読者からの質問と回答 01051 〜 01060

T.O.さんからの質問 #01060

開集合 A に対し,A ∩ Cl(B) ⊆ Cl(A ∩ B) が成り立つ理由を教えて下さい.

課題を行っていてわからない部分がありましたので,教えてください.

問題. 位相空間(X, T)の2つの部分集合 A, B について次のことを証明しなさい.
(1) Cl(A) ∩ Cl(B) ⊃ Cl(A ∩ B)
(2) A が開集合のとき,Cl(A ∩ B) ⊃ A ∩ Cl(B)

お答えします:

閉包に関する次の2つの基本的な事実を使います.

閉包の最小性: A ⊆ B ⊆ X かつ B が X の閉集合ならば Cl(A) ⊆ B.
これは「A の閉包は A を含む最小の閉集合」であることを主張しています.

閉包の加法性: Cl(A ∪ B) = Cl(A) ∪ Cl(B).

(1) の証明:
A ∩ B ⊆ A ⊆ Cl(A) かつ Cl(A) は閉集合だから,閉包の最小性から
Cl(A ∩ B) ⊆ Cl(A).・・・(i)
同様に,A ∩ B ⊆ B ⊆ Cl(B) かつ Cl(B) は閉集合だから,閉包の最小性から
Cl(A ∩ B) ⊆ Cl(B).・・・(ii)
(i), (ii) より,Cl(A ∩ B) ⊆ Cl(A) ∩ Cl(B).

(2) の証明:
交わっている集合 A, B の図を描いて考えるとよいと思います.
最初に,B = (B - A) ∪ (A ∩ B) が成り立つことに注意する.
A は X の開集合だから,X - A は X の閉集合.
いま,B - A ⊆ X - A だから,閉包の最小性から Cl(B - A) ⊆ X - A.
ゆえに,A ∩ Cl(B - A) = 空集合.・・・(iii)
また,閉包の加法性から
Cl(B) = Cl((B - A) ∪ (A ∩ B)) = Cl(B - A) ∪ Cl(A ∩ B).・・・(iv)
したがって,
A ∩ Cl(B)
= A ∩ (Cl(B - A) ∪ Cl(A ∩ B))(<= (iv) より)
= (A ∩ Cl(B - A)) ∪ (A ∩ Cl(A ∩ B))(<= 分配法則)
= A ∩ Cl(A ∩ B)(<= (iii) より)
⊆ Cl(A ∩ B).

以上,T.O.さんの証明と比較してみて下さい.


M.O.さんからの質問 #01059

変換 p = kq + la が円を円にうつす理由を教えて下さい.

変換 f : p = kq + la(k, l > 0, a は固定されたベクトル)
において,円が円に対応する理由は,f が全単射で連続だからでしょうか?

お答えします:

上記の写像は,確かに全単射連続ですが,それが円を円にうつす理由ではありません. 理由は,上の式の与え方によるものです.
右辺は,ベクトル q を k 倍して,la ベクトルだけ平行移動することを表しています. すなわち,この写像は拡大(または縮小)と平行移動の合成ですから,相似変換です. これが,円を円にうつす理由です.

なお,この写像のように,拡大(または縮小)と平行移動の合成として表される写像はアフィン変換と呼ばれます.
以上で回答になったでしょうか.


H.O.さんからの質問 #01058

全有界性が一様位相的性質であるが位相的性質ではない理由を教えて下さい.

全有界という性質は一様位相的性質であるが位相的性質ではない.
その理由を教えてください.

お答えします:

全有界性は一様位相空間の性質ですが,一様位相空間について述べることは大変煩雑ですので, 一様位相空間の例である距離空間の場合について説明します.
最初に,全有界距離空間の定義を復習しておきます.

距離空間 (X, d) の部分集合 A と正数 ε > 0 に対して,次の条件 (*) が成立するとき, A は X の ε-稠密部分集合であるという.
(*) X の任意の点 x に対して,d(x, a) < ε をみたす A の点 a が存在する.

距離空間 (X, d) が全有界であるとは,任意の正数 ε> 0 に対して, X の ε-稠密部分集合が存在することをいう.

