読者からの質問と回答 01091 〜 01100

TK さんからの質問 #01100

連結性の定義について教えて下さい.

はじめまして,子供の受験をきっかけに数学が好きだったことを思い出し,定年後は大学で数学の勉強をしたいと考えている文系出身の TK と申します. 先生の著書『はじめよう位相空間』は,私のような文系出身の人間にも分かりやすく,位相空間の入門書として楽しく読んでいます.
お手数ですが,連結の定義について教えていただけませんでしょうか.

『はじめよう位相空間』の補題 12.5 には,
「位相空間 Y の部分集合 X が連結であるためには,条件 
X ⊆ G ∪ H, G ∩ H ∩ X = φ, G ∩ X ≠ φ, H ∩ X ≠ φ 
をみたす Y の開集合 G, H が存在しないことが必要十分である.」
との記述があります.

一方,下記の教科書 [1] には,
「(X, O) を位相空間とする.部分集合 A ⊂ X に対して,次の3条件を満たす開集合 U, V が存在するとき,A は連結でないという:
A ⊂ U ∪ V, U ∩ V = φ, U ∩ A ≠ φ ≠ V ∩ A.」
との記述があります.

教科書 [1] の記述で,U ∩ V = φ の部分は,大田先生の定義から考えると,U ∩ V ∩ A = φ ではないかと思いますが,いかがでしょうか.

[1] 鈴木晋一著『位相入門』サイエンス社.

お答えします:

TK さんが言われる通り,U ∩ V ∩ A = φ にする必要があります. そのことを示す例を与えましょう.

例. 集合 S = {a, b, c} に位相構造 T = {φ, {b}, {a,b}, {b,c}, S} を定めた位相空間 (S, T) を考える.このとき,位相空間 (S, T) の部分集合 A = {a, c} は非連結だが, 教科書 [1] の定義では連結になる.

教科書 [1] の第3章の連結集合の定義は,TK さんがご指摘のように訂正する必要があります.
ただし,距離空間(より厳密には,距離位相を持つ位相空間)の部分集合に対しては,どちらの定義も同値になることが知られています.すなわち,距離空間 X の部分集合 A に対して,もし 
A ⊂ U ∪ V, U ∩ V ∩ A = φ, U ∩ A ≠ φ ≠ V ∩ A
をみたす開集合 U, V が存在すれば,位相の少し進んだ議論を用いることにより,U, V を
A ⊂ U ∪ V, U ∩ V = φ, U ∩ A ≠ φ ≠ V ∩ A 
を満たすように取り直すことが出来ます ( こちらを参照して下さい).
したがって,教科書 [1] の第2章の距離空間の連結集合の定義は間違っているとは言えません.

最後になりましたが, 『はじめよう位相空間』 をご購読頂きまして,ありがとうございます. 学生だけでなく社会人や年配の方の読者にも恵まれ,幸せに感じております.
ご定年後に大学で数学を勉強したいという TK さんの夢が実現することを祈っています.


ar さんからの質問 #01099

円筒の単体分割を考える際,円筒と同相な正方形を考えますが・・・?

円筒やトーラスの単体分割を考える際,円筒を切り開いて、円筒と同相な正方形を考えますよね. でも,同相とはそもそも,連続変形して得られる関係で,連続変形はハサミやノリは使ってはいけないんじゃないんですか?? それとも,円筒と正方形は同相ではないんですか?
教えてください.おねがいします.

お答えします:

円筒と正方形は同相ではありません.
単体分割の際に切り開いて考えるのは,考えやすいように平面的に切り開いて考えるのであって,切った箇所を貼り合わせて復元することを前提にしています. したがって,上記のご質問の文章の中で,
「円筒と同相な正方形を考えますよね」
は間違っています.
「円筒の展開図である正方形を考えますよね」
のように言うべきだと思います. 以上でよろしいでしょうか.


Kf さんからの質問 #01098

位相空間では,なぜ「開集合」を用いるのですか?

70歳の男性です.初めて位相幾何学の書籍を読みはじめました. 『はじめよう位相空間』 未購入です. 数学については素人ですが,ご多忙中のところ,よろしくお願い申し上げます.

