読者からの質問と回答 01111 〜 01120

M さんからの質問 #01120

第3章,問1:この問の解答(191 ページ)について教えて下さい.

お忙しいところ申し訳ありませんが,下記のことで教えてください.
退職後,位相空間が面白そうなので楽しみで解いています.
第3章の問1について,191 ページの解答では,

(1) f(E_2) = f(E_4) = {(x, 0, 1 - x) : 0 ≦ x ≦ 1}

になっています. 点 p = (1, y) ∈ E_2 または p = (0, y) ∈ E_4 の座標を
f(p) = ((1 - y)cos 2πx, (1 - y)sin 2πy, y)
に代入すると,f(p) = (1 - y, 0, y) になるので,正解は

(2) f(E_2) = f(E_4) = {(1 - y, 0, y) : 0 ≦ y ≦ 1}

になるのではないかと思います. なぜ (x, 0, 1 - x) になるのかわかりません?
よろしくお願いいたします.

お答えします:

実は,(1) と (2) の右辺は同じ集合を表しています.
1 - y = x とおくと,y = 1 - x になるからです.
したがって,どちらも正解です.

解答では,x を変数とした方が分かりやすいと考え, (2) の表現を選びましたが,M さんが言われる通り, 点 p = (1, y) ∈ E_2 または p = (0, y) ∈ E_4 の座標を f(p) の数式に代入すると,(1) の形になります. そちらの方がよかったかも知れません.
回答まで.


KM さんからの質問 #01119

用語「切片」は非整列集合に対しても使われますか?

いつもお世話になっております. 切片についてお伺いしたいのですが,

「全順序集合 A と a ∈ A に対して,集合 {x ∈ A : x < a} を A の a による切片と呼ぶ.」

というふうに「切片」という用語は,必ずしも整列集合でなくても定義され得るものでしょうか?

お答えします:

定義可能と思います.
岩波『数学辞典』をはじめ,いくつかのテキストでは,一般の順序集合において定義されています.
以上,お役に立てば幸いです.


Y.H.さんからの質問 #01118

ゼロ集合をゼロ集合に移す写像について,知られていることがあるでしょうか?

ゼロ集合をゼロ集合に移す写像の名前はありますか? このような写像はポピュラーな概念でしょうか?
この写像について書かれている論文,本等を御存知でしたら教えてください.
よろしくお願いします.

お答えします:

とりあえず,最も基本的な結果だけをお知らせします.

(1)Open perfect map は zero-set を zero-set にうつす.

これは,論文
Z. Frolik, Applications of complete family of continuous functions to the thoery of Q-spaces, Czech. Math. J. 11 (1961), 115-113
の中で証明されている次の定理から導かれます.

定理. 連続写像 f: X ---> Y と X 上の実数値連続関数 g に対して,
Y 上の実数値関数 g* を g*(y) = inf{g(x) : x ∈ f^{-1}(y)} によって定義する.このとき,
f が open map ならば,g* は上半連続,
f が closed map ならば,g* は下半連続である.

(2)Perfect map は zero-set を zero-set にうつすとは限らない.
反例があります.

T. Isiwata や R. L. Blair によるもう少し弱い条件の結果が知られていますが, 本質的には,すべて上の (1) の一般化です. これらの一般化は,下記の本の中にまとめられています.

M. D. Weir, Hewitt-Nachbin spaces, North-Holland, 1975.

名前ですが,R. L. Blair は彼の unpublished paper: Mappings that preserve realcompactness の中で "zero-set preserving mapping" という名称を使っています. 上の Weir の本でも使われています.

上記の Frolik の定理と (1), (2) の事実はよく知られていますが, zero-set preserving という名前はポピュラーではないと思います.
以上,お役に立てば幸いです.


O.N.さんからの質問 #01117

第1章,問4:Why the letters "X" and "Y" are topologically equivalent?

I am solving the problem 4 in Chapter 1 of the book titled "Let's start to study Tolopogical Space". It is on the page 6. It requests the classification of Alphabet {A,B,C,・・・,X,Y,Z} by topological equivalence. After having read the solution paged 184, I couldn't understand why X and Y are not equivalent. I may transform X into Y by contracting a branch of X. Excuse me if I may take your time by my trivially silly question.

お答えします:

もし X と Y が幅を持つ図形ならば,O.N.さんが言われる通り,X の枝を縮めることにより,X と Y は位相同型になります. しかし,この問題では,(はっきりとは言っていませんが)X と Y は幅を持たない図形であると仮定しています. したがって,X の枝を位相的に縮めることが出来ません.

厳密な証明の方法はいくつかありますが,その1つは位相的な変形は端点を端点をうつすという事実を使います. 図形 X には4つの端点がありますが,Y には3つの端点しかありません. したがって,X と Y は位相同型ではありません.

