幽霊って信じる? 2

※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。


「幽霊って、信じる?」

再び彼女が、繰り返す言葉。
私の顔を覗き込む様に伺う視線。
それは、どこか切なげで…これから返される私の言葉に、期待と不安を抱いている様で。

「完全に、否定する気はありません。
 ですが、これまで自分の目で見たことはありませんから。
 今のところは、眉唾の域を出ない…といったところでしょうか。」
「じゃあ、実際に現れてしまったら、どうする?」
「都市伝説等で噂されるような、危害を加えられるのは御遠慮願いたいですね…。」
「でも、そんなのばかりじゃない…と思うよ。
 例えば、死んでしまっても、どうしても会いたい人がいて…。
 ……その人の処に、現れてしまう…とか…。」
「そう…ですね。」

そう言う彼女は、とても真剣な表情だったから、私はそれ以上何も言えなかった。

「…柳生クンは、そんな幽霊が現れたら、どうする…?」

じっと、私を見つめる彼女。
切実な眼差しに、私はその架空の現実を思い浮かべる。
死んでもなお、会いたいと願い、私の元に訪れる…私も会いたいと願う、愛しい幽霊…。

「……幽霊になってまでも会いたい、と…。
 そこまで想って頂けるのは、光栄なのかもしれませんね。」
「きっと…そう言ってもらえると、嬉しいと思うよ……。
 その、幽霊…。」

ふわりと、彼女が嬉しそうに微笑む。
私の記憶の中のどこにも、こんな彼女は存在していない。
こんなに、儚い笑顔の彼女は、見たことがない。
私が知っているのは、元気の塊のような笑顔だけだ。
何かが、違う…辺りを包み始める薄闇のように、違和感だけが、心に影を落としていく。
街灯が、ボンヤリ灯ろうとしている。

「こんな時間まで、引き止めてしまってすいません。
 そろそろ、帰りましょうか。送りますよ。」
「いいよ、一人で帰るから。」
「ダメです。こんな時間に、あなた一人で帰す訳にはいきませんよ。」
「ホント…柳生クンは、いつまでも変わらないね。」

ベンチからスッと立ち上がった彼女は、まだ座っている私を見下ろして苦笑する。
それは、今にも泣きそうな、切ない笑顔に変わった。

「送ってもらったりなんかしたら…帰せなくなってしまうじゃない。」

「だから、一人でいいの。」
…さん?」

今、なんて…いや、聞き間違えたんだろう。
聞き返す余裕も与えずに、彼女は私の手を取り強引に立ち上がらせると、そのまま公園を出る。
初めて握った彼女の手は、そこだけ温度が感じられず、ヒンヤリとしていた。
せかす様に背中を押して、帰らせようとする彼女の態度…もしかしたら、誰かと待ち合わせをしていたのでは?
それならば、なんて無粋なマネをしてしまったのだろうと、自分の気の効かなさが悔やまれた。

「ねぇ、柳生クン…今、幸せ?」

少し離れた所から、彼女が問いかける。
振り向くと、街灯に照らされた、彼女の姿。

「えぇ、忙しいですが、それなりに充実していますよ。」
「そぅ…よかった。」

小さく呟いた彼女は、確かに微笑んでいるはず。
だが、街灯に照らされているのに、暗い影に覆われたその表情は、見ることができなかった。


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