おおっ、ビール、汝病めり!

 メーカーのホームページ等を見ていると、「スモーキーバブルス」もしくは「フロスティミスト」なる聞きなれない言葉が出てくる。

 これはサーバーでビールを注いだ時にできる、泡のすぐ下の、液体との境目のところに、もやがかかったように細かい泡がよどんでいる状態のものを指す。そして、メーカーの説明では、これが「旨い生ビール」の条件のようなことが書かれている。

 とんでもない。

 これこそが日本中に誤った生ビール観を定着せさた、「病めるビール」の姿そのものなのだ。

 

 まず、この「スモーキーバブルス(フロスティミスト)」の正体について説明しよう。

 繰り返しになるが、メーカーではサーバーでビールを注ぐ際、最初にジョッキを傾けて液体のみを泡を立てないように注ぎ、後から泡のせ機能で泡だけを足すやり方を奨励している。

 このため、液体の部分にはまだ大量の炭酸が含まれており、これが気化しようと上にあがってくるものの、後からのせられた泡によって押さえられてよどんでいる状態、これが「スモーキーバブルス(フロスティミスト)」の正体だ。

 メーカーによれば、この層があることによって、「飲むたびに泡を再生し、泡持ちを良くしてくれる。泡持ちが良ければそれだけおいしさが持続する」とのこと。

 

 冗談じゃない。上手に注いでしっかりしたキメの細かい泡を立てれば、そんなスモーキーバブルス層なぞなくても、ビールを飲干すまでの間、泡はきちんと残っている。つまりは、泡が再生される必要などまったくないのだ。

 にもかかわらず、こんなものが奨励されているのは、飲めもしない大ジョッキをわざわざ頼んで、20分も30分も時間をかけて飲んでいる客が多いから、そのニーズに合わせたということがあるだろう。

 

 しかし、もう一つの大きな理由は、サーバーを使いこなして、きめ細かい泡の美味しいビールを注ぐことが技術的に難しい、ということがあるのだろう。

 「後から泡のせ方式」ならば、それこそ2〜3回も練習すればアルバイトでも簡単に液体と泡の比率が7対3のビールが注げる。ただし、サーバーの泡のせ機能を使った泡は、確かに一見きめ細かそうに見えるが、この泡のきめ細かさは見てくれだけで、実際には長持ちしにくい。だからわざわざ液体部分に大量の炭酸を封じ込め、泡を後から再生させてやらなければならなかったのである。

 

 しかし、こういうビールは、大量に炭酸が含まれているので、ピリピリと喉越しが悪いうえに、苦味が残っていて味が重い。

 だから、これをごまかすために温度をできるだけ低くし、ジョッキも霜がつくほどキンキンに冷やすのだ(こうするとますますキレイな泡がつくりにくくなるので、泡のせ機能に頼らざるを得なくなる。悪循環だ!)。

 しかも絶望的なのは、こういう状況に合わせて、メーカーは味の薄いビールばかりを供給してきたことだ。ここ数年の新製品ビールは「スッキリ」というキャッチコピーがウリの薄味ビールばかりが主流だった。

 また、こういう炭酸が多く含まれたビールは、味が悪いだけではなく、胃の中で大量の炭酸ガスを発生させ、すぐに腹を膨らせてしまう。試みにどの位過剰な炭酸が含まれているか、来たビールをマドラーか箸で軽く混ぜてみてほしい。ちょっと混ぜただけで、ジョッキから泡と液体が大量にあふれ出てしまうはずだ。そして、これが胃の中で起きているのである。

 

 こういうビールなのだから、前項でも書いたとおり、ちょっと喉の渇きが癒えてくると、美味しいと感じられなくなってくるのは当然と言える。

 だからこそ、次のような台詞があたかも通説のであるかのようにまかり通ってきたのである。

 「ビールでうまいのは最初の一杯だけだよ

 

 おおっ、ビール、汝病めり!

 

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