うんちく 「薬を斬る!(後編) 〜お薬徹底比較&ぷーさんが選ぶベスト・バイ〜」
さて、前編では、各魚病薬の成分や価格面での特徴を掘り下げて解説しました。今回は、前編の記事も参考にして、様々なケースでどういった薬剤を選択するのが良いのかを、考えてみたいと思います。あくまで私の主観に基づくモノで何の保証もできないのですが、お薬を購入される場合の参考にしていただければと思います。なお、前編の記事や、別に紹介しております魚病薬一覧のエクセルファイル、html簡易版などを併せてご覧いただくことをオススメします。


★ケース1 白点病、水カビ病編

白点&水かび病対策ということで、次の薬剤が候補に挙がります。

 ◆メチレンブルー水溶液
 ◆グリーンFリキッド
 ◆グリーンF
 ◆ニューグリーンF
 ◆グリーンFクリア
 ◆トロピカルゴールド
 ◆フレッシュリーフ
 ◆アグテン
 ◆ヒコサン
 ◆スーパースカット
 計10剤。

「グリーンF」「ニューグリーンF」ですが、この2剤は性状が同じ(粉)であること、有効成分的にはほぼ同じと考えられることから、実質価格の安い「ニューグリーンF」のほうを比較対象候補とし、「グリーンF」はここでの比較対象から外させていただきます。またよって上記7剤のうち「グリーンF」を抜いた計6剤での比較とさせていただきます。

次に、「アグテン」「ヒコサン」「スーパースカット」の3剤は、これまた全て性状が同じ(液)で、マカライトグリーンが主成分で内容的には同じ剤と考えて良いので、薬浴水10リットル当たりの薬剤単価が14.8円と最も安い「アグテン」を比較対照候補として、他の「ヒコサン」「スーパースカット」の2剤は比較対照から外します。
よってこれら3剤を外した計7剤で比較したいと思います。

まず、7剤のうち「グリーンFクリア」1剤だけは、唯一有効成分が二酸化塩素で無色透明、それ以外は全てメチレンブルーやマカライトグリーン等の色素剤が主成分となっています。よって本水槽への使用を考えていて、底砂やシリコン等への着色を避けたいと言う方は「グリーンFクリア」しか選択肢がありません。でも、「グリーンFクリア」は実質価格が高い上に、水かび病等の水性真菌症に効果がなく、比較的使いにくいと思います。よって上記のような事情にこだわるのでなければ、一般的には選択し難い薬剤といえるでしょう。

次に、「トロピカルゴールド」ですが、これはイカリムシやウオジラミなど寄生虫対象のトリクロルホンも含有しており、価格が安いので、白点病だけでなく寄生虫にも備えたいという方には良いでしょう。ただ、トリクロルホンは金魚に対して毒性が強く、高水温で薬害がでやすい上、「紛状&使用量が微量のため使いにくい」などのデメリットもあります。発生するかどうかもわからない寄生虫のために、余分な成分(トリクロルホン)を加えて金魚を余計な危険にさらすのもどうかという考えもあろうかと思います。ということで、今現在、あるいは近い過去に寄生虫が問題になって、どうしても寄生虫対策も兼ねたいというような状況になければ、パスしたほうがいいかもしれません。

以上、「グリーンFクリアー」「トロピカルゴールド」の2剤は、使用場面を選ぶ、ちょっと特殊な薬剤といえるので、ベスト・バイからは外します。

次に残りの5剤を比較してみます。

まず「メチレンブルー水溶液」は色素剤(メチレンブルー)のみの単一成分、「グリーンFリキッド」はメチレンブルーに加え、外傷対策のアクリノール、食塩を加えています。ただし実質的な効果は両者とも同じと考えられます。「ニューグリーンF」は、これに加えてサルファ剤が入っており、「尾ぐされ病」などの細菌性病へ、ある程度の効果が期待できます。ただし、「メチレンブルー水溶液」「グリーンFリキッド」の2剤(液状)と異なり、紛状であるため、微量を計測しにくく、小型水槽で使用する場合はデメリットといえるでしょう。

「アグテン」「フレッシュリーフ」は白点病や水カビ病に効果のある色素剤(マカライトグリーン)が主成分です。「フレッシュリーフ」のほうは、これに加えて細菌性病に効果のあるサルファ剤が含まれています。これら2剤が他の白点病薬と決定的に異なる点は、メーカーが「水草に影響が少ない」ということを謳っていることです。白点病は比較的よくかかる病気で、都度別容器に隔離して治療するというのも面倒で、本水槽に薬剤を「チャポン」と投げ込んで治療するという人も多いでしょう。そういう場合、水草に影響が無いというのは、結構大きな要素だったりします。「アグテン」は液状なので計量もたやすいのですが、「フレッシュリーフ」のほうは、紛状である上に、「ニューグリーンF」よりもさらに微量を計り取る必要があり、その点では使いにくいといえそうです。ただし、「フレッシュリーフ」には計量スプーンが付属していますので、小型水槽でなければ神経質になる必要は無いかかもしれません。


