ビールの味は泡が決める
ビールの泡が空気と触れないための蓋の役割を果たしていることは良く知られていると思う。それ故きめ細かい泡が求められるということも。しかし、実はそれだけではないのである。泡の立て方、つまりは注ぎ方によってビールの味は変わってくるのだ。
上手に注がれたビールは泡が長持ちし、液体を飲み干した後、グラスに泡だけが残る。ところでこの泡のみを口に入れると意外にも苦みが強いことに気づかされる。ビールの苦味は泡に集まるのだ(ホップの苦味成分であるイソフムロンが麦のタンパク質と結びついて泡を形成するため)。つまり泡を立てれば苦味が抜け、逆に泡を立てないと苦味が抜けないということになる。
注ぎ方がうまいビールはきめ細かい泡を立たせることによって、適度に炭酸を抜くと同時に苦味も消し、腹も膨れずすっきりした味のビールになる。
一方泡を立てないでゆるゆると注ぐと、炭酸は逃げないし泡も立たないから、腹もすぐに膨れるし苦味も残る重い味のビールになる。
そういう意味では泡の立ちにくい小さいコップ(何故か洒落た料理屋とかでよく出てくる)というのは、最初から美味しいビールを飲むのに適していないということになる。また、ビールの注ぎ足しがいけない理由の一つにもこの「泡が立たない」ということがある。
ということで、せっかくのビールサーバーを使って生ビールを注いでも、注ぎ方が悪ければ美味しいビールにはならないのである。
今のビールサーバーには、レバーを手前に倒すと普通にビールが出て、奥に倒すと泡だけが出るという機能がある。
それは以下のような注ぎ方をするためであり、現実にそういう注ぎ方をしている店はたくさんある。
「ジョッキを傾け、内側をビールが伝わるように泡を立てないように静かに注ぐ。7分目まで注いだら最後レバーを奥に倒して泡だけを乗せ、理想の7対3ビール出来上がり。」
もちろんこういうビールは泡を立てていないから腹はすぐに膨れるし、味も苦味が抜けてないから重い。それをごまかすためにビールもジョッキもキンキンに冷やして供する……。
「ビールでうまいのは最初の一杯だけ」という間違った風聞はこうして作られてきたと言っていい。
ところでこのビールサーバーという仰々しい装置、いったい何のためにあるのか。それは次項にて。