読者からの質問と回答 01041 〜 01050

M さんからの質問 #01050

距離空間 (C([a, b]), d_∞) が完備であることの証明を教えて下さい.

(C([a, b]), d_∞) は完備な距離空間であることを示してください. 証明の仕方が分かりません.

お答えします:

まず最初に,次の4点を確認にしておく必要があります.
C([a, b]) はどんな集合か.
距離関数 d_∞ の定義.
距離空間が完備であることの定義.
通常の距離を持つ実数空間 R は完備であること.

以上が確認できた所で証明の方針を示したいと思います.
距離空間 (C([a, b]), d_∞) の任意のコーシー点列 {f_n} をとる. この距離空間は閉区間 [a, b] 上の実数値連続関数全体からなる距離空間だから, コーシー点列は [a, b] 上の実数値連続関数の列であることに注意.
次の順で,{f_n} が (C([a, b]), d_∞) の点に収束することを示せばよい.

(1) 各点 x ∈ [a, b] に対して,実数列 {f_n(x)} は実数空間 R 上のコーシー点列であることを示す.
(2) R は完備だから,{f_n(x)} はある実数 a_x に収束する. このような a_x を,それぞれ,すべての点 x ∈ [a, b] についてとる.
(3) [a, b] 上の実数値関数 f を f(x) = a_x で定義する.
(4) (3) で定義した f が連続であることを示す.これが示されれば,f ∈ C([a, b]).
(5) 距離 d_∞ に関して,{f_n} が f に収束することを示す.

上の (1)−(5) の中で証明すべき箇所は (1), (3), (5) です.是非,トライしてみて下さい.
なお.参考書:松坂和夫著『集合・位相入門』岩波書店の第 6 章,定理 15 と定理 16 にも詳しい証明があります.
うまく証明できることを祈っています.


M.N.さんからの質問 #01049

同相なコンパクト化は同値なコンパクト化ですか?

αX, γX を X のコンパクト化とします.
連続写像 f:αX → γX で X 上では恒等写像になるものがあるとき, αX ≧ γX と定めて X のコンパクト化の間の半順序を定義する.
αX ≧ γX かつ αX ≦ γX のとき、αX と γX は同値であるいう.

疑問に思うことは以下です.
T_2 コンパクト化に限定して考えるとき, αX と γX が同値であれば αX と γX は同相になることはわかります. 特に,極大コンパクト化は同相の意味で一意に定まることもわかります.
ただ,上記の逆は成り立つかがよくわかりません.
つまり,αX と γX が同相ならば同値か?です.

お答えします:

これは上級編の問題ですね.
答は,同相であっても同値であるとは限りません.
以下,R は通常の位相を持つ実数直線,N は正整数の集合, βX は X の Cech-Stone コンパクト化を表します.

S = R - N,
X = (R - N) - {0}
とおくと,S と X は同相なので,βS と βX は同相.
X は S で稠密だから,βS は X のコンパクト化である.
いま X 上の任意の有界実数値連続関数は βX 上へ連続拡張できる.
ところが,X 上の有界実数値連続関数で S 上へ(したがって,βS 上へ)連続拡張できないものが存在する.
ゆえに,βS とβX は同値ではない.

この例は,下記のテキストの Problem 6C(p.93)に載っています.
L. Gillman and M. Jerison, Rings of Continuous Functions, van Nostrand, Princeton, 1960.


T.I.さんからの質問 #01048

質問 #01047 の続き:
完備で点列コンパクトでなければ,無限大に発散する点列が存在しますか?

ご回答ありがとうございました.
空間 A が完備とすると,点列が収束しない場合,
○ 振動している,
○ 無限大に発散,
がありますが,振動している場合は部分列をとると収束するので, 無限大に発散していると考えてよいですか.