各薬剤を実質価格という点で比較すると、「メチレンブルー水溶液」「トロピカルゴールド」「アグテン」が圧倒的に安く、「グリーンFリキッド」「グリーンFクリア」は高め。残りの「ニューグリーンF」「フレッシュリーフ」がその中間となっています。

ということで、これらのことから総合的に判断すると、白点病の対策として私が一番オススメするのは、白点病にも水かび病にも効果があって、使いやすく価格も安い。しかも水草にも影響が無い「アグテン」です。なお、比較対照から外していましたが、成分が全く同じ「ヒコサン」「スーパースカット」も、薬浴水10リットル当たり薬剤価格はそれぞれ19.7円、18.6円と、ほとんどかわらないので、「アグテン」を含めた3剤は好みで選べば良いと思います。

なお、薬浴は別容器で行うし、液状で無くても構わない、また多少値段が高くても良い、という方は、白点&水かび病に加え、尾ぐされ病等の細菌性病にもある程度の効果が期待できる「ニューグリーンF」または「フレッシュリーフ」を選択するという方法もあります。水草への影響が気になる環境なら、「フレッシュリーフ」で決まりでしょうか。



★ケース2 細菌性病(尾腐れ&エラ腐れ病、松かさ病、穴あき病等)編

これらの病気はカラムナリス菌やエロモナス菌等の細菌が原因で発生する病気です。細菌性の病気は、抗菌性を有する成分を含まないと治療効果は期待できないと考えられるので、尾ぐされ症状への効果を謳っていても、候補から外します。ということで候補は次のとおり。

 ◆ニューグリーンF
 ◆グリーンFゴールド顆粒
 ◆グリーンFゴールドリキッド
 ◆パラザンD
 ◆エルバージュエース
 ◆ハイートロピカル
 ◆フレッシュリーフ

細菌性病の対象成分としては、
「ニューグリーンF」、「リフィッシュ」、「エルバージュエース」 →抗菌剤
「ハイートロピカル」、「フレッシュリーフ」 →サルファ剤
「グリーンFゴールド顆粒」 →サルファ剤+抗菌剤
「グリーンFゴールドリキッド」、「パラザンD」 →抗生物質

をそれぞれ含みます。

以上の成分内容から効果面を推測すると、細菌に対する効果そのものの高さという点で、抗生物質が主成分である「グリーンFゴールドリキッド」「パラザンD」の2剤が最も効果が高いと考えられます。また、サルファ剤と抗菌剤の2種の成分を含み、抗菌範囲が広く、比較的耐性菌がでにくいと考えられる「グリーンFゴールド顆粒」も効果的な面で期待できると思われます。

以上の計3剤が、細菌性病に特に優れた治療効果を有すると思われます。なお、「グリーンFゴールドリキッド」は水草に影響が無いと謳われていますが、水質や微生物環境に影響を及ぼす以上、あらゆる種類の水草でだいじょうぶであるとは言えないと思われます。

「エルバージュエース」は、紛状である上に必要薬量が微量であるため、一般家庭の小型水槽レベルではとても使用しにくく、また薬害もでやすようなので、業務用はともかく、一般家庭においてはあまりおすすめできません。「リフィッシュ」は価格も安いうえに、トリクロルホンを含んでいるため、イカリムシ&ウオジラミ等の寄生虫にも効果があるのですが、必要量がとにかく微量(0.05g/10リットル:どうやって計るのでしょうか)で結構使いにくそうです。また、トリクロルホンは金魚への影響も強く、高水温時に薬害の恐れがあるので、特に今現在寄生虫が問題になっているのでなければ、敢えてトリクロルホンを含有しないもののほうが安心して使用できると思います。

「ニューグリーンF」「ハイートロピカル」「フレッシュリーフ」の3剤は、主成分は抗菌剤またはサルファ剤のいずれか1種類だけですが、初期の尾ぐされ病などへの効果はそれなりに期待できると思われます。なお、この3剤はいずれも白点病(水かび病)にも有効で、「フレッシュリーフ」は先述のように水草への影響が少ないというメリットもあります。

実質価格という点で比較すると、抗生物質が主成分の「グリーンFゴールドリキッド」「パラザンD」の2剤がさすがに群を抜いて高価で、「ハイートロピカル」「リフィッシュ」は非常に低価格、残りの4剤はその中間でどんぐりの背比べといった感じです。

以上から、尾ぐされ、えらぐされ等の一般的な細菌性病対策としてどの薬を選択すべきか、、使用場面によって次のとおりまとめてみました。

◆発生初期の尾ぐされ病等比較的軽度のカラムナリス属による細菌感染症
「ニューグリーンF」「フレッシュリーフ」のいずれかがオススメ。もし、粉状の微量の計量が問題無ければ、価格の安い「ハイートロピカル」もありです。これら3剤は、いずれも白点病にも効果がありますので、常備薬としても良いと思います。

