アズベリー・パークからの挨拶 Bruce Springsteen
Greetings From Asbury Park N.J
■都会の夜のファンタジー
 今よりもっと若い頃、夜になるとむしょうに出歩きたくなる時期があった。なぜだかわからない。うまく説明できないが、とにかく夜家にいるとそわそわして、じっとしていられなくなるのだ。分かってもらえる人も読者の中にたくさんいると思う。今考えると、たぶん誰もが経験する「一時期」なのだろう。その一時期、まちがいなく僕の中からも「使い道のないエネルギー」が溢れ出ていた。本当はいくらでも使い道はあったのだろうが、当時の僕はどう使っていいのかわからず、そのエネルギーを持て余していた。
 まぁ同じような奴は周りにいるもので、免許を取り立ての僕らは、溢れるエネルギーを夜の街にむやみにまき散らすことになる。車の中っていうのは妙に居心地のいい空間で、その夜が永遠に続くかのように思われた。それに貧乏長家じゃそういうわけにはいかないけれど、車の中では真夜中に大音量でロックンロールを聴くことだってできたのだから言うことない。
ブルース・スプリングスティーンの音楽はそんな僕らにうってつけだった。僕らは「ボーン・トゥ・ラン」(スプリングスティーンのヒット曲)の主人公気取りで夜の街をぶっ飛ばした。いつも男ばかりという点に多少の違和感を感じながらではあるが…。

 サード・アルバム「明日なき暴走」の大ヒットでスターの仲間入りをしたスプリングスティーンは、幾多の紆余曲折を経て「ボーン・イン・ザ・USA」というお化けアルバムを発表、今や押しも押されぬロック界の「ボス」になったといえる。

 その後もより良い楽曲を作り続け、パフォーマーとしても常に進化しようとしているスプリングスティーンは凄いと思う。そう思いながらも、僕はあえて初期の3枚のアルバムをお勧めしたい。なぜなら、今のスプリングスティーンの楽曲にはないと思われる何かがそこに残されているからだ。やはりうまく説明できないのだが、それはコントロールできないエネルギーを持て余していたあの頃の気持ちにピッタリくる何かなのだと思う。そして快感にも似た疾走感もそのひとつだ。
 スプリングスティーンは、マシンガンのよう発する言葉をリズムにのせて物語を紡いでいく。多分それは実話というわけではないのであろうが、ものすごいリアリティを持って僕らの心に突き刺さってくる。頻繁に使われる固有名詞(登場人物の名前や地名など)がそのリアリティをよりリアルに感じさせるのかもしれない。とにかくスプリングスティーンはリアルな夜のファンタジーを作る天才だと思う。
 このデビュー・アルバム「アズベリー・パークからの挨拶」を歌詞カードを見ながら聴いていたときのことである。「Spirit In The Night」のジェニーとおれがバースデイ・ソングを歌いながら泥まみれで愛しあうというくだりで、僕は不覚にも泣いてしまった。そしてサヨナラは静かにやって来る…。一晩限りのリアルな恋愛もあるのだ。このアルバムをリリースした頃のスプリングスティーンは細身でちょっとナイーブな感じの青年に見える。精一杯ワイルドに振る舞っていたに違いない。
ところで、最近夜になってもちっとも外に出たくならない僕は、やっぱり歳をとったのだろうか?
リリース 1973 Mary J. Blige
おすすめ曲 Lost In The Flood
これも聴くべき!
Patti Smith Group / Easter
3.はspringsteenとの共作
★ ★ ★ ★
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