胸ニ刻ムノハ イツダッテ 君ノソノ笑顔ダケ
3
「ねえ、大ちゃん。俺のこと、好き?」
椅子に座った姿勢はそのままに頭だけ声のする方へ振り向いたら
超至近距離でヒロと目があった。
ヒロの真剣な目と。
昼下がりのスタジオ。
新しい曲作りで集合したボクとヒロ。
いつになく真面目な顔してボクにそんな言葉を投げかける。
まさかこんな昼間っから酔っぱらってるわけでもないよね?
視線をそらせないままで、なんと答えようかと心がしどろもどろ。
「えーと…」
「ねえ、どうなの?」
「ま…あ、好きか嫌いかと言えば好きだけど…」
「どっちかとかじゃなくて」
「てかさ、なんで急にそんなこと聞くわけ?」
「…」
「黙っちゃうわけ?」
「…」
「理由もないのに答えらんないよ」
ふい、とまた姿勢を戻してヒロに背を向ける。
だいたいこういう態度をとったら次のヒロのアクションとしては
後ろからぎゅう、と抱きしめてきたりする。
はずなのに、
「だってさ…」
触れられないまま言葉が続く。
「最近大ちゃんからってキスしてくれない」
「……そうだっけ…?」
「そう」
まさかそんなことで嫌いになったとか思ってるのか?
「まさか」
「ほんとです」
今度は椅子ごと振り返ってみると、
いつのまにか壁に寄りかかってなんだかちょっと拗ねたような顔してボクを見てる。
…その誘い顔にボクの心は弾かれてしまう。
ガラガラー、と座ったまま勢い良く近づいてヒロにぶつかると同時に立ち上がって
ボクと壁の間に閉じ込めるように隔離した。
「ん…っ」
熱っぽい吐息がスタジオの中の空気を仄かに揺らめかす。
角度を変えて、息継ぎも何度もして、長い長いキスをする。
言葉じゃなくて伝える。
『すき』。
「俺も好きだよ…」
瞬間に離れた唇から早口で伝えられたヒロの『好き』を
ボクの『好き』でまた塞いでしまう。
キスの回数なんて
それもどちらからのキスが何回だなんて
いちいち覚えてるわけない。
触れなくても、キスで確かめなくてもボクたちは繋がってるということに
いつのまにか慣れてしまってた。
そんなボクをいつもハッとさせるのはたまに見せるその拗ねたような仕草。
どうしても負けてしまう仕草。
甘えたがりな素顔のヒロはボクだけしか知らない、と思いたい。
頼むからボク以外には見せないでよ。