質問. 位相幾何学の入門書の初っ端からつまずきました. 位相空間はなぜ「開集合」を用いるのか?が質問です. 初心者に分かりやすく?教えていただけないでしょうか. 位相空間の定義は理解できたと思っているのですが上記の疑問が常に引っ掛かりスッキリしません.

追伸:我が家にもメビウスの猫います.クマ君によろしく.

お答えします:

さて,なぜ「開集合」を考えるかという疑問は,大変自然です.
実は 『はじめよう位相空間』は, その疑問に答えるために書いたと言っても過言ではありません. 本書で理由を詳しく解説しましたが,以下にその概略をご説明致します.
分かりやすくするために,平面上の通常のユークリッド幾何学を例にとります. 平面上で「平行移動,回転,裏返し」を組み合わせて得られる写像を合同変換とよびます. 図形 A が合同変換によって図形 B にうつされるとき,図形 A と B は合同であると言います.
一方,図形がゴムや粘土のような柔軟な材質で出来ていると考えて, 自由に伸縮させて変形させる写像を位相変換とよびます.ただし,切ったり貼り合わせたりすることは許されません. 図形 A が位相変換によって図形 B にうつされるとき,図形 A と B は同相であると言います. 例えば,ドーナツとコーヒーカップは同相です. 合同変換は図形の形を変えません. 特に,合同変換は2点間の距離を変えませんが,この逆も成立します(本書:定理1.3).すなわち,

合同変換とは,対応する「2点間」の「距離」を変えない写像のことである.

と言えます. このことは,ユークリッド幾何学では「距離」がもっとも基本的な概念であることを示しています. 一方,位相変換の下では,図形の形や2点間の距離などの表面的な性質はすべて変化します. それでは,位相変換は何を変えない写像であると言えるでしょうか. その答えが開集合や閉集合の概念です。すなわち,

位相変換とは,対応する「部分集合」が「開集合であるかどうか」を変えない写像のことである.

と言えます. この意味で,位相幾何学では「開集合」がもっとも基本的な概念であると考えられます. 位相変換の下で不変な性質を位相的不変量と言います. 長さや角度は位相的不変量ではありませんが,開集合であることや開集合を使って定義される図形の性質は位相的不変量です.
以上で説明になったでしょうか.
詳しくは, 『はじめよう位相空間』をご覧下さい.

70 才で位相幾何学を読み始められたとのこと,若々しさに感心しています.
勉強のご発展を祈っています.


KM さんからの質問 #01097

位相空間の間の写像に「一様連続性」を定義していますが自信がありません.

M と申します.
よろしくお願い致します.一様連続の定義をしていますがいまいち自信が有りません.
中略.
一様連続を下記のように定義したのですが正しいでしょうか?

定義. 位相空間 (X, T) と (Y, S) が与えられたとき,f ∈ Map(X,Y) が X で一様連続であるとは, 次の条件をみたすことを言う.
∀U ∈ nbhd(b, (Y, S)), ∃V ∈ nbhd(a, (X, T)) such that f(V) ⊂ U.

お答えします:

上記の定義ですが,点 b と a の関係が示されていませんので判断しかねます. b = f(a) の場合,上の定義の条件が任意の a ∈ X に対して成立することは, f の連続性の定義に一致します.

一様連続性や完備性の概念を一般の位相空間に拡張する試みは前世紀初頭から考えられています. そのためには,空間の位相構造だけでは不十分で,位相空間に(または集合に)一様構造とよばれる構造を与えて,一様空間とよばれる空間を定義し,その上で議論をする必要があります.
詳しくは,下記の参考書をご覧下さい.

[1] 森田紀一著『位相空間論』岩波全書.
[2] 岩波『数学辞典』一様空間の項目,岩波書店.

以上,お返事まで.


N.A.さんからの質問 #01096

自由群の濃度ついて教えて下さい.

理学部2年生のN.A.と申します. 自由群の濃度に関する次の問題について質問があります.