お答えします:

もし「振動」や「無限大に発散」について議論する場合は,それ以前に,これらの用語を定義しておく必要があります. いま,直径が無限大である(=有界でない)点列を「無限大に発散する点列」とよぶことにすると, 完備で非点列コンパクトであっても,そのような点列が存在するとは限りません.
例えば,無限集合 A に離散距離関数 d を定義します.すなわち,
x = y のとき,d(x, y) = 0,
x ≠ y のとき,d(x, y) = 1.
このとき,距離空間 (A, d) は完備ですが,点列コンパクトではありません. したがって,発散する(=収束しない)点列が存在しますが, この距離空間の直径は 1 なので,上の意味で無限大に発散する点列は存在しません.


T.I.さんからの質問 #01047

点列コンパクトでなければ,発散する点列が存在しますか?

点列コンパクトの定義は,
「任意の点列 {x_n} には必ず A の点に収束する部分列が存在する」
ですが,非点列コンパクトの場合は,つまり上記の定義を否定すると,発散する点列が存在する結果になりますか?
教えてください.

お答えします:

はじめに,収束しない点列を発散する点列とよぶことに注意します.
空間 A が点列コンパクトであることの定義を厳密に言うと:
「A の任意の点列 {x_n} には必ず A の点に収束する部分列が存在する.」
です. これを否定すると:
「A には,A の点に収束する部分列を含まないような点列 {x_n} が存在する.」
このとき,{x_n} は A の点に収束しません. なぜなら,もし {x_n} が A の点に収束すれば,{x_n} 自身が A の点に収束するような {x_n} の部分列になってしまうからです. ゆえに,{x_n} は A の発散する点列です.
以上によって,A が非点列コンパクトならば,A には発散する点列が存在します.

最後に,1つ問題を出しましょう.
開区間 A = (0, 1) を通常の距離を持つ実数直線 R の部分空間と考えます. このとき,A は点列コンパクトではありません. したがって,A には発散する点列が存在します. その例を挙げて下さい.

2017/3/8 改


K.M.さんからの質問 #01046

質問 #01045 の続き:
実数全体 R の co-finite 位相に関する性質について教えて下さい.

ご回答有り難うございます.
実数体 R にこの位相 T を与えた新たな位相空間ということですね.
問題 II は「R の各部分集合が T のもとでコンパクトである」
という意味だったのですね.

実際、∀A ⊂ R をとると, v (i) A = φ の時は,明らかに A は T のもとでコンパクトですね.
(ii) φ ≠ A : finite の時も明らかに A は T のもとでコンパクトですね.
(iii) A : infinite の時は ???
どのように A が T のもとでコンパクトであることを示せるのでしょうか?
A : infinite だからといっても A^c は finite になるとは限りませんよね・・・

問題 III も T のもとで Hausdorff 空間かどうかを問うているのですね.
実際,
∃U_x, U_y ∈ T such that x ∈ U_x, y ∈ U_y and U_x ∩ U_y = φ だと仮定してみると,
"a nonempty subuset O of R is in T if and only if O^c,the complement of O, is a finite set."
という定義から,(U_x)^c, (U_y)^c: finite.
U_x ∩ U_y = φ と補集合の定義から,U_x ⊂ (U_y)^c だから,当然 U_x も finite でなければないない.
しかし,(U_x)^c : finite であったので,R = U_x ∪ (U_x)^c は finite となってしまい, R : infinite に矛盾する. ゆえに,
x ∈ U_x, y ∈ U_y かつ U_x ∩ U_y = φ なる U_x, U_y ∈ T は存在しないので,R は Hausdorff でない.
ですね.

お答えします:

K.M.さんの考え方,その通りです.
問題 II について:
A の開被覆 B に属する開集合 U ∈ B を任意に1つ選びます. このとき,位相 T の定義から U^c は有限です. すなわち,U によって A の有限点を除く部分が覆われることになります. 覆われていない有限点は B の有限個の元で覆うことができるのではないでしょうか. 以上で,B の有限部分被覆が存在することになります.

問題 III の証明,パーフェクトだと思います.
今後の一層のご発展を祈っています.


K.M.さんからの質問 #01045

実数全体 R の co-finite 位相に関する性質について教えて下さい.

Define a topology, T, on the set of real numbers, R, as follows: T contains the empty set,φ, and a nonempty subuset O of R is in T if and only if O^c, the complement of O, is a finite set. Which of the following statements is/are true about R with this topology?
I. Every infinite subset of R is closed.
II. Every bubset of R is compact.
III. R is Hausdorff.

