読者からの質問と回答 01121 〜 01130
第10章,演習問題 10 - 8 (4) の証明の書き方を教えて下さい.
数直線 R の部分集合族
A_4 = {(a, +∞) : a ∈ R } ∪ {φ, R}
は R の位相構造であるか?
上の問題について,部分集合族 A_4 が和集合に関して閉じていることは感覚的にわかるのですがどのように言葉にしたらよいのかがわかりません!
お答えします:
『解いてみよう位相空間』
問題 8.5(155ページ)に,A_4 が位相構造であることの証明を与えました.
それをご覧下さい.
理解が進むことを祈っています.
連続写像の定義には,なぜ開集合の「逆像」をつかうのですか?
位相空間の間の連続写像の定義に「逆像」を用いるのはなぜでしょうか.
写像による位相構造の保存が連続性の意味であると思うのですが,そうだとしたら,開写像や閉写像の定義の方が,直感的には連続の定義として受け入れやすいと感じています.
大学の講義では,距離空間間の連続写像の定義から命題として,
「写像 f: X ---> Y が連続 <=> Y の任意の開集合 O に対し,f^{-1}(O) が X の開集合」
を導き,これを一般の位相空間における連続写像の定義とする流れをとっていました.
論理展開としては理解できますが,何となく受け入れ難さを感じています.
よろしくお願いします.
お答えします:
連続性が何を表現しているかということを考えてみるとよいのではないでしょうか.
一般に,写像 f: X ---> Y は,空間 X を空間 Y に変形するときの点の対応を表していると考えることが出来ます.
このとき「 f が連続であるとは,この変形によって X が破れない(=切れない)」ことを表現しています。
このことは
『はじめよう位相空間』に詳しく説明しました.
一方,位相空間は,開集合が増加すると離散的な状態になり,開集合が減少すると密着的な状態になるという性質があります.
したがって,写像 f: X ---> Y が連続になる(すなわち,X が破れない,離散的にならない)ためには,あくまで大ざっぱに言えばですが,f によって開集合が増えないことが必要です.
開集合の逆像による連続性の定義は,大ざっぱに言えば,Y の開集合が X の開集合になると言うことですので,f によって開集合が増えないことを表しています.
このことは,集合 X に2つの位相構造 T_1 と T_2 を考え,
写像
f: (X, T_1) ---> (X, T_2)
を恒等写像とすれば,一層はっきりすると思います.このとき,開集合の逆像による f の連続性の定義は,T_1 ⊇ T_2 であることと同値です.
以上が,連続性の定義に,開集合の「逆像」を用いる理由です.
Y.Y.さんと同じ疑問を持つ人は他にもいると見えて,D. J. Vellman という人がトポロジーの講義をしていたら,聴講していた同僚の先生から「像によって写像の連続性を定義することを出来ないか」という質問を受けたと,数学の雑誌に書いています.彼は1つの答えを見つけましたが,そのことも 『はじめよう位相空間』の最後の章で触れておきました.
第11章,定理 11.12 の証明について教えて下さい.
仕事で最適化理論(動的計画法)についての調査などをしているときに,
位相と言う言葉を初めて知り,そこから興味を持ったので先生の著書で勉強を始めました.
早速質問ですが,
『はじめよう位相空間』の 148 ページ(定理 11.12)の証明で,
任意の点 y ∈ A に対して,x ≠ y で X はハウスドルフ空間だから, X における x の近傍 U(y) と X における y の近傍 V(y) が存在して U(y) ∩ V(y) = φ が成り立つ.
という記述があります.
この「X における x の近傍 U(y)」という部分ですが,
これは x の近傍 U に y が含まれていることを示しているのでしょうか.
これだと,U(y) ∩ V(y) = φ を満たさないので別の意味だと考えているのですが,
具体的なイメージが出来ません.
お忙しいところ恐縮ですが,ご教授よろしくお願いします.
お答えします:
ご質問の「X における x の近傍 U(y)」の箇所ですが, これは「U に y が含まれる」という意味ではありません.
この証明では,最初に X - A の点 x を固定します.
次に,各 y ∈ A に対して,x の近傍 U と y の近傍 V で,U ∩ V = φ を満たすものを選びます.
このとき,U と V は,点 y の選び方によって変化します.
すなわち,U と V は y に従属して決まるので,U = U(y), V = V(y) と書きました.
実際,U(y) ∩ V(y) = φ かつ y ∈ V(y) なので,U(y) は y を含んでいません.
以上で,ご理解して頂けたでしょうか.