姉妹書 『解いてみよう位相空間』,問題1.4にも,この問題の解説がありますのでご覧下さい.
回答まで.


M さんからの質問 #01116

例題 7.18:写像 pr_{ij} がリプシッツ写像である理由を教えて下さい.

2 回目の質問をさせて頂きます M と申します.
先生の 『はじめよう位相空間』 は全体的にわかりやすく書かれていますので, 定年で数学の知識があまりなくても全体的になんとか理解できます. 下記の件について教えて下さい.

例題 7.18(96ページ)の最下段の射影 pr_{ij} が,数式 (7.8) よりリプシッツ写像であることが導かれるとのことですがよく理解できません.
また,例題 7.19(97ページ)の射影の合成関数の式なども理解できません. 全体的に射影の問題がよく分かりません. 特に,射影の合成関数はどのように考えたらよいのでしょうか.

お答えします:

まず,最初の質問にお答えします.
以下,記号 sqrt{x} は x の平方根を表します.

写像 pr_{ij} がリプシッツ写像であること:
任意の行列 A=(a_{ij}), B=(b_{ij}) ∈ M(2, 2) に対して,

d_2(pr_{ij}(A), pr_{ij}(B))
= |a_{ij}-b_{ij}|
= sqrt{(a_{ij}-b_{ij})^2}
≦ sqrt{Σ_{i=1}^{2}Σ_{j=1}^{2}(a_{ij}-b_{ij})^2} = d(A, B).

ゆえに,射影 pr_{ij} はリプシッツ定数1のリプシッツ写像である.
なお,最後の等号のところで (7.8) を使いました.

後半のご質問につきまして,メールで回答できることには限界がありますので, お尋ねになりたいことを具体的な質問にして頂けると,お答えしやすく思います. 例 7.18, 7.19 では,5.2 節の考察,特に定理 5.10, 5.14 が鍵となります. 5.2 節の内容をもう一度復習された上で,再度考えられてはいかがでしょうか.
以上,M さんの理解が進むことを祈っています.
お答えまで.


KM さんからの質問 #01115

「通常の位相」とはどのような位相を指すのでしょうか.

直積集合 R^n の「通常の位相」とは,

Π_{i=1}^n (a_i, b_i),a_i < b_i, a_i, b_i ∈ R

の形の集合全体から生成される位相のことだと思います. ただし,(a_i, b_i) は開区間.
それでは,Λ を任意の集合としたときの直積集合 R^Λ の「通常の位相」とは,

Π_{λ∈Λ}(a_λ, b_λ),a_λ < b_λ, a_λ, b_λ ∈ R

の形の集合全体から生成される位相のことだと思ったのですが,正しいでしょうか.
もう1つ質問ですが,複素平面 C での「通常の位相」とは,どのような位相を指すのでしょうか?

お答えします:

一般に,「通常の位相」という用語は,Λ が有限集合の場合だけしか使わないように思います. KMさんが上の書かれた位相は,箱位相 (box topology) とよばれる位相です. 直積集合 R^Λ 上の代表的な位相は直積位相ですが, 直積位相も箱位相も「通常の位相」と呼ぶことには抵抗を感じます.
直積位相と箱位相の違いについては,例えば, 岩波『数学辞典第4版』の位相空間の項目をご覧下さい.

複素平面 C 上の「通常の位相」は, CR^2 と見なしたときの通常の位相だと思います.
以上,お答えまで.


M さんからの質問 #01114

例 5.7:逆写像の数式はどのように導くのですか.

現在65歳ですが楽しみで数学をしています. あまり数学の知識がありませんが理解できた時はかなり感動します. 1年前くらいから独学で集合,写像,及び ε-δ 論法等を勉強しましたが不明な点が多くでてきます. 先生の 『はじめよう位相空間』を購入しまして, 一応の目標としまして位相空間が理解できるまでと思っています.
お忙しいところ申し訳ないのですが,例5.7(64ページ)の逆写像

f^{-1}: E^1 ---> S^1-{p_0}; x |---> (4x/(x^2+4), 2x^2/(x^2+4))  (5.2)

の最後の座標の求め方を教えて下さい.

お答えします:

図 5.3(64ページ)を見て下さい.
問題の写像 f は,S^1 の点 p を E^1 の点 f(p) へうつす写像です. したがって,f の逆写像 f^{-1} は,点 f(p) を p へうつします. この対応を式で表すために,f(p) = x とおいて,p の座標を求めると, (5.2) 式が得られます.
もう少し詳しく説明すると,f(p) = x とおくと, 平面上で点 f(p) = (x, 0) と点 p_0 = (0, 2) を通る直線の方程式は,
(1) s = (-2/x)t + 2.
一方,円周 S^1 の方程式は,
(2) s^2 + (t-1)^2 = 1.
点 p は直線 (1) と円周 (2) の交点だから,(1), (2) を連立させて解 (s, t) を求めると,点 p の座標が得られます. これが数式 (5.2) における f^{-1}(x) の座標です.

