第十回

アニメ映画の光と影

2002.2.21 up

近年製作されている劇場用アニメ作品には、大まかにいって二種類のものに分類できる。

それは、「ファンの見る劇場アニメ」と「マニアの見る劇場アニメ」である。

前者の「ファンの見る劇場アニメ」とは、最初からその作品の原作となる漫画やTVゲーム、TVアニメシリーズのファン層をターゲットとして作られたいわゆる「劇場版」のことである。2001年を例に挙げるなら「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」「「ポケットモンスター」などの恒例化しているファミリー向け作品から「カウボーイビバップ」「サクラ大戦、他3本」などオタク層の人気作品を劇場化したもの、また「バンパイアハンターD」「メトロポリス」なども原作の人気、知名度を前提として製作されている作品も含む。純粋なオリジナル作品の「千と千尋の神隠し」も宮崎駿とスタジオジブリの知名度と人気でファンを呼べる為にこちらに分類される。

これらの作品は、劇場作品が作られる以前から何らかの形でファン=顧客をある程度、獲得している。興行成績も他の実写作品を押さえて上位に食い込む、いわばメジャーな作品である。

さてこれらの作品の対極となるのが後者の「マニアの見る劇場アニメ」である。

その好例というか最たる例が2001年に公開された片渕須直監督の「アリーテ姫」だろう。

原作は、あまり名を知られていない児童文学。監督も過去に大きな実績を残したことのない無名の人間、内容も地味、制作会社がスタジオ4℃という「AKIRA」などで大友克洋と縁の深い所というぐらいで、ともかくセールスポイントに欠ける作品である。ほぼ都内の単館上映で現在も地方を巡業するといった形で上映されているらしい。ほとんどプロモーションらしいプロモーションをやっていないこの作品は、よほどの意思と理由がなければ見に行かないだろう。わたし自身、「名犬ラッシー」をはじめとする片渕監督のTV作品での仕事を見て、強い関心と期待を抱いていなければ見にはいかなかったかもしれない。

最近になってDVDが発売された佐藤順一監督の「ユンカース・カム・ヒア」もそんな作品のひとつであろう。佐藤順一といえば「セーラームーン」の第一期の監督であり、その他「魔法使いTai!」「夢のくれよん王国「おジャ魔女どれみ」などアニメファンから子供まで多くの支持を集める作品を手がけたいわばヒットメーカーである。そんな彼の作品であるにも関わらず、何時の間にか作られ気付いたら公開され、存在を知った時には、既に見ることが困難な作品となってしまっていた。最近になってようやくDVD化もされ、見ることが出来たが、地味ながら「映画」として充分な質と内容を備えた作品で関心した。

中村隆太郎監督の「グスコーブドリの伝記」森本晃司監督の「とべ!くじらのピーク」、なかむらたかし監督の「とつぜん!猫の国 バニパルウィット」など、新作アニメを注意深くチェックしているにも関わらず、後々になってその存在に気付く作品も少なくない。

これらの作品は、詳しい事情に関して正確なところは調べていないが、商業向けの興行作品ではなく、教育、文化事業を目的に上映されることを前提として制作されているようで、商業アニメ雑誌ではほとんど記事にもなっていない。

しかし、これらの作品は、制作に携わっているスタッフを知れば、現在一見の価値があるのではないかと思う。

押井守原作脚本・沖浦啓之監督「人狼」、北久保弘之監督の「BLOOD」も前出の作品に比べればまだ知られている部類ではあるが、一部のアニメファンや映画ファンの間のみ知名度が高いに過ぎない。今敏監督の「パーフェクトブルー」にしても同様で、押井守や大友克洋といった世界市場で既に名の通った監督が製作に協力していることが例え公開館数が少なくともプロモーション効果として成立している分まだましといえるかもしれない。

これらの作品は、人気漫画や見た目のキャラに頼らない児童文学的要素を意識した作品や、場合によっては世界市場を睨んだ、一般向けのエンターティメントであるにも関わらず、上映形態や公開館数、あるいは宣伝、プロモーション不足などの問題からほとんど知られることなく、ひっそりと歴史に埋もれている。

本来対象であるはずの普通のお客に見てもらうこともなく、一部のマニアにしか知られていない。こんな状況で本当にいいのだろうか?

この度、「千と千尋の神隠し」がベルリン映画祭で金熊賞を受賞したさい、インタビュアーの「日本アニメが世界に認められたか?」という内容の質問に対し、宮崎駿監督は「今の日本のアニメはどん底」「自分の作品が映画として扱われた」というような答えをした。

自尊、自信あるいは現状に対する危機意識、若い世代への叱咤激励から来る発言かもしれない。しかし正直この言葉に私は「その「どん底」で頑張って、いいもの作ってる人もいるのに」と憤りを感じてしまう。

確かに宮崎駿、ジブリの作品は質、内容共に高水準で、ヒットするのも頷ける。そして上記に挙げてきた作品たちが、ジブリの作品に対抗する内容や大衆性、普遍性を持ちうるかといえば、言葉を濁さねばならないかもしれない。

それでも私は、ジブリの一人勝ち状態を覆すような作品が登場して欲しいし、また今よりももっと広く一般的にアニメーション映画が楽しめる作品と環境が生まれることを望んでやまない。

そんな中、今年も、期待すべき作品は待ち構えている。

2002年春公開が決まっているなかむらたかし監督「パルムの樹」、また今敏監督「千年女優」も控えている。ドラえもんの短編を作っている渡辺歩監督も、クレヨンしんちゃんの原恵一監督も原作・ファミリーものという枠の中で、年を追うごとに成熟した「映画」を確立いている。

「今のアニメはつまらない」と嘆きたくなる気持ちは自分にもある。が、「どん底」というほど悲観もしていない。

捜せばいいアニメは確実に存在するのだから。


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