◆重症の尾ぐされ病や、松かさ病・穴あき病などのエロモナス属による細菌感染症
2系統の成分によりあらゆる菌をシャットアウトする「ニューグリーンFゴールド顆粒」が値段もソコソコでオススメです。ただし、粉状ではダメという事情があれば、実質価格は高くなってしまいますが、抗生物質の「グリーンFゴールドリキッド」又は「パラザンD」ということになります。この場合、定価ベースで実質価格の安い「パラザンD」を一応のオススメとしておきますが、使用する水槽が小さい場合には、「グリーンFゴールドリキッド」のほうが容量あたりの成分量が少なく、計量しやすいです。



★ケース3 寄生虫(イカリムシ、ウオジラミ)編

イカリムシやウオジラミ(チョウ)等の寄生虫を駆除するための成分を含む剤としては、次の3剤です。

 ◆リフィッシュ
 ◆トロピカルN
 ◆トロピカルゴールド

いずれも有効成分はトリクロルホンです。異なる部分は次のとおり。まず「リフィッシュ」は抗菌剤を含有しますから、外傷の感染予防以外に、細菌性病への積極的な治療効果が期待できます。「トロピカルN」は寄生虫による傷口からの感染を予防する目的のアクリノールを含有しています。「トロピカルゴールド」は、白点病のところでも解説しましたが、「トロピカルN」に加えて白点病に効く色素剤を含有しています。

実質価格はリフィッシュが一番安いですが、いずれも10円未満/水10リットルということで、格安ですから、値段は判断基準に入れなくてもいいと思います。

大同小異でオススメは特にありませんが、強いてあげれば細菌性病の感染予防も期待できるリフィッシュでしょうか。寄生虫による傷口から細菌感染する危険というのは思いのほか高いようですから。白点病にも効いた方が良いという方には「トロピカルゴールド」をオススメします。



★ケース4 日頃の備え編

今のところ病気知らずだが、今後に備えて何か適当な常備薬を備えておくという場合です。これは人によって、こだわりや飼育スタイルなどで違ってきますので、いちがいにはいえませんが、この魚病薬企画を総括する意味でも、私の主観ではありますが、書いてみたいと思います。まず、常備薬ということですから、次の点に留意すべきと考えます。

 @「発生頻度の高い病気に対応していること」
 A「変質しにくい(と考えられる)こと」
 B値段が安いこと

これらが条件で備わっていれば、常備薬としての役割は十分果たすと思います。@については、人によって違いますが、たいていの方は白点病に一番悩まされており、次が水カビ病、尾ぐされ病あたりではないでしょうか。そういう前提で話しをすすめます。Aについては、液状よりは乾燥したもの(紛状又は顆粒状)ということですね。ただし開封後はシリカゲル等で湿気防止は行うという前提です。Bはあまりこだわらなくても良いかもしれません。単剤のみの価格にとらわれがちですが、例えば1剤(1000円)で2種類の病気に対応するのと、2剤(各500円)で2種類の病気に対応するのは、実質的に同じコストと考えれますから、そういった点も注意してください。
以上を前提に、ぷーさんがおすすめする、常備薬ベスト・バイを挙げてみます。

◆発生頻度=白点病&水カビ病>尾ぐされ病の場合
 →「ニューグリーンF(35g瓶タイプ)」
白点病に十分な治療効果が期待できる上に、細菌性病にもそこそこの効果が期待できますので。尾ぐされ病の心配が先ず無ければ、細菌性の病気への配慮はせずに、「アグテン(100ml)」にするという方法もあります。

◆発生頻度=白点病&水カビ病<尾ぐされ病の場合
 →「アグテン(100ml)」「グリーンFゴールド顆粒(2g×2又は2g×3)」
「アグテン」で白点&水カビ病に対応し、「グリーンFゴールドリキッド」で細菌性の病気に対応します。なお「アグテン」は液状ですが、成分が色素剤のみで、直射日光に当てなければ変質しにくいと考えられますし、もし変質して無駄になっても、あまりお財布に厳しくないお値段の安さが魅力です。

◆どうしても液状のタイプではないといけないという場合
 → 「アグテン水溶液(100ml)」(+「パラザンD(30ml)」
発生しないかもしれない病気に対して常備薬として置いておくには、パラザンDはあまりに高価です。ですから、発生してから購入すれば良いという意味でカッコ書きにしています。

※上にも書きましたが、「アグテン」の代わりに「ヒコサン」「スーパースカット」にしても良いです(価格差はわずかです)


今回は魚病薬の比較+ベスト・バイ研究をしてみましたが、いかがでしたでしょうか?もちろん人によって全然条件は異なりますから、ここで書いた内容があらゆる状況においてあてはまるわけではありません。本稿を参考のうえ魚病薬エクセルファイル等も眺めていただき、ご自分にとってのベスト・バイを追求してみていただければと思います?薬の世界もハマるとものすごく奥が深いですね。

最後に、繰り返しになりますが、前回及び今回の魚病薬関連の原稿は、あくまで私の主観に基づくものであり、記述内容についていかなる責任も負うことはできませんので、ご了承ください。
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