日常の法律問題を考えましょう 7号
民事「借地借家賃料をめぐる賃貸借トラブル 」
<事例>
賃料の増額に、納得のいかない賃借人が以前の増額前の賃料を、賃貸人に持
って
いったところ受取を拒否された。そこで賃借人は賃料支払を放置していたとこ
ろ、ある
日、賃貸人が賃料未払いを理由に賃貸借契約を解除し立ち退きを要求してき
た。
<一般常識>
受取を拒否した賃貸人も悪いかもしれないが、そのまま放置した賃借人も悪い
気がす
るというのが普通の人の感覚ではないでしょうか?
<法的観点>
1、契約の拘束力
今回はこの事例を通して「契約の拘束力」について勉強したいと思います。
契約は1度結ばれると、皆さんが思っているよりもずっと拘束力は強いもので
す。
そう簡単には契約は消えたりなくなったりしません。
例えば契約の相手方が亡くなったとしても、大原則相続人に引き継がれます。
つまり相続人との間で契約を結んだことと同じになるのです。
この不況に即して言えば、契約の相手方が企業で倒産したとしても(例えば銀行
から
住宅ローンを借りていた場合、その銀行が国有化されようとも住宅ローンは1銭
もな
くなりません。)、原則契約の効力は存続したままです。
死亡・倒産などでも一定の場合には、契約が消滅することはあります。
でもそれはあくまでも例外です。
このように契約の効力は強いものですから、契約を結ぶときには慎重にする必
要があ
ります。契約内容によっては、法律の専門家である弁護士・司法書士・行政書士
に
相談するほうが良いと思います。
2、本事例の結論
さて今回の事例ですが結論から先に言うと賃貸人の言い分が通る可能性が高
いです。
つまり賃借人は立退きを命じられる可能性が高いということです。
簡単に根拠をいうと、例え賃料をめぐって賃貸人と賃借人が争いになったとして
も賃
貸借契約は依然として存在し、賃料を払わないでいた賃借人は賃料未払いの債
務
不履行になる。債務不履行に基づく解除が認められ契約解除されると、賃借人
は
結論的に不法占拠者と同じ立場になるので立退きを命じられる。
3、供託制度
「そんなことを言っても、相手が受けとらなかったらどうにもならないじゃないか」
と思われる人がいると思います。
まさに正論です。
法はこのように「債権者が債務の履行を拒否した場合」に、債務者を救済する手
段を
用意しました。それが供託制度です。
供託制度は簡単にいうと、債務者の債務(ここでいうと賃料)を債権者の代わり
に
国が受け取る制度です。これにより債務者は債務を履行したことになり、
債務不履行になることはありません。
従って契約を解除されることも、立退きを迫られることもありません。
供託制度は弁護士・司法書士の業務です。もちろん自分でもすることは出来ま
すが、
実際は結構面倒な手続きです。電話料金のようにコンビニなどで支払うことは
出来ず、手続きのため法務局まで行かなくてはいけませんし・・・。
ちなみに判例でこのとき債務者が供託する額は、
「増額前の賃料」でよいことになっています。
ですからこの事例では、賃借人は賃貸人でなく供託所に増額前の賃料を払えば
なんの問題もなかったわけです。
このように供託制度も重要な制度です。
ですから是非皆さんの頭の中に留めておいて頂きたいと思います。
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