問題: S, T を集合として自由群 F(S), F(T) を考える.
このとき,F(S) と F(T) が群として同型ならば |S| = |T| を示せ(ただし,|S| は S の濃度を表わすとする).
集合 S, T が有限集合のときは問題ないのですが,S, T が無限集合のときに証明がわかりません. 具体的には,S が無限集合のとき,|S| = |F(S)| を示すことで,
|S| = |F(S)| = |F(T)| = |T|.
を導くという方法で証明したいと思います. ここで,|S| = |F(S)| をどうやって証明すればよいのでしょうか? S から F(S) へは S の元 x を F(S) の元である x へ写せば単射になるので,|S| ≦ |F(S)| がわかりますが, もう一方がわかりません.F(S) から S への単射を構成してベルンシュタインの定理から証明しようと考えているのですが,その単射が構成できずに悩んでいます. 何か単射を構成できるのでしょうか? それとも別の方法でアプローチするのでしょうか?
よろしくお願いします.

お答えします:

|S| = κ で κ が無限濃度の場合に,|F(S)| = κ をどのように示すか?というご質問です.
自然数 n に対し,F(S) の長さ n の元全体からなる集合を F_n(S) で表すと,
F(S) = F_1(S) ∪ F_2(S) ∪ F_3(S) ∪ ・・・.
各 n について,n 個の S の直積 S^n を考えると,κ は無限だから |S^n| = κ.
F_n(S) から S^n (n 個の S の直積)への単射が存在する(構成して下さい).
したがって,|F_n(S)| ≦ κ.
無限濃度 κ の集合の可算和はまた濃度 κ だから,|F(S)| ≦ κ.
逆の不等号が成立する理由は,N.A.さんが書かれた通りです. いかがでしょうか.


I.M.さんからの質問 #01095

関数の連続性に関する例題 4.8 (54ページ) について教えて下さい.

はじめまして.2つ質問があります.

『はじめよう位相空間』の 54 ページの例題 4.8 の証明の部分
「-δ < x' < 0 である点 x' をとると |x - x'| < δが成り立つ」
というところで, x が x < -δ なら成り立たないのではないでしょうか? 
その後の「f の定義より f(x) = 1」というところも分かりません.
宜しくお願いします.

お答えします:

ご質問の例題 4.8 は「例題文のように定義された関数 f: E^1 ---> E^1 が, x = 0 で連続でないことを示せ」という問題です.
ここで,x = 0 であることに注意して下さい.
したがって,x < -δ の場合を心配する必要はありません.
また,この関数 f は「x ≧ 0 のとき f(x) = x + 1」として定義されています.
いま x = 0 なので,この定義より,f(x) = 0 + 1 = 1 です. 以上で答えになったでしょうか.
不明な点がありましたら,遠慮なくご質問下さい.


K.S.さんからの質問 #01094

離散空間の非可算無限積は0次元ですか?

つまらない質問かもしれませんが,discrete space の非可算無限積が0次元となるか教えて下さい.

お答えします:

離散空間の非可算無限積は0次元です.
次の論文の Corollary 2.5 をご覧下さい. 0次元距離空間の非可算積が0次元であることが証明されています.

E. Pol, On the dimension of the product of metrizable spaces,
Bull. Acad. Polon. Sci., 26 (1978), 525-534.

離散空間の直積の場合には証明が簡単になるということはないように思います.
以上,お役に立てば幸いです.


Tさんからの質問 #01093

図形 {(x, y) ∈ R^2 : x^2 + y^2 = 1} ∪ {(x, 0) ∈ R^2 : 1 ≦ x ≦ 2} は閉区間と位相同型ですか?

以下の証明はどのようになるのですか.ご教授お願いします.
R の部分空間としての閉区間 A = [a, b] (a<b) と R^2 の部分空間
B = {(x, y) ∈ R^2 : x^2 + y^2 = 1} ∪ {(x, 0) ∈ R^2 : 1 ≦ x ≦ 2}
は同相か否か,理由をつけて答えよ.
自分は同相ではないと思います.

お答えします:

Tさんの予想通り,A と B は同相ではありません.

