□ リフレインが叫んでる □

『オペラ座の怪人』の舞台では、同一のメロディが
繰り返し使われている事が多い。
それぞれのメロディが持つ意味について考えてみよう。


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『オペラ座の怪人』の舞台は、その大部分が歌によって構成されている。
台詞の中に歌が入るというよりは、歌の合間を縫って台詞が織り込まれている。

同じメロディをアレンジを変えながら何度も繰り返し流すのは、アンドリュー・ロイド=ウェバーが好んで使う手法でありますが、この『オペラ座の怪人』でも繰り返しの魔術はふんだんに使われていますね。

改めてCDを聴きなおしてみると、意識的に「これはあの曲のメロディだな」と思いながら聴いていた所もあれば、「おおっ?この部分とこの部分は同じメロディが使われていたんだ!」と驚く所もあり、なかなか興味深かったです。

例えば・・・
「Think of Me」
*(ハンニバルのアリア) どうぞ想い出を
*(マスカレード) 人に言ってはだめよ

「Angel of Music」
*(クリスティーヌの楽屋) なんて素晴らしいあなた
*(一幕怪人の隠れ家) 仮面に隠れた その顔は誰?
*(墓場にて) この苦しみ悲しみに → ここへおいで私の 愛しいクリスティーヌ
*(二幕怪人の隠れ家) Angel of Music 昔は心捧げた → 今見せてあげる私の心

「Little Lotte」
*(クリスティーヌの楽屋) 可愛いロッテは考えた → 一番好きだったのは
*(二幕支配人室) ラウルそんなひどいこと・・・ → 夢でみたことは今
*(墓場にて) 寂しいロッテはいつも待っているの

「The Phantom of the Opera」
*(オーヴァーチュア)
*(ハンニバル) 怖いわファントムの気配よ
*(オペラ座の怪人) 夢の中であなたは
*(イル・ムート) あれはファントムの声だわ
*(バレエシーン → ブケーの死体発見)
*(オペラ座の屋上)  どうしてここへ帰ろうよ→もうここにはいない
*(オペラ座の屋上 許しはしないぞ → シャンデリア落下)
*(マスカレード → ファントム登場)
*(墓場にて) 夢に響く歌声
*(ドンファンの勝利 → ピアンジの死体発見)
*(二幕怪人の隠れ家 コーラス) もう許さないこの上は

「The Music of the Night」
*(一幕怪人の隠れ家) 静かに広がる闇
*(オペラ座の屋上) あの声は全てを包み → 幻を見ただけだ
*(地下の迷路) 再び来るのだ光なき
*(二幕怪人の隠れ家) 母にも嫌いぬかれて
*(二幕怪人の隠れ家) 夜の調べとともに → ラストまで

「All I Ask of You」
*(オペラ座の屋上) 涙おふき心しずめて → 愛を与えた音楽を与えた
*(ドンファンの勝利) どんな時でも二人の誓いは
*(二幕怪人の隠れ家 クリス&ラウル) どんな時でも二人の愛は
*(二幕怪人の隠れ家 ファントム) 我が愛は終わりぬ

「Masquerade」
*(オークション → 猿のオルゴール)
*(一幕怪人の隠れ家 → 猿のオルゴール)
*(オペラ座の屋上) 大変もう時間だわ → アイラヴユー
*(マスカレード) マスカレード!仮面舞踏会
*(二幕怪人の隠れ家) マスカレード!仮面に隠れて → アイラヴユー

「The Point of No Return」
(冒頭部分のメロディが、Little Lotteとよく似ている)
*(一幕怪人の隠れ家) 連れて来た 甘美なる世界へ
*(オペラ座の屋上) 私は行ったの あの人に連れられて
*(ドンファンの勝利) 心に潜む密かな願いに
*(二幕怪人の隠れ家) 支度はできた 手を合わせて頼むのだ

「ファントムのテーマ?」
その1
*(オークション) オルゴールこれだ・・・
*(一幕怪人の隠れ家) 不思議な事が
*(ブケー&マダム) 隙を見せるなよ → 悪ふざけだわ
*(一幕支配人室) クリスティーヌ・ダーエを帰した 彼女の成功を望む
*(マスカレード) 驚いたかね?私はまだ健在だ
*(二幕支配人室) それでは皆さん 稽古の前にご注意を
*(ドンファンの勝利) 殿様は今 感極まるところ

