サッポロが2009年の7月から飲食店向けに業務用販売をしてきたヱビスの「スタウト」を限定でこの8月に缶でも発売した。
スタウトと銘打ってはいても、キリンの「一番搾りスタウト」同様に下面醗酵のビールである。
一般的にはスタウトというのは上面発酵のエールの一種であって、サッポロやキリンの「スタウト」はシュバルツに分類される黒ビールである。
この辺の名称に関しては、以前にまとめたのでそちらをご参照いただきたい。
ところで、「ヱビス スタウト」がただの黒ビールだとすると、既に「ヱビス・ザ・ブラック」という黒ビールのブランドがあるのに、なんでわざわざこんなものを作ったのか、と疑問を持つ人も多いのではないだろうか。
実はこのビールが発売された2009年というのは、サッポロが1964年から契約を結んでいた「ギネス」のディアジオ社から販売契約を打ち切られた年なのである。それが5月末のこと。6月には「ギネス」は新たに契約を結んだキリンから販売されるようになっている。
つまり、サッポロは「ギネススタウト」という売れ筋の商品を失ってしまい、それに代わる商品が必要だったのである。
サッポロは上面発酵ビールを作っていなかったからノウハウも施設もない。それに2007年にはキリンが「一番搾りスタウト」を発売し、「公正競争規約にはスタウトの発酵法は規定されていない」ということを開き直っている。
そこで、サッポロの作った「ギネススタウトもどき」がこの「ヱビス スタウト」だと言えよう。ギネススタウトの穴埋めだから、どうしても「スタウト」の名称が使用したかったのだと思われる。「クリーミートップ」と称して窒素ガスを使ったきめ細かい泡を売り物にしているが、この窒素ガスを用いるのもギネススタウトがオリジナルなのだ。
ここ最近はアサヒのドライブラックの好調もあって、黒の売れ行きが伸びている。そこで、サッポロでもヱビス「スタウト」の缶発売に踏み切ったということなのだろうか。
と、ここまで書いてきてわかるように、このビールには「志」とか「哲学」というものがまるで感じられない。あるのは「商売っ気」のみである。
コンビニでの小売価格は240円。通常のヱビスは249円。ちなみにアサヒのドライブラックは217円。
通常のヱビスよりも価格が抑えられているのは容量が320mlと少な目だからだ。これはサントリーがプレモルで実施したアイディアである。やれやれ。
麦芽100%でアルコール分は5度。
飲んでみると美味しい。ヱビスの黒の味だ。確かに泡はきめ細かいが、それ以外、ヱビス・ザ・ブラックと何が違うの? と突っ込みたくなる。
一番搾りスタウトやこのヱビススタウトを飲んで、「これがスタウトの味か」と思う人がいたら不幸な話である。一度キリンやアサヒや地ビールメーカーの作っている上面発酵本格スタウトを飲んでみてほしい。別次元の味が堪能できるとともに、一番搾りやヱビスの黒ビールに「スタウト」という名称を用いることの不自然さがわかるはずである。