※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。
待ち合わせた居酒屋には、懐かしい顔ぶれが揃っていた。
皆、あの頃よりも大人びて、まぁ、中には例外もいたが。
ヤンチャだった後輩も、経た時間を表す様に、落ち着きを見せている。
そのことを告げると、嬉しそうに首を竦めて笑う仕草は、あの頃の面影が残っていた。
「柳生、久しぶりじゃな。」
小部屋の奥の席からかけられた声に視線を向けると、そこに座っていたのは一番身近にいたパートナー。
「仁王くん、御無沙汰ですね。」
トレードマークだった長めの髪は無くなっていたが、あの鋭い眼差しはそのままで。
久しぶりに会った彼は、より端整な顔立ちの青年となっていた。
勧められるまま隣の席につき、お互いの近況を話し合う。
最初は少しぎこちなさを感じたが、そのうちにあの頃に戻った様に会話はすすみ。
私は、ふと、先日のことを口にしていた。
「そういえば、先日、彼女に会いましたよ。」
「彼女って…、か?」
名前を告げなくても誰のことかわかるのは、仁王くんだからなのか、パートナーだからなのか。
どちらにしろ、さすがだと感心してしまう。
「えぇ、近所でバッタリ。なんだか、雰囲気が変わった気もしますが…。
でも、いきなり不思議なことを言いだすのは、そのままでしたね。」
そこまで言って、いやに神妙な顔をして私を見ている仁王くんに気付いた。
どうしたのだろう?
何か、変なことを言っただろうか?
「…柳生……ホントウに、アイツに会ったんか?」
「はい、確かに。どう、したんです?そんな難しい顔をして…。」
口元に手を当てて、どこか言い出すのを躊躇している彼は、思いたった様に重い口を開く。
「柳生…落ち着いて、よぅ聞きんしゃい。
お前が、アイツに会うなんて、出来るはずがないんじゃ。
アイツは、死んだ…去年の冬、病気で…急だった…。」
「ま、さか…冗談にしては、人が悪すぎます。」
「こがなこと、冗談でなんか言う訳なかよ。」
仁王くんの言葉が、頭の中で繰り返される。
まさか…そんなこと……!
暫らく呆然としていた私を、仁王くんが心配そうに見つめていた。
「俺等も知ったのは、葬儀も全て終わってからだった。
全部身内だけで済ませたそうじゃ…本人の、希望らしいぜよ。
…お前には、知らされなかったらしいな……。」
「…そ、んな……。」
「今年は、の初盆じゃ…きっと、お前に会いに行ったんじゃな…。」
彼女と会うことは出来ない…それが、現実。
ふと、あの時の彼女との会話が蘇り、私はやっとその言葉の意味を理解した。
あぁ、あなたは、私に会いに来てくれたのですね。
死んでもなお、私に会いたいと想ってくれた…。
私が会いたいと願った、愛しい幽霊となって…。
『ねぇ、柳生クン…。』
『幽霊って、信じる?』
さん。
今なら、はっきりと答えられます。
「信じますよ。あなたが、会いに来てくれたから…。」
END
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WEB拍手公開。<2007.8.1>
サイトUP。<2007.10.15>
WEB拍手から、繰上げ。
夏らしく…と思ってできたモノ。
知らせてなかったけど、逝く前に一目逢いたかった、という心残りから、
現われてしまった…って、感じてもらえるといい。
相変わらず、名前変換少なすぎです。
いい加減、拍手で続き物はしない方がいいかも知れない(^_^;)
どうしても、短くまとめるのが下手なもので…(苦笑)