その2
*(一幕怪人の隠れ家) 業火に焼かれた無残な姿になろうと
*(二幕支配人室) よく聴けよ 声は素晴らしい
*(二幕怪人の隠れ家) ようこそおいでを

その3
*(一幕怪人の隠れ家 おおクリスティーヌ・・・ → 行かなければ!までのBGM)
*(オペラ座の屋上) 哀しみに満ち溢れて
*(二幕支配人室) あいつは天使ではない・・・
*(二幕怪人の隠れ家) 穢れは顔にはないわ

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マーカーを片手に歌詞カードを追っていく中で、単に耳で聴いているだけでは気がつきにくい、意外な発見がいくつかありました。
一つの曲として聴いていたけれど、よくよく反芻してみると実は二つの曲が混ざったものであったり、そっくりではないもののよく似た旋律を持つ曲があったり。
その中でも、特に気になったものについて少し考えてみたいと思います。


まず一つに、「The Point of No Return」や「The Music of the Night」のファントム歌いだしのメロディが、クリスティーヌのテーマでもある「Little Lotte」とよく似ている。

”連れて来た 甘美なる世界へ”や、”心に潜む 密かな願いに”等の歌詞からも
分かるように、このメロディのテーマは「来る」という意味合いを含んでいるのでは
ないかと。
お前を連れて来た、お前がやって来た、そして支度はできた(決断の時が来た)。
ファントムにとっては、クリスティーヌが自分の所に「来る」という願望を象徴した曲でもあるのだと思います。

ひるがえって「Little Lotte」は、クリスティーヌにとって父親の想い出と密接に結びついている曲。
一番好き「だった」のは。
夢で「見た」事は今。
それまでの過去形から一転して、寂しいロッテは「いつも待っているの」。
過去の夢が戻らない事を知りながら、それでも依然として父親の庇護を求めてしまうクリスティーヌの現状を、そのまま表わしていますね。

クリスティーヌを引き寄せようとするファントムの願いと、父親の影から自立できないクリスティーヌの子どもっぽい夢を表わすメロディが似ている。
「心の影を同じくする人」、この言葉を出すのは3度目になりますが、やはり二人の心の病みの類似を感じさせます。


もう一つは、二人の男によって歌われる非常に重要なフレーズ、「アイラヴユー」のメロディが「Masquerade」を元にしているという事ですね。
実はイメージ的には「All I Ask of You」がベースになっているような気がしていたのですが、わざわざ「All I Ask of You」の中に「Masquerade」のメロディを注入して「アイラヴユー」を歌わせていたのですね。
(”大変、もう時間だわ”で「Masquerade」へ、その後”すぐに馬車を”で再び「All I Ask of You」に戻る)
「All I Ask of You」が二人の愛を確かめ合う歌だとすれば、なぜ「アイラヴユー」をそのメロディの中で歌わせなかったのだろう?

「Masquerade」は普通の人々にとっては楽しい歌、しかしファントムにとっては苦い人生そのものという、二面性を持った歌でもあります。
ラストでファントムが歌う「マスカレード!仮面に隠れて・・・」の日本語歌詞、語呂はあまりよくありませんが、その内容に於いて実によくファントムの心情を汲んでいると思うのですよ。
「Masquerade」が持つ二面性をそのまま当てはめるとすれば、ラウルにとっては楽しく幸せな「アイラヴユー」、ファントムにとってはこれまでの全人生をかけた「アイラヴユー」であったと理解する事ができます。
同じメロディ、同じ歌詞がラウルとファントムでは正反対のベクトルを持つ。
この辺の対比はさすがだなぁと思います。


そして本当に今の今まで気づいていなかったのが、ファントムがラストで歌う
「我が愛はおわりぬ 夜の調べと共に」。
舞台の締めでもある重要な歌ですが、前半は「All I Ask of You」、そして後半は
「The Music of the Night」のメロディだったのですなぁ。
あまりにも二つのメロディの間に違和感がなかったもので、途中で曲の変換が
行われていることに気がついていなかった。

Say ― 言ってください、私と全てを分ち合うと
Say ― 言ってください、私が必要だと
Say ― 言ってください、私を愛していると

「All I Ask of You」は、クリスティーヌとラウルが歌う時は、常に二人一緒に歌っている曲なんですよね。つまり二人にとっては「お互いの」愛を確かめ合うデュエット曲でもあるのですが・・・ファントムは最後まで一人で歌い続けた。

声を返してくれる相手のいない「All I Ask of You」と、彼がクリスティーヌに望む全てを詰めた、彼女なしでは完成することのない「The Music of the Night」。
ファントムにとっては何もかもが終わってしまった。
終焉・・・ですね。


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