数学ではよく使う表現ですが,確かに誤解を招く可能性もあると思いました.
貴重なご質問に感謝いたします.
R の部分空間 Z は離散位相空間ですが,離散距離空間ではありません. どこが間違っているのでしょうか?
実数全体の集合 R に通常の距離 d を定めた距離空間において,
整数全体からなる部分距離空間 Z を考えます.
そこでは,例えば x = 10 と y = 1 の距離は d(x, y) = |10 - 1| = 9 です.
一方,R の部分集合である Z を考えた場合,その相対位相は離散位相空間になります.
それゆえ,この場合,距離空間は離散距離空間となります.
そうすると x = 10 と y = 1 の距離は d(x, y) = 1 です.
これは明らかにどこかが間違っていると思うのですが,それがどこかがわかりません.
どうぞ教えてくださいますよう,お願いします.
お答えします:
I.M.さんの上記の考えはほとんど正しいのですが,
「それゆえ,この場合,距離空間は離散距離空間となります」
の所に誤解があります.
距離空間を位相空間と考えたとき,異なる距離空間が同じ位相空間になることがあります.
例えば,
『はじめよう位相空間』の139ページ,図10.3 をご覧下さい.
ご質問の場合で言えば,(R, d) の部分距離空間 Z と,
Z 上の離散距離空間は異なる距離空間ですが,
どちらも離散位相空間になります.
したがって,(R, d) の部分距離空間 Z が離散位相空間になったからといって,
それが離散距離空間であるとは言えないということです.
疑問は解消されたでしょうか.
第4章,問8の解答(197ページ)について教えて下さい.
退職して趣味で数学を勉強しています.
『はじめよう位相空間』第4章,問8の解答(197ページ)ですが,
「リプシッツ定数を越えないとは」はどういう意味ですか.
よろしくお願いいたします.
お答えします:
リプシッツ写像の定義(55ページ)をご覧下さい.
関数 f : R → R の場合で言えば,f がリプシッツ写像であるとは,
ある負でない定数 r が存在して,任意の x, y に対して,
|f(x) - f(y)| ≦ r・|x - y| ・・・(*)
が成り立つことをいいます.
また,このとき,r をリプシッツ定数とよびます.
もし問8の関数 f がリプシッツ写像であると仮定すると,
リプシッツ 定数 r が存在して,任意の x, y に対して不等式 (*) が成立します。
このとき,x ≠ y である x, y に対しては,不等式 (*) の両辺を |x - y| で割ると,
|f(x) - f(y)|/|x - y| ≦ r ・・・(**)
が得られます. すなわち,(**) の左辺はリプシッツ定数 r を越えません.
数学の勉強を続けておられるご様子,嬉しく拝見致しました.
取り急ぎ,ご回答まで.
第1章,演習問題 4 - 9:解答はこれで正しいでしょうか.
演習問題 4 - 9:
(2) ε = 1/5 に対してδ > 0 が存在しない.
(3) p = (1/2, 0) のとき,点列 {P_n} の例としては p_n=(1/2-(1/n), 0).
お答えします:
(2) は正しいと思います.
もちろん,この解答が正しい理由をきちんと理解していることが必要です.
(3) は2つの意味で正しくありません.
第1に,この例では,p_1 が正方形 I^2 の点になりません.
第2に,点 p と p より左側の部分は f によって同時に動くので,
右から p に収束する点列を選ぶ必要があります.
夏休みの間に,もう一度よく考えて下さい.
#01124 のA さんから質問でした.
期末試験は首尾よく終わったでしょうか.
うまく行っても行かなくても,夏休みの間にしっかり復習されることが大切と思います.
勉強が進むことを祈っています
来週がテストですが,演習問題の答えが分かりません.
いま大学の教育学部の数学科で教科書『はじめよう位相空間』を使っていますが,
演習問題の答えがわかりません.
第6章までの問題を自分で考えて方向性だけでも打ち出そうとするのですが,
あっているかわからないので全く自信が持てないし,来週テストなので焦っています.
どうすればいいですか?
お答えします:
演習問題には解答がついていないので,同様のご質問を受けることがよくあります.
A さんは本文中の問はすべて解答されたでしょうか.
数学は段階を踏んで勉強することが大切です.
1.まず本文をよく読んで理解する.
2.問を解答する(巻末に詳解があります).
3.その上で,章末の演習問題に取り組んでみて下さい.
きっと正しい答えがみつかると思います. 数学の勉強は時間がかかるものです. 来週テストだそうですが,1つ1つ段階をクリアしていく以外に, 目標に到達する方法がありません.
