返った。
       寒いよ、と交差した両腕をさすりながら肩をすくめる。

       「あっためて」
       「えー、もうしょうがないなー」

       オレもずぶ濡れなんだからくっつくと冷たいかもよ?
       なんて言いながら、肌に吸い付いたシャツを指でつまんで引っ張ってみせる。
       いいの?って上目使いで僕に問う。その瞳が少し申し訳なさそうに見えて。

       その無邪気さに何故か照れてしまって、こくりとうなずくついでに俯いた。
       僕の肩を、そっと抱くようにヒロの腕が回された。

       浮いていたシャツの背中が、ぴたり、と肌に張り付いてぴくりと震えた。

       「冷たいよ。大ちゃん」

       ゆっくりと僕の身体を引き寄せると、
       ぎう、と身体全体を包まれるように抱きしめられた。

       「まだ、寒い?」

       耳元でやさしく訪ねるヒロの声に、今度は心臓が震えた。

       「。。。ううん。大丈夫」

       目を閉じてヒロの体温を全身で感じてみる。





       恋人同士なら
       好きな同士なら
       このままキスして、もっと愛を確かめ合って、
       なんて なるんだろうけど。


       僕らはそうじゃない。


       なのにこの行為は?
       このぬくもりは?
       そしてこれ以上進まないのはどうして?


       ヒロは一体、僕の事をどう思っているのだろう。



       僕が思うこの「愛情」という行為を離したくなくて
       今も何も訊けないまま。







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