シングル・マン RCサクセション
シングル・マン
■悪い予感のかけらもないさ
 僕の人生、振り返ってみると妥協の連続である。要所要所で必ず妥協してきた。その時々で自分をごまかしてなんとかしのいでいたのだと思う。いや間違いなく自分をごまかしていた。
 「中途半端は命取りやで」いつか友だちに投げかけられた言葉。彼は凄いやつだ。彼の人生には中途半端はないように思われたし、彼の目には僕は中途半端なやつに写っていたのだろう。僕には言い返す言葉もなかった。
 あれからもう何年も経っているけれど、相変わらずに過ごしている僕。そして「中途半端は命取り」という言葉はどんどん巨大化して僕にのしかかってくる。
 人生は短い。最近つくづく思う。まさに命取りともいえるくらい途方もない時間を無駄に過ごしてしまったのだ僕は。あー、もう中途半端はやめよう。

 「シングルマン」はRCサクセションがもっとも低迷していた時にリリースされたアルバムだ。しかも、事務所とのゴタゴタでレコーディングされてから発売までに1年もの歳月を要したにもかかわらず、あっという間に廃盤になるという憂き目にもあっている。
 ハッピーな曲は1曲もない。清志郎の歌声もあくが強いと言えばそうだし、歌詞には容赦なく辛辣な言葉が使われている。たしかに聴きやすいレコードじゃないかもしれない。
 最近よく耳にするのが、「ファンに喜んでもらえるプレイをしたい」みたいなスポーツ選手のコメント。なんかちょっと違う気がするな。よけいなこと考えず自分らしいプレイをしたら
いいと思う。もっといえば自分のためにプレイしたらいいと思う。一生懸命プレイする姿に僕らは感動すると思うから。
 清志郎は自分のために歌ってる。自分が表現したいから。曲を作っているときに、多分リスナーのことなんか考えていないと思う。それでも僕らは共感したり、感動したりする。それは清志郎の歌には嘘がないから。それにその歌に自分にも思い当たる何かがあるから。
 レコードが売れる売れないにはいろいろな要因があるのだろうけど、こんなレコードが売れるのはうれしい。廃盤後4、5年して“廃盤復刻運動”がおこり、見事に再発された。この頃、RCの大ブレイクがあったからというのもあるかもしれないが、やっぱりすごいレコードだと思う。今ではRCのアルバムを代表する名盤となっている。
 なんだかんだいってもこの頃の清志郎のラブソングはすばらしい。何年経ってもまったく色褪せることがない。「スローバラード」を聴いてなんとも思わない人は、もう清志郎の歌を聴かなくてもいいんじゃないかな。
 もちろん他にもいい曲がいっぱい入ってる。揺るぐことのない音楽に対する気持ちが感じられる曲ばかりだ。(1曲リンコさんの曲も入ってるけど、これもいい味だしてる)
 いいとか悪いとかじゃなく彼には音楽しかなかったのだろうし、今もずっと音楽を続けている。きっと中途半端は嫌いなのだ。
 
 去年の夏、大変な出来事があっておどろいたけど、幸いにもまた彼の歌を聴くことができそうだ。   (2号)
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