(1) 全有界性が位相的性質でないこと.
通常の距離が定められた実数直線 R とその部分空間 X = (0, 1) は位相同型.
このとき,X は全有界であるが,R は全有界でない
(なぜか?上の定義に照らし合わせて確かめて下さい).
ゆえに,全有界性は位相的性質でない.

(2) 全有界性が一様位相的性質であること.
全有界性が一様位相同型写像(一様連続であって逆写像もまた一様連続であるような全単射)で保存されることを示せばよい. ところが,距離空間 X から距離空間 Y への全射一様連続写像が与えられたとき, もし X が全有界ならば,Y も全有界である
(なぜか?上の定義を使って確かめて下さい).
ゆえに,全有界性は一様位相的性質である.

以上で答えになったでしょうか. なぜか?と書いた部分は,是非,ご自分で示してみて下さい.


M.M.さんからの質問 #01057

完備距離空間の閉集合の減少列 {F_n} の共通部分が1点のとき,F_n の直径は 0 に収束しますか?

完備距離空間 X の閉集合からなる単調減少列 {F_n} を考えます.
このとき,Cantor の共通部分定理から,次が成り立ちます.

(*) diameter (F_n) --> 0 (n --> ∞) ならば,共通部分 ∩{F_n: n ∈ N} は 1 点集合.

(*) の逆も成立するでしょうか? 

お答えします:

成立しません.
例えば,実数全体 R に距離関数 d を
d(x, y) = min{|x - y|, 1}, x, y ∈ R
によって定めると,(R, d) は完備です.
このとき,F_n = {0} ∪ [n, +∞) とおくと,{F_n} の共通部分は 1 点集合 {0} です.
ところが,F_n の直径は 0 に収束しません.

閉集合の任意の単調減少列に対して (*) の逆が成立することは,X がコンパクトで あることと同値ではないかと思います.


H.Y.さんからの質問 #01056

Int(Cl A) ≠ Cl(Int A) である集合 A ⊂ R^2 はどんな集合ですか?

いろいろ勉強しているのですが,なかなか難しく,質問を致します.

1.ユークリッド平面 R^2 の部分集合族 {A_n : n ∈ N},
ただし A_n = (1/n, +∞) × R について,次の問いに答えよ.
(1) Cl(∪{A_n : n ∈ N}) を求めよ.
(2) Bd(∪{A_n : n ∈ N}) を求めよ.

2.ユークリッド平面 R^2 の中の部分集合 A で
Int(Cl A) ≠ Cl(Int(A))
となるような例をあげ,その理由を説明せよ.

お答えします:

はじめに,Cl A, Bd A, Int A は,それぞれ,A の閉包,境界,内部を表します.

1.まず,部分集合族 {A_n : n ∈ N} の和集合 ∪{A_n : n ∈ N} がどのような集合になるかを調べる必要があります. 1/n --> 0 (n --> ∞) であることに着目すると,
∪{A_n : n ∈ N} = (0, +∞) × R.
ゆえに,
(1) Cl(∪{A_n : n ∈ N}) = Cl((0, +∞) × R) = [0, +∞) × R.
(2) Bd(∪{A_n : n ∈ N}) = Bd((0, +∞) × R) = {0} × R.

2.有理数全体の集合を Q として,A = Q × Q とおきます.
このとき,Cl A = R^2 だから,
Int(Cl A) = Int (R^2) = R^2. 
Int A = φ(空集合)だから,Cl(Int A) = Cl φ = φ. 
ゆえに,Int(Cl A) ≠ Cl(Int A). 

なぜ上記の答えになるかを十分に理解されることが大切と思います.
図を描いて考えてみて下さい.
部分集合族の和集合を求める問題は, 『解いてみよう位相空間』 の第 1 章に, R^2 の部分集合の閉包,境界,内部を求める問題は, 『解いてみよう位相空間』の第 6 章にもあります.


H.Y.さんからの質問 #01055

デデキンドの切断について教えて下さい.

通信教育を受けている H.Y.と申します.
テキストをみてもなかなか解けません.お忙しい中すみませんが教えて下さい.

デデキンドの切断を用いて次の問いに答えよ.
(1) 3 および ルート5 を切断を用いて表せ.
(2) ルート5 < 3 を切断を用いて証明せよ.

