第一回

2001.01.20

細田守監督に注目せよ!

待ちに待った細田守監督の「劇場版デジモンアドベンチャー第一作」「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」がDVDで発売された。2作カップリングで、細田監督のスペシャルインタビューの映像特典付ということで、実に待った甲斐があったというものだ。(これで後はTVシリーズの第1シリーズをDVD化してくれれば)

細田守監督は、私が今、最も注目している新進の監督のひとりである。現時点で監督作品が、上記2作品、演出作品が「ゲゲゲの鬼太郎(第4作)」「ひみつのアッコちゃん」で数本とそのキャリアは浅い。(演出以前は原画をやっていた)その為認知度は、低い。しかし小黒裕一郎氏が編集長をつとめる雑誌「アニメスタイル」や「アニメージュ」等で特集が組まれることもあり、感度の高いマニア、デジモンファンの間でその名前は、広まっているようである。

私自身が細田監督の名前を意識したのは「デジモンアドベンチャー(TV第一期)」で彼が演出を担当した、第21話「コロモン東京大激突!」の回からで、この回を見たときの興奮は忘れないものがある。見た瞬間、「何もかもが、段違いに違う」才能のキラメキを感じさせてくれる。その回を見たあと、これ以前に作られた劇場作品が、細田監督の手によるものであることを知ると、速攻レンタルで借り鑑賞。20分という短編にも関わらず、その雰囲気、出来栄えは、そこらのエセ映画とは比べ物にならないほどに「映画」として完成されていた。この99年当時ほとんどといって良いほど、細田守という監督とこの「デジモン劇場版」第一作に関する情報がなく、その素性の知れなさ「いったい何故どうしてこんな作品が、無名の監督に作れてしまったんだ」と興奮しまくった。

そして次の年の「デジモン劇場第2作」が再び細田監督の手によって作られることを、知るともう嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。で、「東映アニメフェア」に二十も後半過ぎた大人が「絶対に面白いから」と友人を引き連れて、劇場に赴いてしまったわけである。ニ作目はとにかく「面白い」の一言に尽きる。一作目が、20分でドラマらしいドラマがなく、ビジュアルイメージや技術的な側面に惚々れするどこか実験的作品なのに対し、2作目は、ちゃんとしたキャラがいて、物語があり、地に足のついたエンターテイメントに仕上がっている。無論それだけではなく、後にビデオで繰り返し鑑賞してみると、その構成、演出等、全く、隙や無駄がない、ほぼ完璧なつくりであることがわかる。これは、宮崎駿監督や庵野秀明監督の作品にも通じることで、こういった作品は、何度見ても飽きがこず、見返すたびに新たな発見がある。これがまだ監督2作目であることを考えると、その才能の高さを実感する共に、今後、彼の動向に注視したくなるのは、事の道理というものでは、なかろうか。

「デジモン」を知らない、という人は、とりあえずこの劇場ニ作品だけでも見ることを強くお勧めする。そして「細田守」この名前を覚えていて損はないはず。将来、大物になる予感がひしひしとするのだ。

未来のオタクの為に

さて、少し話は変わるが、「劇デジモン」DVDの発売にあわせる形で「DIGIMON MOVIE BOOK」集英社/本体¥1429/ISBN4-08-779095-9)が発売された。デジモンのファンブックはこれ以前にも何冊か発売されているが、今回の本はかなり特別だ。表紙が太一らキャラクターではなく、デジモンの舞台の一つとなる光が丘団地の実景写真、の上に小さいデジモンのシルエットが並んでいるというもの。一見してデジモンの本とは、わからない。

内容は「劇デジアド」の一作目とニ作目の解説本といったところなのだが、その内容の濃さに驚かされる。

カラーページでは、各シーンを追いながら、演出意図の解説をかなり詳しく書き(専門用語ももちろんありあり)、CGやデジタルを使った製作工程も解説されている。モノクロページでは、設定資料(キャラデザイン・作画監督の中鶴勝祥氏、山下高明氏のコメント付)、細田守監督のロングインタビュー、その他美術、脚本家のなどの主要スタッフのコメントとプロフィールなど盛りだくさん。ある意味子供向け作品であるにも関わらず子供を無視した作りであることは、一切ふり仮名をふられていないことからも、想像できる。

こういう本は例えば、最近では「人狼」や「BLOOD」など大人向けのマニアックな作品では、必ず出版されるが、子供向け作品では、あまり作られることはない。しかし、こういった本は10年くらい前は意外と当たり前だったような気がする。

中学生当時私が「ナウシカ」や「ラピュタ」で宮崎駿監督に傾倒し始めた頃、徳間書店から「ロマンアルバム」というファンブックが発売されていた。この本が「DIGIMON MOVIE BOOK」とちょうど似たようなつくりになっていた。(というよりこっちが「ロマンアルバム」を手本にしているのだろうけど)

こういった形式の本を読むことで私自身、アニメの製作過程を知ると共に作り手がどのように作品にかかわっているか、立体的に感じ取れることができたし、作品を違った視点で楽しむことを覚えたと思う。

そう考えると、この「DIGIMON MOVIE BOOK」は、マニアな成人向けと取ることもできるが、個々の作品ではなく「アニメ」自体に興味を持ち始めた、小学5,6年生や中学生にとって非常によいテキストになるのではないかと見ることができる。そして細田監督の作品は非常に細かいところまで、気を配って作りこまれており、テキストとする上でも、最良の素材といえる。この本を手に取った、若人が、次世代を担うクリエーターになるか、はたまた、私のようなオタクになるか、それはわからないが、そのきっかけを与えてくれるのではないかと期待してしまう。


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