焦る気持ちは分かりますが,まず本文を最初から読み直して,問1を解くことから始めてはどうでしょうか. きっと少しづつ力がついて来ることを実感できると思います.
なお,練習問題の解答のいくつかは, 演習書 『解いてみよう位相空間』 と 『位相空間質問箱』 の中に出ています.
A さんの理解が進むように応援しています.
取り急ぎ,お返事まで.
商空間 R/Z は,距離空間とはならないのでしょうか?
実数全体 R を整数全体 Z で割った商空間 R/Z は第1可算空間ではありません. 距離空間は第1可算公理をみたすので,R/Z は距離空間とはならないのでしょうか? しかし,R/Z は円周と同相なので弧長が距離となるように思うのですが.
お答えします:
商空間を表す記号 R/Z には2つの異なる意味があります. それがI.M.さんの混乱の原因だと思います.
1)実数空間 R において,整数の集合 Z を1点に縮めた位相空間を R/Z で表す.
すなわち,R/Z は R の分割 {Z} ∪ {{x} : x ∈ R - Z } による等化空間.
この場合,Z を縮めた点は R/Z において可算近傍系を持たないので,
R/Z は第1可算公理を満たしません.
したがって,R/Z は距離空間ではありません.
2) 実数空間 R において,同値関係 〜 を下記のように定める.
x 〜 y <=> x - y ∈ Z.
同値関係 〜 による R の商空間を R/Z で表す. この場合,商空間 R/Z は,I.M.さんが書かれた通り円周と同相になりますので,距離空間です.
閉区間上の実階段関数全体がつくる位相空間というのは存在するのでしょうか.
閉区間上の連続関数全体がなす位相空間がありますが,閉区間上の実階段関数全体がつくる位相空間というのは存在するのでしょうか. より一般的に不連続関数全体,特定の不連続関数全体,関数全体についても同様のものは存在するのでしょうか.
お答えします:
どんな集合に対しても種々の位相(一例として,離散位相)は定義できますので,
その意味で,閉区間上の実階段関数全体がつくる位相空間は存在します.
不連続関数全体,関数全体の集合についても同様です.
実際の場面では,目的に応じた位相を与えることになります.
以上,参考になれば幸いです.
第3章,演習問題 3 - 4:この問題の考え方を教えて下さい.
お忙しいところ誠に申し訳ありません.
また,分からない点が出てきましたので宜しくお願いいたします.
第3章,演習問題 3 - 4,正方形 I^2 の写像 f : I^2 ---> A による変形に関する問題です.
f(E_1) = f(E_3) は,xz-平面上の円で中心が (3, 0, 0) で半径 1,
f(E_2) = f(E_4) は,xy-平面上の円で中心が (0, 0, 0) で半径 4,
f(L_1) は,xz-平面上の円で中心が (-3, 0, 0) で半径 1,
f(L_2) は,xy-平面上の円で中心は (0, 0, 0) で半径 2,
であると思います. A = f(I^2) はドーナツ状と予測できますが,どのように考えたらよいかわかりません. また,同様の問題ですが演習問題 3 - 3 も判りませんのでヒントをお願いいたします.
お答えします:
点 (1,0,0) を中心とする半径 1 の xz-平面内の円を z-軸のまわりに回転させてできるドーナツ状の図形(トーラスとよびます)です. いろいろな点や辺の像から類推してほしいと考えて出題しました. 数学では,試行錯誤を重ねるような考え方も大切と思います. したがって,M さんの考え方で正解と思います.
0 ≦ a ≦ 1 に対して,正方形 I^2 内の線分 I_a = {(x,a): 0 ≦ x ≦1} の像は,点
O_a = (3 cos 2πa, 3 sin 2πa, 0)
を中心とする半径 1 の円になります.
このことは,像 f(I_a) の任意の点と点 O_a との距離が常に 1 であることからもわかると思います.
そして,実数 a が 0 から 1 まで動くとき,この円の中心 O_a は,原点を中心とする半径 3 の xy-平面内の円周上を一周します.
すなわち,f(I^2) は円 f(I_a) を z-軸のまわりに1回転してできるトーラスになります.
演習問題 3 - 3 について:
点 (0, 0, 1) を中心とする半径 1 の球面です.
答えが分かってしまえば,この点と像の点との距離がつねに 1 であることを示せばよいことになりますが,
先ずはいろいろな点や線分の像から類推されてはいかがでしょうか.
以上,参考になれば幸いです.