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8.地下の光




 駆け下りた階段の終わりにはトゥーシャの背丈の半分くらいしかない小さな扉があった。
 扉を見てエトゥーリオが言う。
「ルーイドサイズだな」
 エトゥーリオが言うようにルーイドは小さな老人だった。トゥーシャもニコニコしながら扉を調べる。
「なんかキーアイテムが手に入りそうな予感。よし、何も仕掛けはないし入るぞ」
 扉を開けると二人は身を屈めながら部屋の中に入った。部屋の中は窓も灯りもなく真っ暗である。
 トゥーシャが光の球を前方へ向けた時、少し先の闇の中に人影が見えた。
 驚いたトゥーシャは二、三歩後ずさりした後、そちらへ光の球を向けながら身構えた。
「だ、誰だ!」
 後ろからエトゥーリオがトゥーシャの視線の先を少し注視した後、彼の肩をポンと叩いてニヤリと笑った。
「貴様だ。よく見ろ」
「へ?」
 トゥーシャは呆けたようにエトゥーリオを見た後、再び前方に目を向けた。光の球を近づけて二、三歩前に出ると、そこには緊張した表情で見つめる自分の姿があった。
 トゥーシャはホッとしたように息をついた。
「なんだ、鏡か。なんで部屋の真ん中に……」
「さぁな。貴様の言うキーアイテムじゃないのか?」
 エトゥーリオはそう言いながら、鏡に歩み寄った。鏡面を覗き込み、手を触れようとした瞬間、鏡が眩しい光を放った。
 エトゥーリオは慌てて手を引っ込めると一歩退いた。鏡の放つ光で部屋の中がぼんやりと明るくなった。思ってた以上に天井が低く狭い部屋には、鏡の他に何もない。
 やがて鏡の発する光は徐々に輝きを弱め、鏡面に小さな老人の姿を映し出した。その姿に驚いて言葉を失ったエトゥーリオに、鏡の中の老人は微笑みかけた。
「やはり来おったか、バカ者め」
 あまりの驚きに、エトゥーリオは少しの間硬直した後、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「……ルーイド……? 死んだんじゃなかったのか……?」
「ルーイド様?」
 トゥーシャも驚いて鏡に歩み寄る。
 二人を見つめる鏡の中のルーイドは更に目を細めた。
「確かに身体の方は死んだがな。シルタが気がかりじゃったし、おまえが来る事はわかっておったでな。魂だけここで眠っておったのじゃ。おまえの魔力の波動を感知して、目覚める仕掛けにしておいた」
 エトゥーリオは腕を組んで不愉快そうに横を向いた。
「勝手に人を目覚まし時計がわりにするな。早い話が地縛霊か。迷ってないでさっさと成仏しろ」
 ルーイドはエトゥーリオの言葉は無視して、懐かしそうに笑顔を向ける。
「それにしても、大きくなったなぁ、エト」
「気安く呼ぶな! あれから三百年以上経ってるんだぞ。大人になってて当然じゃないか!」
 すっかりルーイドのペースに巻き込まれて調子を狂わせているエトゥーリオが珍しく、そしておもしろかったのでトゥーシャは思わずクスリと笑った。
 しかし、エトゥーリオの言葉によれば、トムは一刻を争うという。二人の漫才をいつまでも見ているわけにはいかないので、ルーイドに問いかけた。
「ルーイド様、シルタ姫は何者なんですか? エトゥーリオが言うには古い呪いをかけられているらしいです。ぼくらは何をすればいいんですか?」
 ルーイドは穏やかに微笑むとトゥーシャに言う。
「トシ、おまえは何もせんでよい。ただ、シルタのために祈ってやっておくれ」
「へ?」
 トゥーシャは意味がわからず眉をひそめる。
 ルーイドはトゥーシャとエトゥーリオを見つめた後、ゆっくりと話し始めた。
「あの子は、かわいそうな子なんじゃ。あの子自身には何の罪もない。少し長くなるがいいかの?」
 断りを入れるルーイドにトゥーシャは申し訳なさそうに注文をつける。
「できるだけ手短にお願いします。仲間が姫に拘束されてるんです」
「おや、おまえたちだけではなかったのか。じゃあ、かいつまんで話すかの」
 ルーイドは驚いたようにトゥーシャを見つめた後、先ほどよりは幾分早い口調でシルタ姫の生い立ちを語り始めた。




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