お答えします:

有理数の集合を Q で表します.
デデキンドの切断は,Q から実数を構成する構成法ですから,Q の切断を用いて 3 とルート 5 を表現することになります.

(1) A = {x ∈ Q : x < 3}, B = {x ∈ Q : x ≧ 3} とおくと 3 = (A, B).

注意: A = {x ∈ Q : x ≦ 3}, B = {x ∈ Q : x > 3} とおく表し方もあります. また両方を考えて,両者を同一視する方法もあります. H.Y.さんのテキストに従って下さい.

C = {x ∈ Q : x^2 < 5}, D = {x ∈ Q : x^2 > 5} とおくと ルート5 = (C, D).

(2) デデキンドの切断の間の順序は下記によって定義されます.
(E, F) ≦ (G, H) <=> E⊆ G

いま (1) で定めた 3 = (A, B) とルート5 = (C, D) において, C ⊆ A が成立する(なぜなら,x^2 < 5 ならば x < 3). ゆえに,(C, D) ≦ (A, B).
(C, D) と (A, B) は等しくないので,(C, D) < (A, B).
ゆえに,ルート 5 < 3.

以上で答えになったでしょうか. H.Y.さんの通信教育が順調に進むことを祈っています.


Y.M.さんからの質問 #01054

半開区間が開集合でも閉集合でもないことは,どのように示しますか?

問題「半開区間は開集合でも閉集合でもないことを示せ」は, どうやって示したらいいですか?

お答えします:

まず開集合と閉集合の定義を復習して,半開区間がその定義の条件を満たさないことを示すとよいと思います.
いろいろな定義の方法がありますので,それに応じて,いろいろな示し方をしてみると勉強になるでしょう.
この事実の別々の証明が,下記のテキストにありますので参考にして下さい.
『はじめよう位相空間』 の例 8.7(105 ページ),
『解いてみよう位相空間』 の問題 5.1(92 ページ).

Y.M.さんの位相の勉強が進むことを祈っています.


M.O.さんからの質問 #01053

実数値連続関数の円周上での最大値・最小値の求め方について質問があります.

条件 g(x, y) = x^2 + y^2 - 1 = 0 における関数 f(x, y) = x^2 + y^2 - 6x - 8y の最大値, 最小値を求める極値問題についてですが,ラグランジュの乗数法を用いて, 候補として 2点 (-3/5, -4/5) と (3/5, 4/5) が得られました.
その後の問題なのですが,S = {(x, y): x^2 + y^2 = 1} は有界閉集合(コンパクト)で,上記2点は最大値,最小値の候補である. ここまでは良いのですが,S の境界を調べなければならないと思い,あらためて 『はじめよう位相空間』を読み返してみました.その結論なのですが, 平面 E^2 において S は S 自身の境界点の集合と考えられる,したがって
「S は境界点を要素とする有界閉集合だから,すべての境界点を含めて上記の2点において極大,極小であるので,上記2点において最大,最小.」
と理解したのですが,いかがでしょうか?

お答えします:

2変数関数 f の単位円周 S 上における最大値,最小値を求める問題ですが, まず,ご質問の関数 f(x, y) = x^2 + y^2 - 6x - 8y の場合について, 2通りの方法で考えたいと思います.

(1) 多項式関数 f は S 上では連続で滑らかなグラフを持つので,次の (i), (ii) が成立する.
(i) S はコンパクトだから,f が最大値,最小値をとる点が存在する.
(ii) 最大値と最小値をとる点では,f はそれぞれ,極大,極小となる.
いま,極値の候補点は2つだけなので,(i), (ii) より,候補点の一方が最大値をとる点となり,他方が最小値をとる点となる.

(2) x^2 + y^2 = 1 を f(x, y) の式に代入すると,f(x, y) = 1 - 6x - 8y となり, この関数のグラフは平面である. すなわち,もとの関数 f のグラフは S 上では平面の一部として表されるので, S の原点に関して対象な2点で,それぞれ最大,最小となる. 求めた候補点がちょうどこれらの2点である.

M.O さんの理解は,上の方法 (1) ですので,境界点の部分を除いては正しいと思います.

