Thelonious Himself Thelonious Monk
Thelonious Himself
■音の形
 心というものはとても複雑な形をしている。よくハート・マークで描きあらわされるけど、あんなかわいらしい形だったらどんなにいいだろう。たぶんもっとイビツで、ごつごつしてたりグジュグジュしてたり、得体の知れない物質がこびりついてたり、ある部分が乱暴にむしり取られてたりするに違いない。もし目の前に差し出されたら、思わず目をそむけてしまいたくなるような代物なのではないだろうか。(もしかして僕だけ?)
 だから僕はときどき自分の心を持て余してしまう時がある。いっそのことどこかの駅のコインロッカーにそっと置いてきてしまおうかと思ったりする。実際コインロッカーの前に立っていざというときに、ポケットの中に小銭がないことに気づき断念したということを何度くり返しただろう。別にカギをかける必要はないのかもしれないが、なぜかその時はカギをかけなくてはという強迫観念にしばられてしまう。そんな失敗をくり返して、僕はセロニアス・モンクを聴くようになった。心を持て余してしまいそうになった時、深い深い井戸の底に降りて、ひとり「セロニアス・ヒムセルフ」を聴くのだ。

 モンクのピアノは名医だ。見るからに不器用そうな指さばきではあるけれど、なぜか正確無比に僕の心に処置を施していく。まるで僕のイビツな心の形を100%把握しているかのように、足りない部分を補い、いらない部分を削ってゆく。レントゲンやら心電図やら超音波やらそんなものはモンクのピアノには不要だ。
もっとすごいスーパー・コンピューターで計算しているのか、それとも長年の経験をつんだ職人技みたいなものなのか、僕にはわからない。よくもまぁこんな複雑な形を理解したものだと思う。もしかしたら単なる「当てずっぽ」なのかもしれない…。とにかく僕の心はだんだんとあの「ハート・マーク」みたいにつるつるしてかわいらしい形になっていく。
 ピカピカしてピンク色。ここで話が終われば良かったのだが、そうさせてくれないところが「名医」の「名医」たるゆえん。さすがはモンク大先生。もう誰に見せても恥ずかしくないくらいかわいい形を取り戻した僕の心は、そこで気付きたくないことに気付いてしまう。僕はとても「孤独」なのだ。深い深い井戸の底で「孤独」なのだ。
 それでも救いがないわけではない。ラスト曲の「モンクス・ムード」で救われる。コルトレーンの吹くテナー・サックスが僕にそっと教えてくれる。見上げると見えるのだ。こんなに深い井戸の底からでも見上げればちゃんと明るい青空が。
 暗い井戸の底で、薄明かりをたよりに、モンクの弾き出したいろんな形のコードやらテンション・ノートやらを組み合わせてみる。それはジグソーパズルみたいにぴったりは合わないけれど、なんとなくつないでいけそうな気がする。
 もしかしたら僕は「孤独」とうまくやっていくことができるかもしれない。

                      (2号)
リリース 1957 A LOVE SUPREME [Verve]
おすすめ曲 'Round Midnight
これも聴くべき!!
John Coltrane /
A Love Supreme
★ ★ ★ ★
Super Bad
写真募集、読者ギャラリー
レコードレビュー03
目次
photodelic
エブリデイ・ピープル トップ