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プロローグ |
今日のオレはとんでもなくついてない。 休みだというのに、ほとんどやったことないというのに、部長のお供で接待ゴルフに駆り出されたのが不運の始まり。 打ちっ放しに何度か連れて行かれ、さんざん空振りしたりあさっての方に飛ばしたりで、才能がないことはわかってたはずなのに、なぜかメンバーになっていた。 テレビゲームのゴルフは得意だが、当然ながらゲームのように風向きやグリーンの傾斜などがわかりやすく目に見えているわけではない。 ゲームのおかげで専門用語などはある程度わかってはいるが、コースに出たのも初めてで、初っぱなから+5打とかありえないほど大叩きして失笑を買う始末。 接待相手の取引先社長が、ニコニコしながらオレの肩をたたいた。 「 「はぁ、すみません。私だけ満喫してるみたいで」 乾いた笑いしか出てこねーし。 接待だから相手に花を持たせるためにオレのようなへっぽこをメンバーにしたのかもしれない。社長は上機嫌だから、そういう意味じゃ大成功だろう。 オレはわずか2ホール目ですでに帰りたくなっていた。 天気はあまりよくない。風はないが、どんよりとした空に時々遠雷が轟いている。いっそ雨が降ってくれてたら、中止になったんだろうに。 もうスコアなんかどうでもいいから、さっさと終わらせて帰りたい。 やけくそでドライバーをフルスイングした瞬間、後ろからおっさんキャディーが駆け出して、ファーッと叫んだ幻を見たような気がした。 オレの打ったボールはコースの真ん中に生えた木に見事にヒット。しかも落ちた場所が木の根元で、そこからグリーンをねらうのはプロでも無理だろう。 ため息をつきながら、ボールを追って木のそばまで行ったとき、ポツポツと雨が降り始めた。 お、ラッキー。もうやめるかな? 希望的観測でちょっとうきうきしていると、はるか向こうから部長が呼んだ。 「椎名、一旦引き上げるぞ」 「はい」 山の天気は本当に変わりやすい。雨はあっと言う間に本降りになった。雷の音も大きくなってくる。 やった。帰れる。慌てて駆け出そうとしたとき、突然の轟音と共に全身を衝撃が貫いた。視界が真っ白にスパークする。 やっぱりついてない。 ――つまんない人生だったなぁ オレは自分の命が尽きたことを悟った。 |
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