そこで,次に境界点の問題について述べます.
M.O.さんのご質問の通り,ラグランジュの乗数法で求めた極値の候補点は極値をとるための必要条件ですので,実際にそれらの点で最大,最小となるかは,上の (1), (2) のような何らかの方法で吟味する必要があります. そこで,境界について調べようと思われたのだと思います.
例えば,閉区間 [a, b] 上で定義された1変数関数 f の最大値,最小値を求める問題では,f の極値だけでなく,区間の境界点 a, b での f の値を調べる必要があります. しかし,このとき a, b は確かに区間の境界点ですが,区間の端点と考える方が適当と思います.
最初の問題の場合,円周 S の点はすべて S の境界点ですが,S には端点がないのでそれについては調べる必要がありません.
もし条件の関数 g(x, y) に付加条件 y ≧ 0 が付いていたと考えてみます. このとき S は上半円となり,f の極値の候補点は (3/5, 4/5) だけになります. この場合は S は端点 p = (1, 0) と q = (-1, 0) を持つので,f の最大値,最小値を求めるためには,p, q での値を調べる必要があります. 実際,f は点 q で最大値 7 をとることが分かります.

以上,これで答になったでしょうか.


J さんからの質問 #01052

数学は才能でしょうか?

数学に興味があって○○先生の「×× 入門」を片っ端から読んで,ノートに証明を何回か一所懸命書き込んでいるのに納得したことが半分もありません. 確かに今までよく分からなかったこと(例えば,sin の微分は cos であることとか)がわかるようにはなったのですがちょっと本格的な数式を並べられるとお手上げです. そんなときはいつでも頭の片隅に才能の2文字がよぎり気が滅入ります. やっぱり数学は才能ではないですか? これでも数1,数2,数3とやった上で大学数学に手を出したのですがまったく歯が立ちません. 興味があるのにとても残念です.

お答えします:

数学に才能が必要か?というご質問ですが,研究者になるためには, 才能やセンスなど特別な能力が必要と思います.
しかし,大学の学部レベルの数学の理解には,特別な才能は不必要ではないでしょうか. もちろん,普通の体調や入試に合格する程度の基礎学力と理解力は必要と思いますが. 私は○○先生の「×× 入門」を読んだことがありませんので,一般論でお答えします.

大学レベルの本には「読んで分かる本」と「読んでも分からない本」があると思います. 別の表現をすれば,「論理の飛躍の少ない本」と「飛躍や省略の多い本」です. 著者が有名な先生であるかどうかとは無関係です. 特に,教科書用として書かれた本は講義で補うことを前提としていることが多いので,自習では理解が難しい場合があります. 一方,自習向きの良書も数多く出版されていますので,そのような本を選んで,最初から時間をかけて読まれることが大切と思います.

私の場合,次のように本を読んでいます.
1.最初(=まえがき)から読む。途中をとばさずに読む.
2.ノートを作る。理解できたことを書く.理解出来ない部分は可能な限り考える. (ただし,そのときにわからなくても,先に進むとわかることもあります.)
3.時間をかける.1行の理解に数週間考えることもよくあります.
以上の結果として,1冊の本を読むためには,通常1年はかかります. また,本の分量の 5 〜 10 倍のノートができます. 友人の中には,1ヶ月位で 1 冊を読んでしまう人もいますが,たぶん私より 10 倍以上理解が早いのでしょう. しかし,10 倍時間がかかるということは,10 倍に拡大して数学をよく見ているのだと考えることにしています.
数1,数2,数3をマスターされたこと,sin の微分が cos であることを理解されたことは大進歩ではありませんか.数学は,あせらず,急がず,一歩づつ積み重ねることが大切です.

J さんが良書に巡り会われて,理解が進むことを祈っています.

2013/12/31 加筆


Y.H.さんからの質問 #01051

有限次元ノルム空間はユークリッド空間に等距離ですか?

一般の有限次元ノルム空間はユークリッド空間と同相だと思っていますが, 等距離にもなっているでしょうか?

お答えします:

確かに,有限次元ノルム空間は同じ次元のユークリッド空間と同相です. そのときに等距離写像が存在するかという質問だと思いますが, 存在しない場合があります.
例えば,平面 R^2 に sup norm,すなわち,
||(x, y)|| = max{|x|, |y|} 
を定めると,このノルム空間からユークリッド空間 E^2 への等距離写像は存在しません.
証明を考えてみて下さい.


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