※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。名前変換なし。
連覇を阻まれたあの夏から、もう3年が経った。
高等部へと進学し、ひたすら頂点を目指し続けた3年間。
そんな日々も、終わる…あの時、成し遂げられなかった、3連覇という偉業を残して。
全国大会も終わり、3年生は部活を引退して、次の道へと進む準備を始める。
そんな時期…。
「ねぇ、今度の試験あけの休暇に、旅行に行かないか?」
後輩へ明け渡すために、それぞれロッカーの整理をしている時だった。
ふと、手を休めた幸村が、そんな事を言い出したのは。
「へぇ、おもしろそうじゃん!どこ行くんだよ、幸村クン。」
「実はね……。」
幸村の話では、そこは知り合いが買い取ったリゾートペンションなのだという。
バブル時代の名残か、そこだけで充分楽しめるくらいの施設が完備されている。
だが、やはり不景気のあおりをくらい、数年前に閉鎖してしまった。
その建物を、改装して営業するらしい。
「行くのはいいけど…その…費用とか、は?」
一番気にかかる問題を遠慮がちに口にするジャッカルに、幸村はフワリと微笑む。
「心配しなくてもいいよ。まだ、プレオープンの段階だし。
改装後の不都合がないかどうか、モニターになって欲しいらしいんだ。
従業員の研修も兼ねて、招待してくれるって言うんだよ。」
からかいながら背中を叩くブン太に顔を顰めつつも、ジャッカルは幸村の言葉にホッと胸を撫で下ろした。
試験後の休暇は、木曜日から土日を含めた週末の4日間。
これまでずっと練習に明け暮れていた彼等に訪れた、久々の休暇。
それに、今後は頻繁に全員が揃う機会も少なくなるだろう。
いつも難しい顔をする真田も、珍しく異論はないようだ。
そんな中、すっかり休暇の予定で盛り上がるメンバーに反して、表情を曇らせたのは、柳生だった。
「あの…申し訳ありませんが……。」
「どうしたの?柳生…。」
「その日はちょっと、予定がありまして……私は、遠慮させてもらいます。」
集中するみんなの視線に少し途惑いながら、柳生は申し訳なさそうに俯いた。
「どうしても、外せない用事なのか?」
「本当に、スイマセン。私のことは気にせずに、皆さんで楽しんできてください。」
静かに歩み寄った幸村が、苦笑する柳生の両腕をギュッと握りしめた。
縋るように見上げる視線とは裏腹に、その拳には震えるほどの力が込められる。
「どうしても…無理なの?」
「え、えぇ…父と、出掛けなければならないものですから……。」
捕まれた腕に痛みを感じ、柳生は微かに表情を歪める。
幸村の口から、聞き取れないほどの呟きが零れた。
「…ダメ…だ……。」
「ゆきむ、ら…く…?」
「ダメなんだ!ダメなんだよ、7人でなければ!
…1人でも欠けては、ダメなんだ!!」
そう、叫んだかと思うと、柳生は身体を激しく揺さぶられた。
部室の中にいた全員が、急に声を荒げた幸村を見つめて息を飲んだ。
いつもなら、これほど感情を昂らせたりする必要はない。
幸村の言葉は、たとえ静かな口調だとしても隠せない威圧感を感じさせる。
承諾させるなら、それが一番手っ取り早い…自然と従うしかなくなってしまうからだ。
だからこそ、切迫した声を上げる幸村の姿に、戸惑いと畏怖を感じた。
今日は様子が違う…こんな幸村は、見た事がない。
「ねぇ・・お願いだから。
1日だけでいいんだ、だから…柳生……。」
幸村から零れた『お願い』という言葉が、頭の中で繰り返される。
柳生は、身を竦ませた…一瞬、絡んだ視線に、背筋を冷たいモノがつたう。
『お願い』と言う幸村の視線に感じたそれは……例えて言うなら『恐怖』だった…。
END
<2008.4.27>
少しホラーを目指してみたもの。
いつものごとく、だいたいの内容は頭にあるものの、
なかなか文章にはなってくれず…(苦笑)
しばらくメモのまま放置してあったのを、引っ張り出してみた。
なんとか仕上げる努力をする!…ためにあげます(^_^;)
が…がんがれ、自分…。
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