以上,お答えになったでしょうか.
M さんの勉強が進むことを祈っています.


M さんからの質問 #01113

例 6.9:なぜ b-a をかけるのですか.なぜ距離に定積分が関係するのですか?.

現在65歳ですが楽しみで数学をしています. あまり数学の知識がありませんが理解できた時はかなり感動します. 1年前くらいから独学で集合,写像,及び ε-δ 論法等を勉強しましたが不明な点が多くでてきます. 先生の 『はじめよう位相空間』 を購入しまして,一応の目標としまして位相空間が理解できるまでと思っています.
例 6.9(82ページ)の上から15行目の (b - a)・ε/2 で,(b - a) をなぜかけるのですか?
それと距離関数になぜ積分値が関係するのか?
値の意味が理解できません.

お答えします:

問題の関数を phi(x) で表します.

最初のご質問の式では,関数 phi(x) の x = 0 から x = 1 までの定積分の値が正であることを示そうとしています. この定積分の値は,x = 0 から x = 1 までの範囲で,phi(x) のグラフと x 軸とで 囲まれた部分 S の面積です.
関数 phi(x) は,区間 [0,1] 内の区間 [a,b] で ε/2 より大きい値を取ります. したがって,問題となる部分 S は,横が区間 [a, b] で縦が区間 [0, ε/2] の長方形を部分集合として含んでいます.
すなわち,S の面積は長方形の面積 (b-a)・(ε/2)(=横×縦)より大きいことになり, 求める定積分の値が正であることが導かれます.

後のご質問について, 集合の要素の間に距離を定めようとすることは,自然な発想だと思います. ここでは,集合 C(I) の要素(=連続関数)の間に距離を定義しようとしています. 集合 C(I) における距離の定め方は,1通りではなく,多くの方法があり, その1つの例が例 6.9 の定積分の値を使った距離です. 本書では,例 6.10 で定積分の代わりに2つの関数の値の差の最大値を使った別の距離の定め方の例を与えています. 実際には,この他にも無限に多くの距離の定め方があります.

つまり,定積分を使わなくても,C(I) の要素の間に距離を定めることは出来ます. しかし,集合 C(I) 上の多くの距離の中で,例 6.9 と例 6.10 で与えた2つの距離は, 数学的に興味深い性質を持ち,特に解析学の研究で重要な働きをすることが知られています. その理由で,本書では例として採り上げました.

以上,お答えになったでしょうか.
M さんの勉強が進むことを祈っています.


NA さんからの質問 #01112

Cantor 集合の完全集合は Cantor 集合と位相同型ですか?

しばらく勉強から離れていたのですが,心機一転,気を新たにと祈願してきました.
さて,Cantor 集合 C の完全集合は C と同相になると思うのですが,どうなのでしょうか?
よろしく,お願いします.

お答えします:

正しいと思います. Cantor 集合 C の任意の完全集合 A に対して, A から2点離散空間の可算積への位相同型写像を作ることができるからです. 作り方は,Cantor 集合 C から2点離散空間の可算積への位相同型写像の構成法を, そのまま使えばよいと思います.


M.O.さんからの質問 #01111

解析学の手段としての無理数の存在に思えてくるのですが・・・?

おおざっぱな質問で申し訳ありません.
さて,無理数についてです.カントールの実数論などで,コーシー列を実数と定義しているように思うのですが,有理数に比べ存在が確定的でなく,何となくなのですが,解析学の手段としての無理数の存在に思えてくるのです.すると,ピタゴラス学派が「万物は有理数」と考えたというのも,ある意味で的を射ているよう にも思えてくるのですが,ご指導よろしくお願い申し上げます.

お答えします:

有理数の世界から実数を定義しようとすると,確かにコーシー列を実数とみなすような考え方が必要になります. あまりよい喩えではありませんが,これは地球から宇宙全体を知ろうといている状況に似ています. しかし,実数について言えば,我々は有理数(=地球)にいるのではなく, 実数全体(=宇宙)を俯瞰できるところで,数学を考えています. 実際,数学を考える際には,実数直線全体を見渡しているのではないでしょうか. そこには,1辺の長さが1の正方形の対角線の長さや,円周率のような身近な無理数が数多く存在しています. 無理数は必ずしも,解析学の手段として考えられたものとは,私には感じられませんが,いかがでしょうか. 回答になっているかどうか分かりませんが,とりあえずお答え致します.


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