Mano Negra Mano Negra
パチンコ地獄〜ライブ・イン・ジャパン〜
■全身全霊のライブ・バンド
 突然ロックが嫌になった時期があった。なぜだったかはっきりとした理由は忘れてしまったけれど、当時の僕は、ロックなんて所詮レコードを売るのだけが目的の商業主義な音楽にすぎないと思い始めていた。もしかしたら日本のバンド・ブームに嫌気がさしていたのかもしれない。毎日毎日職場のラジオから流れてくるくだらない音楽に辟易していた。中にはブルー・ハーツなど衝撃を受けたバンドもいくつかはあったけれど、ブームというものの常でいつの間にかシーンにはクダラないバンドが蔓延していた。実際にはどうだったかわからないけれど、僕はそう感じていた。しまいには、日本人がロックを演奏すること自体、陳腐に思えていたのだから、相当重症だったのかもしれない。
 時を同じくして日本人のルーツに興味を持ち始めていた僕は、縄文人について書かれた本を何冊か読んで、アイヌ民族に行き着いていた。僕の読んだ本では、弥生人によって北方に追いやられた縄文人の子孫がアイヌ民族につながっているのではないかということであった。アイヌ民族の文化はとても興味深かった。ここで多くを語ることはできないが、特徴のひとつに文字を持たない文化ということがある。後に知ることになるのだが、オーストラリアの原住民であるアボリジニも文字をもたない民族であるらしい。しかし彼らは共に、独特の文様や絵画を描いたり、音楽の根づいた生活をしていた。アボリジニの楽器ディジュリドゥーとアイヌの楽器ムックリが全く違った形状であるにもかかわらず、とてもよく似た音色であったのを知った時には、全身鳥肌が立つほど感動したのを覚えている。
 話がどんどん反れていくようだが、僕が言いたいのは、文字を持たない文化(決してそれは文化水準が低いということではなく、それはそれで非常に崇高な文化であると思う)であっても音楽は持っているということだ。それほど音楽は人間とは切っても切れないものであるということである。
 金儲けのための音楽ではなく、生活に根づいたというか人間そのものの中から湧き出る音楽、そんな音楽を僕は求めていた。

 マノ・ネグラは最高のライブ・バンドだ。だからライブ盤をお奨めする。これはオフィシャルでは唯一の彼らのライブ盤で、しかも日本での録音である。1991年の11月に急きょ録音された川崎クラブ・チッタでのライブだ。同じツアーでの大阪ライブにはもちろん足を運んだ。ステージの上に自分が立っていない事がくやしくなるくらい最高のライブだった。まずは何の先入観も持たずにこのCDを多くの人に聞いてほしいと思う。マノ・ネグラについては、今回のみならず、またいづれ紹介することになると思うのでこの辺で。
 あっ、ひとつだけ。僕は彼らによってロックンロールに引き戻された。彼らの音楽には僕の求めるすべてがあったから。そして彼らは最高のロックンロール・バンドだったから。
 余談になるが、大阪ライブで彼らの何人かが定番のオリーブ色のMA-1を着てプレイしていた。しかし数日後、深夜の音楽番組に登場した彼らのMA-1の色はエンジ色に替わっていた。実はその年の新色エンジ色のMA-1を、僕はいろんな所を探し回ってやっと手に入れた。彼らのライブで下ろしたてホヤホヤの僕のエンジMA-1に彼らの熱い視線が送られていたのは決して僕の思い込みではない。

リリース 1992 Manu Chao
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