□ Little Lotte □

クリスティーヌの父親の人物像は?
またクリスティーヌと、どのような関係を築いていたのだろうか。


・・・――――――――――――・・・――――――――――――・・・
小さなロッテはあらゆることを考え、
そして何も考えていませんでした。

夏の小鳥の彼女は、 ブロンドの巻き毛の上に春の王冠を被り、
金色の陽光のなかを舞っていました。

彼女の魂は眼差しと同じように澄んでいて、
同じようにブルーでした・・・

・・・――――――――――――・・・――――――――――――・・・

ガストン・ルルー著『オペラ座の怪人』(三輪秀彦訳)の中の一節。
父親がまだ幼いクリスティーヌに話して聞かせた、美しいおとぎ話の一つです。

クリスティーヌのファントムヘの想いは、多分に「天国のパパ」に対する想いと 繋がっているのですが、クリスティーヌの父親がどのような人物であったか、またどのような父娘関係を築いていたのかは、舞台を観ただけではなかなか分かり難い部分でもあります。

ファントムが天使ではないという現実に直面した後でさえ、ファントムの呼びかけに対して「天使かしら・・・それともパパの声なの?」と応えてしまうクリスティーヌ。
ありえない事と分かっていながらも、断ち切れない望みに引きずられて、闇に倒れこんでいく自分を止める事が出来ないのですな。

前楽ソワレ観劇後に原作を読み返してみて、あらためて感じた事は、クリスティーヌの父親とファントムが、極めてよく似ているという事でした。
そしてクリスティーヌとファントムもよく似ている。
クリスティーヌの父親は、夢と音楽と理想を食べて生きているような人物。
わずらわしい俗世を嫌い、他人には心を開かず、娘と二人で美しい音楽の世界に閉じこもって生き、その中で亡くなった。「わしが天国に行ったら、おまえのところに天使を行かせるよ」と約束して。

父親の夢の世界の住人だったクリスティーヌは、父親の死によっていままで住んでいた安住の地を失い、厳しい現実の中に放り出されたんでしょうね。
だとすると、クリスティーヌにとってファントムとは、自分が失った心地よい夢の世界・・・父親がヴァイオリンを奏で、眠り際に音楽の天使が囁きかけてくれる世界・・・へ再び導いてくれる存在、という意味合いがあったのかも知れない。

現実世界の中で自分の居場所を見出せず、そこから逃避するようにずっと父親の影を慕い続けていたクリスティーヌ。
ファントムの声を始めて耳にした時、きっと迷うこと無く「音楽の天使だ!」と信じたでしょう。なぜならそう信じたかったから(笑)
あるいはそう信じる方が、彼女にとって都合がよかったから。

クリスティーヌにとって、ファントムとラウルの間で揺れる事は、単に二人の男性の愛情の間で揺れるという意味にとどまらず、暖かく懐かしく居心地のいい夢の世界に埋没するか、つらい現実の中でラウルと共に新しい居場所を築いていくかという「生きかたの選択」でもあったのではないかな。
物語のラスト、ファントムに別れを告げた瞬間に、彼女は父親の夢にすがろうとする
これまでの自分自身にも別れを告げたのかも知れません。

← Back