その後もより良い楽曲を作り続け、パフォーマーとしても常に進化しようとしているスプリングスティーンは凄いと思う。そう思いながらも、僕はあえて初期の3枚のアルバムをお勧めしたい。なぜなら、今のスプリングスティーンの楽曲にはないと思われる何かがそこに残されているからだ。やはりうまく説明できないのだが、それはコントロールできないエネルギーを持て余していたあの頃の気持ちにピッタリくる何かなのだと思う。そして快感にも似た疾走感もそのひとつだ。
スプリングスティーンは、マシンガンのよう発する言葉をリズムにのせて物語を紡いでいく。多分それは実話というわけではないのであろうが、ものすごいリアリティを持って僕らの心に突き刺さってくる。頻繁に使われる固有名詞(登場人物の名前や地名など)がそのリアリティをよりリアルに感じさせるのかもしれない。とにかくスプリングスティーンはリアルな夜のファンタジーを作る天才だと思う。
このデビュー・アルバム「アズベリー・パークからの挨拶」を歌詞カードを見ながら聴いていたときのことである。「Spirit In The Night」のジェニーとおれがバースデイ・ソングを歌いながら泥まみれで愛しあうというくだりで、僕は不覚にも泣いてしまった。そしてサヨナラは静かにやって来る…。一晩限りのリアルな恋愛もあるのだ。
このアルバムをリリースした頃のスプリングスティーンは細身でちょっとナイーブな感じの青年に見える。精一杯ワイルドに振る舞っていたに違いない。
ところで、最近夜になってもちっとも外に出たくならない僕は、やっぱり歳をとったのだろうか?