という問題で答えは II only になっています.

"a nonempty subuset O of R is in T if and only if O^c,the complement of O, is a finite set.'' にしたがうと I が偽だということは分かりました.

II については:
反例を挙げると開区間 (0,1) が非コンパクトですよね. なぜなら,(0, 1) の開被覆
{(x/2, 2x) : 0 < x < 1/2}
から如何なる有限個の開集合を選んでも (0,1) を覆えない. ゆえに,II は偽.

IIIについては:
R ∋ ∀ x, y : distinct をとると,x < y の時 ∃c ∈ (x, y)(実数の連続性).よって,
U_x: = (x - 1, c), U_y: = (c, y + 1) 
というふうに近傍がとれるので R は Hausdorff 空間. ゆえに,III は真だと思うのですが・・・.

勘違いしてますでしょうか?

お答えします:

この問題の位相 T は,co-finite 位相と呼ばれます.
コンパクトと Hausdorff の理解はよいのですが,問題の意味の解釈に勘違いがあります.
上の問題文では,次のようにきいています.
「次のどの主張が,この位相を持つ R に関して正しいか?」
この位相とは,最初に定義した位相 T のことです.
上の主張 I, II, III の中の R は位相 T を持つ R,すなわち, 位相空間 (R, T) のことです.
通常のユークリッドの位相を持つ R ではないことに注意して下さい. それでは,K.M.さんの解答のどこが間違っているかを調べてみましょう.

開区間 (x/2, 2x) は位相空間 (R, T) の開集合ではありません. (R, T) の開集合は,空集合と,補集合が有限集合であるような集合だけです. したがって,{(x/2, 2x) : 0 < x < 1/2} は位相空間 (R, T) における集合 (0,1) の 開被覆であるとは言えません. すなわち,K.M.さんが証明されたことは,(0,1) がユークリッドの位相に関してコンパクトでないということであって,位相 T に関する反例にはなっていません.

同様に III について, U_x: = (x - 1, c), U_y: = (c, y + 1) は位相空間 (R, T) の開集合ではないので, これは (R, T) が Hausdorff 空間であることの証明にはなっていません. 開区間はユークリッドの位相に関しては開集合であるが, 位相 T に関しては開集合ではないということに注意をして,再考してみて下さい.

なお, 『解いてみよう位相空間』 の問題 8.7, 8.21, 11.12 が参考になると思います.


J さんからの質問 #01044

定義は分かるのですが,問題が解けません.

位相だけにとどまらないことなのですが数学に詳しい方と接点がないのでここで質問させてください.
微積分などでも,例えば二重積分の定義は分かるのですがそれに関する問題を出されると まったく答えることができません. 数学は小平先生も指摘されているように定義,定理の証明を追っていくことでしか理解できないと言われていますが,素人としては定義と問題には大きな差があるように思えます. このあたりをどのようにお考えでしょうか.

お答えします:

小平先生の言葉と精神は同じですが,数学では段階を踏んで学習することが最も大切だと思います。
小中学校の教科書などでは,定義(説明)の次に下記のような問題が
1 => 2 => 3 => 4 => 5の順に書かれているのが普通です。

1.定義や公式に数を当てはめれば解けるやさしい例題
2.その類題
3.やさしい練習問題
4.少し難しい問題
5.発展問題

数学を学ぶこつは,レベル1〜3の問題をおろそかにしないことだと思います. ところが,大学以上の専門書では,このような親切な書き方はされておらず, いきなりレベル5の問題が出てきたりしますので,そのような場合は,解けなくても当たり前です. そのときには,自分でレベル1〜3の問題を作って練習されるとよいと思います.
二重積分の問題が解けないというのは,その前に1変数関数の積分の理解に問題があるのではないでしょうか. その問題に使われるすべての概念について出発点に戻って,レベル1の問題から順に考えれば,たぶん二重積分の問題も解けるようになるのではないかと思います.
以上,お答えになっているかどうかわかりませんが, 私の経験から感じていることを書きました.


