胸ニ刻ムノハ イツダッテ 君ノソノ笑顔ダケ


           1

 

 

        あ、

        ほら また

 

 

        ヒロはきっといつも無意識。

        さりげないその仕草・・・細やかなアシストを僕はいつもあたりまえのように受けとめる。

        何にも気がついてないような素振りで。

 



 

        ヒロは紳士なフェミニスト。

        それは昔から感じていた。

 

        「“ヒロは大ちゃんを甘やかせすぎなんじゃない?“って、アベちゃんに言われた」

        「えー、どういう意味だよ、ソレ」

        「わかんない」

        「僕、そんなにヒロに我侭言ってる?」

        「言ってないね」

        「ヒロをこき使ってるとかも、ないよね?」

        「ないね」

        「そーだよねえ」

        「なんだろね」

 

        ヒロと二人、並んでソファーに座ってそんな他愛もない会話。

        全然深刻でもない内容に、ウーン・・・とわざとらしく声を出して考え込むフリ。

        腕を組んだままソファーの背もたれに身体を預けたら、レザー張りのせいでか

        じわりじわりと背中が滑る。

 

        あ、ほら また。

 

        深く腰掛けてたヒロが背もたれの後ろに手を廻し、僕がヒロの方へずれてくる動きを止めた。

        なんてことない自然なヒロの動き。僕はそのスムーズな流れに身を任せてるだけ。

        ヒロの肩に僕の頭がすっかり納まるカタチのまま、何事もないように会話は進む。

        そんな僕らの姿はまるで恋人同士。

 

 

        「僕らがあんまりにも仲良しだから妬いてるんじゃない?」

        「あっは。そうきたかー。どっちかっていうと呆れてるんじゃない?」

        「でも、ヒロって基本優しいもんね」

        「え?そうかな?」

        「そうだよ」

 

 

 

        そうだよ。

        その優しさを受けるたび、僕は幸せに溺れながら小さな傷をまたひとつ増やす。

        この優しさは僕だけのものじゃないと わかってるから。

 

        わかってるから惑わせないで。

        どんな些細な優しさも全部勘違いしてしまいそうになるから。

 

 

 

 

        「・・・フェミニスト」

 

        「ん?」

 

        「なんでもない」

 

 

 

        傷が増えるたび 想いが強くなるから。









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