※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。
立海大付属高等部を卒業後、外部の医大へ入学してから、3年が経っていた。
夏休みという事で、久しぶりに集まろうと仲間から連絡があり、私は実家へと帰っていた。
日中の熱気はまだ冷める様子もなく、夕涼みがてら飲み物を買いにコンビニまで行った帰りのこと。
子供たちの姿のない、ひっそりと静まった公園で見かけたのは、どこかで見覚えのある姿。
公園内に足を踏み入れた私に気付いたのか、彼女はゆっくりとこちらへ振り向いた。
「…もしかして…柳生クン?ねぇ、そうでしょ?私のこと、覚えてる?」
先に私のことを思い出した彼女は、駆け寄って矢継ぎ早に口を開く。
「えぇ、覚えていますよ。」
さんとは、中等部の頃からの知り合いだ。
目の前の彼女は、その頃から何も変わっていないように見えた。
仁王くんとは違い、それほど女子と気軽に話をすることはなかった私だが、彼女は例外で。
いつでも気さくに声をかけてくる彼女は、私の数少ない女友達となった。
確か、卒業後は立海大へと進学したはず…さんと会ったのはそれ以来初めてだ。
「久しぶりですね、さん。大学は、どうです?皆さん、変わりはないですか?」
「うん、相変わらず…かな。」
僅かに言葉尻を濁すような言い方に、少し違和感を感じた。
今までの彼女なら、こんな曖昧な表現はしなかった…。
だが、あれから歳を経て、もう子供のままではないのだから、と、私は自分を納得させた。
どちらともなく、私達の足は脇に設置されたベンチへと向き、軽く土埃を払った席に彼女を促した。
「相変わらず、紳士だねぇ。」と笑う彼女に、先ほど感じた違和感も多少は薄れた。
外気に触れて露を生じたペットボトルは、ビニール袋をまとわり付かせる。
それほどに、生暖かい空気を漂わせる、夕暮れだった。
「ねぇ、そっちの大学はどうなの?」
「ベンキョウは、やっぱ難しい?」
「柳生クン、サークルとか入ったの?」
彼女の口から出るのは質問ばかりで、私は先ほど打ち消した違和感を拭うことが出来なくなった。
今日の彼女は、やはりどこか違う。
これまでの私達は、彼女の一方的な話題に、私が相槌をうつのが殆どだった。
彼女が楽しげに話しているのを、聞いているのが好きだった。
こんなに彼女が質問ばかりするのは、試験前以外なかったと記憶している。
「ねぇ、柳生クン…あのさぁ……。」
「なんですか?」
言いよどむ彼女の表情は、暮れていく夕日の加減なのか、影が差してよく見えない。
「…そっちで、彼女とか出来たりした?」
「なっ…!いきなり、何を……!」
…言い出すんだろう。
でも、この突拍子もない言動は、確かに彼女らしい。
期待に満ちた視線を向ける彼女を横目に、私は軽く息を吐き、気を落ち着ける。
「…いませんよ…そんな余裕は、ありませんでしたしね。
それにしても、今日はどうしたんです?質問ばかりで…。」
「柳生クンに、質問したい気分だったの!そんな時も、あるんだよ。」
そう言って、微かに口元に微笑を浮かべ、彼女は足元へ視線を向けた。
俯いた頬が、仄かに染まって見えるのは、私の気の所為だろうか。
公園内は、暮れゆく空に合わせて、徐々に薄暗くなっていく。
なのに、纏わり付く生暖かい空気は、辺りから消えることはなかった。
暫らくの間を置いて、彼女が噤んでいた口をゆっくりと開く。
「ねぇ、柳生クン…。」
「はい、なんです?」
『幽霊って、信じる?』
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