証明: 背理法で証明します.
もし A と B が同相であると仮定する.
このとき,同相写像 f: B ---> A が存在する.
いま, C = B - {(x, 0) ∈ R^2 : 1 ≦ x ≦ 2} とおく.
f は全単射だから,C の点 p で,a < f(p) < b をみたすものが存在する.
このとき,B - {p} は連結.ところが, f(B - {p}) = [a, b] - {f(p)} だから,f(B - {p}) は非連結.
これは,連結集合の連続写像による像が連結であることに矛盾する. 証明終

いかがでしょうか.
Tさんの勉強が進むことを祈っています.


Y.H.さんからの質問 #01092

Sorgenfrey 平面 S^2 の2つの領域 y ≧ 0 x + y ≧ 0 は互いに位相同型ですか?

Sorgenfrey 平面 S^2 の2つの部分空間
X = {(x, y) ∈ S^2 : y ≧ 0} と Y = {(x, y) ∈ S^2 : x + y ≧ 0}
は位相同型でしょうか?

お答えします:

以下に示すように,部分空間 X と Y はどちらも S^2 と位相同型です.
したがって,X と Y は位相同型です.

理由: S^2 の部分空間
J = {(x, y) ∈ S^2 : 0 ≦ x < 1, 0 ≦ y < 1}
を考えると,S^2 は可算個の J のコピーの直和に分割される(ここで,J のコピーとは J と位相同型な部分空間のこと). X もまた同じ分割を持つから,X と S^2 は位相同型である.
上の部分空間 J は,さらに2つの部分空間
K = {(x, y) ∈ J : x + y < 1} と L = {(x, y) ∈ J : x + y ≧ 1}
の直和に分割されるので,結果として,S^2 は可算個の K のコピーと可算個の L のコピーの直和に分割される. Y もまた同じ分割を持つから,Y と S^2 は位相同型である.


Tさんからの質問 #01091

空間 R^2 - {(0, 0)} の商位相空間の連結性とコンパクト性について教えて下さい.

自分は工学部の出身で位相の講義を受けたことはなく,独学で位相の勉強をしています. ところが、今回お聞きしたい事柄である商位相空間に関する問題を見たことがなく,どのように考える(答案を書く)のか解りません.ご教授お願いします.

問題: r を r > 1 なる実数とし, X をユークリッド空間 R^2 から原点 (0,0) を除いた空間とする.集合 X に同値関係 〜 を
(x_1, x_2)〜(y_1, y_2) ⇔ (y_1, y_2) = r^m(x_1, x_2)
となる整数 m が存在すると定める. このとき,商位相空間 X/〜 は連結かつコンパクトであることを示せ.

上の問題なのですが,以下に自分がこの問題から読み取れる事をまとめておきます.
(1) 集合 D := {(x_1, x_2) ∈ X : 1 ≦ (x_1^2+x_2^2)^{1/2} < r} が X の 〜 に関する代表系である. つまり,X = ∪{[x] : x ∈ D}.
(2) 商集合 X/〜 ={[x]|x ∈ D}である.
(3) 商位相空間の開集合の例としては,∪{[x] : x ∈ D かつ x_1> 0} 等がある.

お答えします:

Tさんが問題から読み取られた事実 (1), (2), (3) はすべて正しいと思います.
商位相空間 X/〜 の連結性とコンパクト性は次のように示します.

商位相空間の定義から,商写像(=自然な写像)p: X ---> X/〜 が存在する (すなわち,X の点 x に,商空間 X/〜 の点 [x] を対応させる写像のこと). この写像 p は連続写像であることに注意.
いま,X の部分空間 Y を次のように定める.
Y = {(x_1, x_2) ∈ X : 1 ≦ (x_1^2+x_2^2)^{1/2} ≦ r}.
このとき,Y は連結.また,Y は R^2 の有界閉集合だからコンパクト. さらに,田中さんが読み取られた事実 (1) より,p(Y) = X/〜 が成立する. すなわち,X/〜 は連続写像 p による連結コンパクト空間 Y の像として表される. 連続写像による連結集合の像は連結,連続写像によるコンパクト集合の像はコンパクトだから, X/〜 は連結かつコンパクトである.(証明終)

なお,この商位相空間 X/〜 はトーラスと位相同型です.
それでは,Tさんの勉強が進むことを祈っています.


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