J さんからの質問 #01043

集合 A_n = {(x.y) : y > x^2n} が図示できません.また平面上で和集合を考えることもよくわかりません.

集合 A_n = {(x.y): y > x^2n} が図示できません.
また,座標平面上で和集合を考えることもよくわかりません. どういうことでしょうか.

お答えします:

ご質問にお答えします。
A_1, A_2, A_3,・・・と順に図示されるとよいと思います.

A_1 は不等式 y > x^2 をみたす点 (x, y) 全体の集合です. すなわち,放物線 y = x^2 より上の部分になります.
同様に
A_2 は不等式 y > x^4 をみたす点 (x, y) 全体の集合,
A_3 は不等式 y > x^6 をみたす点 (x, y) 全体の集合です.
・・・
A_1, A_2, A_3,・・・の和集合 A は少なくとも1つの A_n に属するような点の集合,すなわち,座標平面上では,A_1, A_2, A_3,・・・を全部合わせた部分になります.

不等式で表現される集合の図示の方法は,高校数学 II の「不等式の表す領域」の単元を参照されるとよいと思います.
和集合と共通部分については, 『はじめよう位相空間』 の 2.4 節に説明がありますので参考にして下さい.


J さんからの質問 #01042

集合 B = {(x, y) : x - y > 0} は平面上のどこを表しているのですか?

人生の楽しみとして数学を選んだ社会人です.
『解いてみよう位相空間』の問題 1.9 の集合 A, B について質問があります.
A = {(x, y) : x^2 + y^2 < 1} が円を表しているのはわかりますが,
B = {(x, y) : x - y > 0} が平面上,座標上でどこを表しているのかわかりません.
x - y が 0 より大きいとなっていますから第1象限のことかと思っているのですが,答では全然ちがう場所に領域があります.B の領域がどこにあるのか.なぜそこにあるのかを一つ教えてください.

お答えします:

人生の楽しみとして数学を選ばれたということですが, なかなか優雅な選択だと感心しています.

ご質問にお答えします.
集合 B は,数式 x - y > 0 をみたす点 (x, y) の集合ですが, 不等式 x - y > 0 は x > y と変形できます. したがって,集合 B は x-座標が y-座標より大きい点 (x, y) の集合です.
たとえば,(3, 1), (2, -3), (-2, -3) などは B の点ですが,(1, 3) や (-2, -1) などは B の点ではありません. すなわち,B は平面上で直線 y = x より下の部分です.
これでおわかりになったでしょうか?
もしまだ疑問がありましたら,遠慮なくお尋ね下さい.


S さんからの質問 #01041

『はじめよう位相空間』図 2.2(17ページ):
なぜ A から A' になるのかわかりません.

はじめましてA大学物理学科のSです.
『はじめよう位相空間』p. 17 図 2.2 の A から A' になるのがわかりません. A から女性がはくスカートのように変型して A' になるならわかるのですが, そうしたら A' の灰色のところが白になるのですが,どうして灰色になっているのですか? どのように変型して A' になったのでしょうか?

お答えします:

たぶん,Sさんと私とで図の理解の仕方に違いがあるのだと思います.
私の理解は,次の通りです.
A は平面内のアニュラス A = {(x,y) :1≦ x^2+y^2 ≦ 4} を真上(z-軸正方向)から見ている図.
A の見えている面(上面)は灰色で,見えていない面(下面)は白色と考える.
A の内側の円周を平面上に固定して,外側の円周を上に(z-軸正方向に)持ち上げた図形が A'(斜めから見ている).
このとき,A の上面は A' の内側になり,下面は外側になる. したがって,内側が灰色で外側が白色.

いかがでしょうか. 実は,Sさんのスカートをはくようにという表現がまだ十分に理解できないのですが, 他の人からも同様の質問がありましたので,Sさんの感じ方の方が自然なのかも知れません.
もし,まだ疑問がありましたら,遠慮なくお尋ね下さい.
なお,この逆の変形に関する問題と解答が姉妹書 『解いてみよう位相空間』 の問題 3.24 にありますので,必要なら参考にして下さい.


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