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5.



 少女がハッと何かに気付いたように、進弥の腕を掴んで揺すった。
「ねぇ! さっきのメール、続きがあったんじゃないの?」
 言われてみればそんな気がしてきた。少女に覗かれて慌てて閉じたので、ろくに確認していない。
 進弥は先ほどのメールを、もう一度開いた。よく見ると横にスクロールバーが出ている。やはり続きがあったのだ。
 親指でスクロールさせると、大量の空白行の後、文字が現れた。


―― ごめん。帰ってきて。 ――


「やっぱり! 彼女が謝ってるのに、あんた無視しちゃったのよ」
 再び進弥の隣に座った少女が、当たり前のように手元を覗き込みながら、進弥の腕をバシバシ叩く。
「おまえが覗くから、よく見れなかったんじゃないか」
 ムッとして反論するも、少女はお構いなしに促す。
「いいから早く連絡しなさいよ」
 なんでおまえが仕切るんだと思いつつも、進弥は真純の番号を呼び出して発信した。
 固唾を飲んで見つめる少女を横目に応答を待つ。繋がった途端メッセージが流れた。
「え、なんで?」
 進弥は一度電話を切り、もう一度かけ直す。ところが、繋がった途端、またメッセージが流れた。
「繋がらない……」
 電話を握りしめて呆然とつぶやく進弥に、少女が呆れたように言う。
「もう。無視するから怒ったんじゃないの?」
 それなら、まだいい。
 進弥の胸に不安が広がっていく。
「オレ、帰らなきゃ」
 進弥が立ち上がると、少女も立ち上がった。
「うん。あたしも帰る」
 一緒に土手を降りて、コンビニの前で少女と別れた。反対方向に歩いていく少女を、少しの間見送った後、それに背を向け進弥は駆け出した。
 自分の態度に怒って電源を切っているだけなら、まだいい。
 だが、以前のように誰かに連れ去られて、連絡の出来ない状態にあるのだとしたら――。
 そうでない事を祈りつつも、胸の不安はどんどん膨らんでいった。



 家にたどり着き玄関の扉を開けると、一階の灯りは消えていた。家を出る時からそうだったので、それは問題ない。
 真純は二階に上がろうとしていた。自分の部屋にいるのかもしれない。
 進弥は二階に上がり、真純の部屋の扉をノックした。返事はない。怒っているなら当然な気もする。
 ゆっくりとノブを回してみる。すると、あっさり回った。中に真純がいるなら、鍵が掛かっていると思っていた。
 不安と共に、胸の鼓動が激しくなってくる。
「真純さん……」
 声をかけながら、恐る恐る扉を開く。中を覗くと灯りは消えていた。一通り見回して、ドクリと鼓動が跳ねた。
 ベッドは平らなままで、眠っているようには見えない。つまりここにはいない? 
 壁のスイッチを探り、思い切って灯りを点けてみる。
 部屋のどこにも真純の姿はなかった。
 進弥はすぐに、階段を駆け下りた。二階には他に、進弥の部屋しかない。家の中にいるとしたら、一階のどこかだ。
 トイレも風呂も灯りは点いていない。入浴中とかではないようだ。一階の灯りを次々に点けながら確認していく。
 リビング、キッチン、ダイニング、真純の仕事部屋、テラス、どこにも真純の姿はない。テラスを出て庭を見渡したが、そこにも真純はいなかった。
 もう一度電話してみるが、やはり不通のままだった。
 進弥は力なくテラスにしゃがみ込む。真純はいったいどこへ――。
 すっかり無縁になったと思っていた、半年前の悪夢が進弥の脳裏に蘇った。




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